2015年12月12日に、本郷の東京大学で開催された
東京大学医療社会システム工学寄付講座・ベリサーブ共同シンポジウム
「品質イノベーションの追求」の中の、

『IoT時代の商品/サービスにおける顧客価値品質造り』
 ベリサーブ株式会社 根本強一氏
 ソニー株式会社 金田富美子氏

に、利用品質関連として興味を持って聴いてきました。
品質保証業界視点でのユーザビリティやUXへの取り組みがわかり、ためになりました。

お2人登壇で、最初は元ソニーの根本氏から。

製造者として絶対に達成すべき品質として
 1.安全確保: 安全な商品/サービスを提供する
 2.法令遵守: 法令/法規を遵守する
 3.機能完全: 約束した機能が提供されている

の3つを挙げられていました。
検証や品質業界に詳しくないわたしにとっては
バグ取り=機能としての品質の担保 というイメージが強かったのですが
安全確保や法令遵守も一緒に考えているんだと知りました。

ただこの3つの視点は、作り手として絶対達成目標の品質であって、
今後はお客様が期待する品質、つまり
 ・他社に見劣りしない品質
 ・お客様の期待に応える品質
が重要になるということで、利用品質であるユーザビリティやユーザー体験(UX)
の方向に意識が向かっているということがわかりました。

お客様がやりたいことを実現できたときに品質の良さを感じ、
楽しみや感動を得られるようにしなければならない。
そのためには、お客様の利用シナリオの把握が重要!
お客様が品質を感じるのは商品を使っているとき、すなわち
利用シナリオに沿ってやりたいことを実現するときだからだそうです。
リアルにデータが取りやすくになると、ますますコンテキスト(利用状況)が重要になりますね。

この利用シナリオは商品企画段階で練られますが、
下流の品質確認や運用の段階で得られた品質情報を
商品企画の利用シナリオにフィードバックすることが重要であり、
従来の個別の品質から「顧客体験としてのシステム品質」を考えなければならないそうです。
品質視点でのHCD(人間中心設計)といえるのではないかと思いました。

2人目のソニーの金田氏は、使いやすさをいかに定量化して
品質指標として使えるようにしたかがテーマでした。

UX・マーケティング本部 企画推進部門 品質・CS推進部の統括部長。
カメラのミノルタ出身で、品質保証関係一筋の方です。
品質関連の部署がUX・マーケティング本部に属し、かつ企画推進部門で意外でした。

指標化の事例として2つ話されました。

まず、使い初めまでの操作性の向上を指標化した話です。
1つの作業を、操作を考える時間、操作する時間、機器からの応答を待つ時間の3つに分けて
ユーザビリティテストでかかった時間を計測します。
探査学習モデルの「目標設定」「探索」「選択」「評価」を利用しているようです。

3つに分けることで、どの部分に時間がかかっているか=問題があるかが分かるため、
これらの作業時間の削減を指標にしたそうです。
確か、テスト対象者を関係者と社内モニターを使って作業時間の比較をしていたと思います。
この方法は、操作時間を比較することによって、ユーザーのモデルとデザイナーのモデルとの
ギャップを抽出しようとしたNEM(Novice Expert ratio Method)を基本的に使っていると思います。

また、顧客からの問合せも使いやすさの指標にしました。
注意した点は、実際のトラブルは問い合わせ窓口に連絡してきますが、
使用上の不満は敢えて問い合わせまですることは少ないものです。
そのため、顧客が寄せてきた“声”を分析するだけではなく、
使用に関して感じていることを積極的に収集して分析したそうです。

次に、取り組み中のUX品質のモニタリングについても話されました。
同一モニターに対してアンケートやインタビューで継続的リサーチを3ヶ月実施しているそうです。
今まで4回のアンケートで評価や意見を収集し、気持ちが変化している一部の人を中心に
デプスインタビューを実施して理由や背景を深掘りしているそうで、
このような長期的なUXを計測している組織はまだ少ないのではないでしょうか。
そして不満情報の開発へのフィードバックは、全体とのバランスを見ておこなっているそうです。
UXのモニタリングによる分析結果がどのような体験の向上につながったか、今後の発表が待たれます!

メーカーの品質部門の、ユーザビリティやUXを意識した
品質向上への取り組みは今後増えていくと思われるので、
第三者検証業界でも機能品質以外の利用品質などへの対応が
ますます必要になってくると思いました。