ルドルフ大公との別れをイメージさせる第1楽章に続いて、第2楽章は、ルドルフ大公が去っていったウィーンでのベートーヴェンの心境が反映されているようです。アンダンテ・エスプレッシーヴォのゆったりした音楽です。楽譜には、“Abwesenheit”(不在)と書かれており、さらに“Ingehenden Bewegung, doch mit viel Ausdruck”(ゆるやかに表情を込めて)とあります。これからして、第2楽章は寂寥感、孤独感を湛えた音楽と分かりますね。
この第2楽章は二部形式であり、普通ABABと表記され、AとBの2つの主題が順次現れる単純な構成です。しかし、ベートーヴェンのことですから、2回目に現れるABには当然工夫が施されることになり、従ってABA’B’となる訳です。調性が♭(フラット)が3つ付くハ短調です。しかし、初めから終わりまでずーっとハ短調かといえばそうではなく、始まりの主題Aからしてト短調です。第1楽章でもそうでしたが、様々に調性を変えて、微妙に気分が変わるのです。
ト短調の主題Aは付点リズムを伴った淋しげなメロディであり、5度の跳躍があるものの俯き加減です。また、4小節からなりますが、最後の部分は一瞬ト長調となり、フッと頭をもたげるのです。しかし、つぎの瞬間ハ短調になった主題Aが現れ、微妙に異なる淋しさになります。そしてそれはヘ短調となって発展し、クレッシェンドして寂寥感はさらに積もり、sf(スフォルツァンド)で強調したフレーズになります。
32分音符の清らかな橋渡しの後、主題Bが現われますが、これが32分音符の伴奏を伴ない、ト長調のスラーの付いた伸びやかで美しいメロディなのです。淋しい想いとは対照的に、平安が訪れますが、やがて微妙に転調し、クレッシェンドした後、ほとぼりを醒まします。
そしてA’、B’へと移行します。A’は主題Aがヘ短調となり、7度高く、その主題は繰り返さずに、発展します。32分音符の橋渡しフレーズの後、B’になり、最後は主題Aの付点の音形が回帰し、寂寥感を深めて、ピアニッシモで高みへ昇って消え入ります。
わずか42小節の音楽で第1楽章と第3楽章の橋渡しと言われることもありますが、はやり空しさを深く追求した素晴らしい音楽ですね。勿論、第2楽章のこの寂寥感があってこそ、第3楽章が生きてくるというものです。