アニメを作る人たちの、熱いお話です。
「ハケン?覇者の権利、の覇権?なんだ、びっくりした。馬鹿にされてんのかと思った。フリーランスが多い業界だから、派遣社員で作ってるって。やな言葉だね。それ。
誰が決めんの?どれが一番儲けたかってこと?アニメって勝たなきゃいけないの?頂点とった一つ以外は負けなの?
そりゃ儲かるに越したことはないし、利益は出さなきゃいけない。わかってる。
でも、同じ期間に作られた他のアニメ全部を制圧して一位になろうなんて、俺は思わない」
(作中、アナウンサーに「ハケンアニメ」という話題を振られて、鋭く噛みつくアニメ監督のセリフから抜粋)
「ハケン」とは、派遣ではなく、覇権。
そのクールにおいて一番を獲ったアニメに与えられる称号です。
アニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」に対して、アニプレックスの広報の人がこの言葉を使ったのが最初と言われています。
一昔前だと、涼宮ハルヒ、fate、けいおん!、化物語、など。近年だと、艦これ、おそ松さん、ラブライブ、このすば、などが覇権アニメに当たるそうです。たしかにどれも印象深く、覇権の名に相応しい作品ばかりです。
この覇権というものには、春夏秋冬の4クール毎の覇権と年間通しての覇権があり、単純な視聴率ではなく(いまのアニメは深夜枠の放送がほとんどだし、リアルタイムで視聴する人がそもそも少ないので)、話題性、グッズ、そして主にDVD・Blu-rayの売上枚数によって、決まります。ファンたちの間で、今期はどのアニメが覇権アニメか、という論争も巻き起こります。
この作品では、そんな覇権を争って各社が奮闘する様を描きます。
監督、プロデューサー、アニメーター、声優など、作品に直接関わる人たちから、フィギュア製作会社、地方公務員、商工会の老人たちなど、間接的に関わる人たちまで、個性豊かなキャラが作品を盛り上げます。
全四章で構成されており、各章ごとに主人公が変わります。
一章は、九年前に作ったアニメが大ヒットし、若き天才と言われたイケメン監督・王子と、「彼女が参上すると原画が上がる」と言われた名物進行(シビアなアニメ製作のスケジュール管理などをする大変重要な役割の人)で、現在プロデューサーの長身女性・有科の二人が、支えあいながら、九年振りの王子作品となる魔法少女アニメを作るお話。
二章は、大手アニメ会社に勤め、名門大学の法学部を出て、なぜアニメ会社?と揶揄されがちな女性監督・斎藤と、かつて王子とも組んだことがあり、いろいろと黒い噂もある敏腕プロデューサー・行城が、アニメのゴールデンタイムと言われる夕方のロボットアニメを作るお話。
三章は、新潟にある小さなアニメの下請け会社で細々と依頼された原画をこなしつつ、同時期に放映された王子作品と斎藤作品の2つの原画を手掛けたことから「神原画マン」と呼ばれるようになった地味な女性アニメーター・並澤さんと、アニメの聖地巡礼による地元の活性化に情熱を注ぐ暑苦しい地方公務員のお話。
最終章では、それまで別々の場所で別々の仕事をしていた各章の主人公たちが一同に会し、一つの事を成し遂げる、というムネアツな展開です。
文庫では、最終章のあとにオマケとして、フィギュア製作会社のメガネ男子と、売れっ子女性原型師のお話が書き下ろされています。