先日の深夜2時頃に、アイツが飛び回る、


あの不愉快な音で目を覚ましました。




蚊。




なんだってアイツは、人の耳元近くをムォンムォンと飛ぶのでしょうか。


人の血を吸いたいのであれば、気付かれないよう羽音を殺して、


こっそり寄ってくればいいのに、と思うのですけれども。




何にせよ、一度ヤツに気がついてしまった以上、


退治しないことには、安心して眠れません。


灯りを点けて、憎いアイツを探しました。




しかし、こっちが見つけようとすると、決まって見つからないものです。


まったくもって迷惑なヤツです。


きっと、どこか僕からは見えない場所で仲間を呼んで、


「見ろよ、アイツ必死にオレを探してんぜぇ」


と、笑っていたことでしょう。




もしかしたら、睡眠中と起きているときでは、


呼吸の仕方が違うのでは、と思って、


隣で寝ているムスコの呼吸を真似てみましたが、


「アイツ、二酸化炭素排出量を調節しようとしてんぜぇ」


と、嘲笑う声が聞こえた気がしたのでやめました。




少しビールでも飲んだり、軽く運動したりして、


ヤツが寄って来やすい状況を作ることも考えましたが、


「今度は少しでも新陳代謝を活発にしようとしてんぜぇ」


と、バカにされるのがオチなので、


僕は、あえて全く違うことを考えることにしました。




―――こっちは別に、アンタのことなんか何とも思ってませんよ。


―――アンタのせいで起きた訳じゃあありませんよ。


と、ガッカリさせてやりたかったのです。






小学校の3~4年生のときに、彼は近所に引っ越してきて、


僕のクラスにやってきました。


家が本当にすぐ近くだったので、自然と遊ぶようになり、


彼のお兄さんやお姉さんとも仲良くなりました。


彼等兄弟は3人とも頭が良くて、勉強も教えてもらった覚えがあります。




しかし、彼は私立の中学校に行く準備や勉強で、


6年生になってからはほとんど遊べず、


無事に、中学校に合格した後は、顔を合わすことも一切なくなりました。






会うことがなくなって18年くらい経った今、彼のことを思い出しました。


けして長いつきあいではありませんでしたが、様々な思い出があります。


蚊は、二酸化炭素で人を探しているということも、


物知りな彼から教わりました。






ただ、ひとつだけ、どうしても思い出せないことがあります。






先日の深夜2時頃に、アイツが飛び回る、


あの不愉快な音で目を覚ましてから、


気がつけばもう1時間近く時間が過ぎていました。


ただ、アイツをやっつけたかっただけなのに、余計なことを考えたせいで、


ますます眠れなくなっていました。





彼の名前。




名前、なんだっけ?