
さて、外反母指なのだ。 ありゃ、これは漢字が違う。 「外反母趾」 が正しい。 ま、医学用語なので…。 めんどくさいんだ、医学用語。 意味はおんなじ。
足の親指の付け根が内側に突出し、母指全体が外側に 「く」 の字に曲がる変形を 「外反母趾」 という。 ハイヒールのような先の尖った靴を履き続けると、身体の重心がそちらにかかり、次第に足の母指が曲がってくる。 そのうちに母指の付け根が靴に絶えず触れるようになり、「バニオン」 という腫物を生じる。 これは第一中足骨骨頭内側の異常な突出をいい、腫れ物の中に 「粘液嚢」 といって、ねっとりとした液体の入った袋までできる。
ハイヒールは16世紀のパリで流行ったと訊く。 当時パリの家々にはトイレがなく、肥桶に溜めた糞尿を窓から路上にぶちまけた。 結構毛だらけ猫灰だらけ、歩道の上は糞だらけ。 うんこがドレスにつかないように歩くために、ハイヒールが流行ったという説があるが、これには否定論も多い。 おじさんは16世紀のバリに生きていないので、何が何やら。
さて、外反母趾だ。 本題に戻ろう。 さらにひどくなると母指が第二足指と重なり、ときには直角に近く曲がったりする。 近年、中高年の女性がこの変形による障害を訴えて整形外科を訪れるケースが増大しているという。 朝起きて夜寝るまでずっと木靴を履いていた西欧人にとって、外反母趾は深刻な悩みのタネだった。
さて、冒頭に掲げた絵画、ボッテッチェリの 『ヴィーナスの誕生』 だが、この絵のモデルは両足ともに外反母趾を呈し、特に右足はすでに母指と第二足指が重なり始めていることがわかる。 ヴィーナスの左手に立つ女神 〈時間の精ポーラ〉 も足の付け根が出っ張ってて今にもバニオンができそうな変形がみられる。 このモデルは、かなりのあいだ窮屈な木靴を履かされていたに違いない。
人の足は大まかに三つのタイプに分類される。 足の親指が第2足指より長いものを 「エジプト型」、逆に第2足指が親指より長いものを 「ギリシア型」、そして母指と第2足指が同じ長さのものを 「方形」 と呼んでいる。
浮世絵の女性たちを調べてみると、いずれも母指の長いエジプト型に描かれていた。 どうやら浮世絵の足指はこのように描写するのが定法のようだ。 いっぽう和風の足袋は母指と第2指の長さを等しくするように作られていて、足袋の形から言えば、昔から日本人の足は方形が多かったといえそうだ。
エジプト型は母指が長いため、靴の影響をもろに受けて外反母趾に陥りやすいかといえば、そうとも限らない。ギリシャ型で足指の変形のある人はいくらでもいる。 ボッテッチェリのヴィーナスはギリシャ型でありながら外反母趾を呈しているし、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサの両足はギリシア型だったが、彼女はひどい外反母趾に悩んでいたという。 ついでに言えば、ミロのヴィーナスの右足はギリシャ型だが外反母趾ではなさそうだ。
さて外反母趾の治療だが、初期の症例では母指と第2指の間にくさび状の型をはめたり、母指を内反させる矯正装具が用いられる。 かつての日本人はしょっちゅう下駄や草履をつっかけて足指に矯正装具をはめるのと同じ効果を与えていた。 これでは、外反母趾など発生する暇もない。 外反母趾でお悩みの方は、今からでも遅くない、なるだけ和装をして下駄や草履をはいてはいかがなものか。
わたしが出演した 『ストリッパー物語』 の和田誠さんのポスターは、この作品へのオマージュだった。 秀逸なパスティーシュ。