ブラックボックス

骨盤は、姿勢に応じて、開いて、閉じる。

例えば深呼吸をした時、息を吸うと広がり、吐くと閉じる。

 

『胸式呼吸は胸が膨らんで、腹式呼吸は腹が膨らんで、』などと、息の吸い方ばかりに気を向けていると、骨盤は広がる方に緩んでしまう…かも知れない。

 

 

という訳で、私はじかれるが『骨盤は動かせるのか、本当に閉じたりできるのか』というテーマに対し、一般素人から全てのプロフェッショナルに至る、その知識を全部一掃・統一する骨盤解説動画の金字塔を、打ち立てようと思う。

 

 

運動学、機能解剖学の〝ブラックボックス〟と言っても過言ではない骨盤理論。

ご意見ご指導ご感想。どうぞ宜しく、お待ち申し上げます。

 

 

 

骨盤とは何か

「骨盤」は、3つの骨が集合して出来ている。

骨組みとしては肩と同じ。2枚の「肩甲骨」、そして「背骨」という2対1の構成。

 

 

名前はそれぞれ、肩甲骨の部分は「寛骨」、後ろで挟まれる背骨部分は「仙骨」という。

 

「寛骨」に関しては更に「腸骨」「坐骨」「恥骨」という3つの領域に区分されており、この呼び名の方が知名度が高い。

18才位までは、この3部分の境はまだ骨となってない軟骨の素材であり、時期が来て骨になるまでこの境目で大きさの成長をつくっている。寛骨に限らず、全身の骨はそうして大きくなる。

 

骨盤と肩を対比してみれば、「腸骨」が肩甲骨に相当、「坐骨」は肩峰部分、「恥骨」は鎖骨に相当する(㊟はじかれる推論)。胸骨は左右の恥骨間にある恥骨結合である。

 

 

この動画では、全体を表す「寛骨」に対して便宜的に「腸骨」と言ってしまっている。理由は色々あるが、大きくは説明がシンプルにできる事と、「仙骨」と関節しているのが「腸骨」であるからだ。

 

 

「仙骨」は元は背骨の縦4つで、それが完全に一体化して出来上がった骨。

ちょうど手のひらがフィットしそうなその骨は、全身の骨格の中枢といえるし、全体重心の位置でもある。

 

 

2枚の「腸骨」と1枚の「仙骨」は、繋がって輪になって「骨盤」という共同体を作っているのだが、その繋ぎ目はちゃんと動く構造になっている。

「骨盤」とは、〝動く輪っか〟なのである。

 

 

 

骨盤の前傾と後傾

それでは「腸骨」と「仙骨」からなる「骨盤」が、どのように動くのか、その説明をする。

 

 

しかしその前に、まず巷の骨盤イメージを左右している有名ワード、「骨盤前傾」「骨盤後傾」という言葉について、見解を述べなくてはいけない。

骨盤姿勢と全身姿勢を紐づけてしまう、この影響力の強い言葉を伴って、この動画を観て下さっている方も多いと思うから。

 

 

これは人の姿勢を表す言葉で、骨盤が前下がり(=後ろ上がり)になっている状態を、前に傾くと書いて「前傾」、後ろ下がり(=前上がり)の状態を後ろ傾きと書いて「後傾」としている。スポーツの運動フォーム、あるいは〝正しい姿勢〟〝良い歩き方〟などのフィットネスにおいて、もはや一番重要な指標と言って過言ではないほど。

概念的には、『骨盤前傾が善し、骨盤後傾が悪』であり、『外国人は骨盤前傾だが、日本人は骨盤が後傾して姿勢が悪い』なんていう文言もよく見かける。『骨盤の前傾し過ぎ、反り腰も実は良くない』なんていう注意喚起もありがち。しかし『骨盤後傾こそが良い姿勢』などという意見は、おそらく現時点でどこにも無い。皆様がこの動画を見終わる前、までは。

 

 

これがだいたいの「骨盤前傾・骨盤後傾」。

 

しかし、次の3つのパターンをみて欲しい。

パターン1

仙骨と腸骨が一緒に傾く

パターン2

仙骨だけが傾く

パターン3

腸骨だけが傾く

 

腸骨仙骨をひと塊にしてみているパターン1と、分けてみるパターンの2と3という図式。一口に「前傾後傾」と言っても、この3つのどれなのか、そのへんが曖昧な現状がある。

大雑把に言えば、パターン1が一般的な見方であり、2と3に考えが及ぶのは仙骨腸骨の動きを把握した専門的な見方となろう。この話は、後ほど明快にしていく。

 

 

『なんだか細かすぎるんだけど…』

 

人型ロボットを想像してほしい。一昔前はこれで、最近のがこんな感じ。

人の動きに近くなるほど関節の数は増えていく。単に人っぽくする為の飾りではない。

関節が少なければ、移動に際して傾きで対処しないといけない。傾くと頭の位置がブレる。視野が安定しない、距離や方向や角度が動くなどと、情報収取がお粗末だったら、精度の高い事(時計職人)は何もできない。こんな種は途絶える。

自分の移動とセンサーの位置保全を両立させる為に、関節はそこに有る(走るチーター)。関節の解明なくして、人の動きは語れない。

 

我々は、常に重力に対応しており、全ての動きの中に〝バランスを取る〟が入っている。

そこを加味して、初めて動作は理解できる。無重力での活動だったら、関節こんなに必要ない。

 

 

行き着きたいゴールは、競技者、表現者、演奏者、それら全ての身体的パフォーマンスの向上。

必要なのは、重力を超える事(アニメ)ではなく、重力への対応を極める事(合理性)。

〝動作〟とは、「荷重」と「重心を外す」の、表裏をなす二面で成り立っている。そしてまずは、骨格の中心である骨盤に表れるこの表裏を理解しようというのである。

 

 

話は逸れたが、骨盤前後傾に対するパターン123の話で、実は問題なのは2と3の違い。

この後述べてゆくので覚えておいてほしい。

 

 

 

骨盤はどのように動くのか

基本的に解ればよいのはワンアクションの流れだけ。開くか閉じるかの、一本道の往復である。

ただし、〝右と左が逆〟という展開になる。そこからが実用的で面白くなってくるのだが、まずは基礎知識が大事。左右同一で理解し、イメージできるようにしておく。

 

 

ここで必須な専門用語に「仙腸関節」が登場する。読んでそのまんま、「仙骨」と「腸骨」の繋ぎ目の関節名。

名前はあっても、その動き方は実は正式に明快になっていない。仙腸関節の話にいつも出てくるのが、『解剖学的に仙腸関節は数ミリだけしか動かない。通常2~3ミリの最大でも8ミリ程度。実質動かない関節。』というもの。ユーチューブとかで『骨盤矯正ダイエットのウソ』などという見出しの、フタを開けてみれば皆これが根拠になっている。

しかし体の表面から骨盤を触れば、身体の操作によって左右がちゃんと開いて閉じる。3センチくらいならだれでも動く。

で、どうなっているのかと言えばそのカラクリは単純。動きの根元では数ミリでも、10センチの外周になれば動きは倍増するってだけの当たり前の事。角度も大きく変わる。骨盤、メッチャ動く。

 

そこに関節構造があるんだから、動かして進化してきてるのは明白なのだ。出産のためだけにあるっていうのなら、男は不動関節であるのが合理的。

 

もう一つ専門用語で、〝関節が『締まる』『緩む』〟という言葉も出てくる。関節には、骨同士がカチッと嵌まり込む姿勢と、グラグラ緩みのある姿勢があるという話。どの関節も一緒。

これも〝姿勢〟を理解する上で必須の知識になる。

 

 

 

やっと本題の〝仙腸関節の動き方〟の説明に入る。

〝腸骨が仙骨上をどのように動くか〟という、〝パターン3〟の視点で解説してゆく。

 

 

まず「骨盤が開く」の場合。

腸骨は前方向に向かって、〝前回り、前進、前開き〟となる。

 

深呼吸で息を大きく吸い込み、腰を反らせてお腹を前に突き出した姿勢で成ります。

 

動きの見た目を象徴する〝前回り〟に関しては、仙腸関節の動きでなく〝緩めたロープでたるみが出た状態〟なイメージの、飾り言葉として捉えてほしい。〝前出し・前開き〟の引き金になる全体的なアクションである。

 

実質となるのは〝前出し〟と〝前開き〟の動き。

どういう風に『骨盤は開く』のか。

 

デフォルメして説明する。

腸骨側はカマボコ型の凸形状、仙骨側がカマボコを受ける溝形状で、カマボコに対して溝がやや浅い状態。骨盤に対する角度はこう。

 

この状態に対し、前回りしてお腹が腸骨を前に引き出せば、カマボコはクルっと外広がりに滑り出し、腸骨は蝶の様に羽を開く。このアクションを「アウトフレア」という。

仙骨前部分の広がりに対し、仙骨の後ろ部分は閉じつつ引っ込む。するとこの辺りを取り巻く仙腸関節の膜(靭帯)がたるみ、結果的に骨同士の連結を緩ませて遊びのある状況を作る。「関節が緩む」と表現した状態である。

アウトフレアは、仙腸関節の〝緩みの姿勢(位置)〟という事になる。

 

腸骨は前下がりにカパッと開き、その下の恥骨の連結では、〝胸骨の下半身版〟と説明した軟骨のゴムが、動きの圧力をいなしている。

恥骨のラインの下、〝肩峰の下半身版〟たる坐骨は、腸骨の開きに相対して逆に閉じる。

 

この一連の動きに伴い、モモの骨がジョイントする股関節の位置は後退する。

体操で前屈する時のアドバイス、『足の付け根を押し込むと良く前屈できるよ』というのは、つまり腸骨のこの動きを誘導している訳なのだ。

 

「骨盤が開く」すなわちアウトフレアの、これが全容となる。

 

 

 

お次は閉じる方。

内容は「開く」の真逆で良いのだが、ただしこちらには努力が必要。

 

腸骨は〝後ろ回り、後退、前閉じ〟となり、身体の中の息を全部吐き出し切るような状態で成される。

 

しかし、アウトフレアと違って、成り行きまかせには骨盤は閉じない。というか、みんなが思っているような息の吐き方では、息はちゃんと吐き出せない。

要は〝前かがみ〟になってしまうといけないのである。胸郭が閉じれない。肺を限界まで小さくできない。

息を本当に吐き出すためには、胸を起こし、みぞおちを高く保っていなければいけない。これで初めて肋骨というブラインドは深く閉じられる。

体幹の筋肉は総動員。息を吐き、骨盤を閉じるには知識と努力が必要なのだ。詳しいやり方とメカニズムは、続編動画でバッチリお伝えするので、ここではここまで。

 

 

お腹が凹んでゆき、肋骨も腸骨もみんなおへそに吸い込まれて行く状況の中、腸骨はグイグイ〝後ろ回り〟していく。ロープのたるみを全部巻き取って、背骨と仙骨が真っ直ぐの一本柱になった所で、腸骨のカマボコは仙骨の溝に対して内回りする。

 

息を吐き出すために働く筋肉が、腸骨を斜め上に引き込むと、カマボコは内に閉じ込むように回転し、開いていた蝶の羽は身体の中に納まるように閉じてゆく。

「インフレア」である。

 

仙骨の後ろでは、カマボコの構造理論に従って腸骨が広がりながら突出してくるので、この辺りを取り巻く仙腸関節の膜(靭帯)がパツパツになって張りつめる事となり、仙骨との連結をガッチリと噛み合わせて一体化させる。いわゆる関節の締りが起こるのである。

慢性腰痛の治療で、仙骨に手を当てながら体を反らせる体操が良いというアドバイスがあるが、要はアウトフレアで緩んでズレている仙腸関節を、締りの位置に誘導しようという内訳である事が判る。

 

坐骨は、腸骨の閉鎖に逆転して開く。股関節は前進する。

 

股関節の位置が前になると、あるいは後ろになると、重力という大地の上で、全身姿勢にどう関わってくるのか、人体の機能性と姿勢の美しさをテーマにした続編動画でまたお伝えしたい。

 

 

 

ちまたの理論との整合性

この動画で骨盤の動きと出会い、もっと仙腸関節を知ろうと他にも検索する知識欲旺盛な方がいるかもしれない。

あるいは、腰痛や姿勢の話とあらばどこでも必ず出てくる「骨盤の前傾と後傾」と、この動画の説明との整合性をどうしたら良いか、混乱している方もあるかもしれない。

そして仙腸関節を取り扱う専門家の方々。『仙骨のお辞儀』とか『ニューテーション』とかって言いながら、手をヒラヒラさせながら〝仙骨の動き〟からイメージする仙腸関節(パターン2)と、この動画の様に〝腸骨が動く〟と見た場合(パターン3)では、仙腸関節の姿勢は同じなのに、全身姿勢が真逆になること、お気づきであろうか。

争点になるのは、実際大地に立って動作する人間の、腸骨側がメインで動いているのか、それとも仙骨側なのか。

 

 

僕が整骨院の院長などしていた十数年前のころ。

『先生、姿勢が良くなるにはどこの筋肉を鍛えたら良いですか?』のような問いに僕はいつも『お尻とお腹』と答えていた。

だけどこの回答が口を出た直後に必ず、僕の頭の中では?マークがヒラヒラと舞うのである。

 

殿筋と腹筋の、筋肉が締まればいずれも骨盤は後傾。

 

骨盤後傾は悪い姿勢のはず。

 

当時は僕も、『骨盤前傾が善し、後傾は悪し』の一般常識に何の疑いも無かった。重要な指標の一つとして、治療や施術や指導を行っていた。

ならば腹筋や大殿筋の筋トレを勧めるのはなぜか。

 

僕の判断基準に『骨から遠いところにある筋肉を鍛えろ』というのがある。

身体の前後や内外で拮抗して働く筋肉に対し、どちらが骨に近くてどちらが骨から遠い筋肉であるか。例えばモモならば、前と外(大腿四頭筋、腸脛靭帯)は骨に近く、後ろと内(ハムストリングス、内転筋)は骨から遠い。

大殿筋は骨から遠く、拮抗筋の腸腰筋は近い。腹筋は骨から遠く、拮抗筋の多裂筋とかが骨に近い。

 

骨に近い筋肉は、ダラっとした姿勢、膜組織のテンションで支えるような姿勢の時に働く筋肉で、肩コリや背中の張りなどはその結果だが、いつも張りつめてタイトになっているからそこはマッサージやストレッチでほぐすべき場所の判断となり、その逆側にある筋肉は、ダラっとしてる分には使わない。今の僕に言わせれば、体を高く伸ばす時にしか出番がないところ。本当の意味での抗重力筋。意識して鍛えないと衰えてしまう場所。

 

と、そんな僕であったが、治療よりも運動指導をメインの仕事にしたのがきっかけで、人の荷重した骨格のパターンについて多く考えるようになった。そしてその中で、どうしても仙腸関節で辻褄が合わないのだ。

そんな日々が数年続いたある日の事、仙骨のお辞儀ではなく腸骨のカチ上がりに思い至った瞬間はまさに青天の霹靂だった。(フェルマーの数式)

 

このエピソードの詳細になる運動学はまた別動画にするが、とにかく教科書的な〝仙骨がパタパタ〟の構図がもたらす弊害は、全身姿勢を勘違いしてしまう事と他に、仙腸関節が耳状面で時計の様に回転するイメージになってしまう事。

これから別動画で仙腸関節を検索して下さる方は、この回る仙骨に100%遭遇する事になるから注意してほしい。(何を隠そう、僕の前回作った動画で、寛骨だけど僕もクルクル回してる。立体映像の作り方を憶えなくては)

 

仙腸関節の合わせ目はこんな形になっている。「耳状面」という。この「くの字」の合わせ目が、スリスリとスライドしたらはみ出す。外れる。そんな出来損ないが、自然界の結晶であるはずがない。

耳状面の長い方はカマボコ構造の場、そして短い方はアウトフレアの車止めになると僕は思う。特に出産では骨盤の輪を限界以上に広げなくてはいけない。最後の瞬間はアウトフレアからインフレアにするのかな?耳状面の短枝の場所は、恥骨結合から一番遠い対角位置にあり、何らかの応力を効かせる場として存在があるのだと思う。

 

世界で一番新しく興味深くて信ぴょう性も高い仙腸関節考察ではないか。byはじかれる。

 

 

仙腸関節は凹凸構造理論のもと、寛骨の三次元的な動きで把握しなければならない。

『仙骨のお辞儀は、上への移動を伴う』とか局所局所の端的な動きを、独立した動きみたいに羅列するからおかしなことになる。異次元の関節にしか思えない。しかも仙骨基準だから実物と逆。

立体映像の無かった何十年も前の説明が、伝言ゲームの様に実像と離れて伝わったものなのか、それとも欧米から入った文献を翻訳した大先輩がダメだったのか。

 

それが巷の仙腸関節の説明である。

 

 

「骨盤前傾後傾」は、こんな対比で描かれている。

この「骨盤後傾」の絵。これは確かに悪い姿勢だなあと納得させられてしまうのだが、実は骨盤後傾をどうしても悪者にしたい悪意の味付けがされている。最強だった日本人を運動音痴にさせて抑え込もうとする列強諸国のマインドコントロールかも知れない。

この対比は、よく見ると骨盤後傾だけ背骨と脚の角度がおかしいのだ。他のに倣ったらこうなるはず。真っすぐの、ビッとした姿勢。

マインドコントロール関係なくて、単に〝骨盤後傾=腰椎後湾=老人〟って思い込みが強いだけ。

 

 

そんな話でこの動画は終了。

次の動画では、この動画で説明した仙腸関節を、全身的な骨格の動きに絡めて解説する。

すぐ作ります。どうぞご期待下さい。