白鳥の歌⑥ 〔チクルスの楽しみ〕 | ここあのブログ

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ログハウスに住みついて、ピアノを楽しんでいます。
ネタは音楽・美術・季節の話題を中心に様々です。

最後の1曲。

これを書かずに年は越せまい

前回、ハイネのDoppelgänger(ドッペルゲンガー)影法師の
アーメン終止で、一つの区切りがあった。・・・
そのまま終わっても、『冬の旅』のラスト(辻音楽師)に似た雰囲気で
違和感はなかったかもしれない。


『白鳥の歌』にはもう一つ第14曲目が収められている。

鳩の使い(Die Taubenpost)
この曲のみ、詩はJohann Gabriel Seidl(ザイドル)による。

7節あるので長くて引用できないけど・・・

恋人のもとに思いを届け、返事を持ち帰ってくれる忠実なる鳩の使い(伝書鳩)。
恋が終わって、涙を運ぶことはできないが鳩にとっては、
空を旅することさえ出来れば、十分。
鳩は疲れもせず飽きもせず、僕に忠実に尽くしてくれる。
そんな美しい鳩をこう呼ぶ・・・

Sie heisst die Sehnsucht ! (彼女(鳩)はあこがれ!)※
kenn ihr sie ? (知っていますか?)
Die Botin treuen Sinns ?(忠実な心をもった使者を?)
(※Taubenpostは女性名詞なので Sie彼女)
〔7節より〕


この曲は1828年10月に完成し、翌11月にシューベルトは没す。
31歳という若き最晩年の曲、その詩に″あこがれ (Sehnsucht)″
というキラキラ言葉が7節目の最後に出てくる。

31歳、枯淡の味わいとは程遠い瑞々しさが、曲全体に漂い、
死を微塵も感じさせず、未来さえ見えるこの曲。

「これで最後?」と思うと、とても涙なしでは聴けない、弾けない。

シューベルトは、なんでもかんでも詩に曲を付けたわけではなく
心に響いたもののみ、そう考えるとザイドルの詩に
シューベルトが感じたものはなにか?
それが旋律、ハーモニーとなって一つの歌曲に込められている

それを解読していくのがこの上なく楽しい



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歌曲集「白鳥の歌」はそういう詩集があったのではなく
レルシュターフとハイネの13曲に最後の歌曲である鳩の使いを追加して
1829年(没翌年)5月にドビアス・ハリンガーにより出版された。
(BärenreiterのVorwort(序文)による)


連作ではないから、ドッペルゲンガーと鳩の使いは
ガラっと世界が変わっていたのだね。

編集上の偶然とはいえ、
第1曲″愛の便り″が躍動感溢れるト長調だったのと、
同じ調性で、″鳩の使い″もト長調。
一歌曲集としての纏まりがいいね。

歌手によっては、13曲歌ったあとで一旦ステージから去り
鳩の使いをアンコールにする人もいるそうだ。
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いろいろ分析すると、いわゆる非和声音を多用していなせいか
とても素直で素朴で裏表がない。(人柄そのもの?)
転調もト長調→変ロ長調→ト長調と奇抜さはない。
聴いた人が印象にのこるのはきっとここ(タンタララララララ♪)


音階が可愛らしい印象を残してくれる。
じつはこの部分、偽終止→全終止 という部分で
つまり、ストレートにゴールせず、もう一度確認する丁寧さの表れ。
詩も反復することになる。(大事な部分ってことね)

ザイドルの詩7節のうち、2,4,6,7節の最後1文が
この偽終止→全終止のかたちをとっている。美しい


″鳩はあこがれ″を含む7節目は、2度繰り返されるのだけど
シューベルトは単純に反復記号を使ったりせず、2度、
きちんと書いている。
1度目はト長調からハ長調的、イ長調的和音を経て主調へ戻る。
2度目はト長調から変ホ長調的和音を経て主調へ戻る。

まったく同じ詩に違う調性で色付けしたということは、
いかにこの7節をシューベルトが大事にしたか
ということが読み取れる。
死のひと月前に″あこがれ″を大事に・・・

またもや涙が止まらない。。。

明るく可愛い曲だからと、
能天気に弾けるような曲ではなかった。


でもとっても幸福感に満たされる一曲です
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というわけで、歌曲は知れば知るほど怖くて弾けません!
いえ、技巧にとらわれず、心で弾く(歌う)という大事な視点を
もう一度呼び覚ましてくれたシューベルト歌曲でした。

本当に勉強になることだらけ、まだまだ深く掘り下げて
どんどん新発見をしていきたいシューベルトの世界!
歌曲を探ることで、ピアノ曲の見え方が全く変わりました(いい風に)

これで、長丁場(のびのび)となった〔白鳥の歌〕は終わりです。
知っている方も、何言っているか全然わからんという方も
読んでくださりありがとうございました。


鳩の使い ← クリック

(古いテノール歌手、ピーター・アンダース)