カンタータを聴く 14。BWV60 | ここあのブログ

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ログハウスに住みついて、ピアノを楽しんでいます。
ネタは音楽・美術・季節の話題を中心に様々です。

"おお 永遠 そは雷(いかずち)の言葉"
 "O Ewigkeit du Donnerwort"BWV60
三位一体節後第24日曜日
初演1723、11月7日 ライプチヒ
(バッハがライプチヒに引越して半年)

昨年夏に楽譜を買ったままになっていたカンタータをちょっと聴いてみようと思う。



書いてあるとおりこちらは対話(Dialogus)形式のカンタータだった。
構成;ATB 合唱 ホルン オーボエダモーレ 弦楽 通奏

カンタータBWV60  ←クリックすると聴けます
ヘルムート・リリング指揮
シュットガルト・バッハコレギウム、聖歌隊
ヘレン・ワッツ(A)アダベルト・クラウス(T)
フィリップ・フッテンロッヒャー(B)


死に対する恐怖をアルト(A)、希望をテノール(T)が対話する形で進んでいく。

アリアとコラール(D-dur 4/4)

出だしを聴くとMozartのディベルティメントK136の1楽章のようだわ。
明るく軽快なスタート
主音(D)がずっと底辺にあり、細かい刻みは喜びにも聴こえるけど
アルトが歌うコラールは死、永遠への不安や恐怖。
定旋律はコラール集に見つけることが出来る。



一方テノールのアリアは"神の救いを信じて待つ"と歌う。
その対話する両者の間を2本のObaが美しくからまってくる。
不安を和らげるような優しい音色。

レシタティーヴォ(A T)(4分51秒~)
これも恐怖(A)と希望(T)の対話
聴きどころは・・8小節目のAのメリスマでmartert(苦しみ)を
半音使いの旋律に乗せて3小節引っ張る!
平均律Ⅰ-24h-moll Fugaのあの短2度のmotivを彷彿とさせる。

それに対しTは・・21小節後半から最後までを同じくメリスマで
ertagen(耐える)と3小節引っ張るところ、希望らしく曲はG-durで終わる。

※メリスマとは・・一音節に多数の音(音程?)をつけて引っ張る歌い方

2重唱アリア(h-moll 3/4) (7分18秒~)
 今度はAとTに加え、Odaが死の恐怖、Vnが安らぎへの期待
という役割を担う。
この2種の楽器とAとTの4者による対話が見事!
そして最後はTのこれまた長いメリスマ(5小節引っ張る)で安息を歌い
恐怖を和らげさせる力強ささえ感じるわ。

レシタティーヴォとアリオーソ(A B)(10分43秒~)
今度の対話は恐怖(A)とキリスト(B)による。

Aの不安にキリストは3回語りかける。(アリオーソ)
"幸いなるかな 死者たち"と来世への希望を点じる。
1度目はD-dur 2度目はE-dur 3度目はC-durで
さらに拡張してe-mollへと引き継がれる。
拡張した分、語りかけも強くなる。
バスのフッテンロッヒャーの沁みるような語りかけが素晴らしい

このキリストの語る旋律が美しく、ピアノで弾いてみると
メリスマの部分、このフレーズが



イギリス組曲5番のGigue(Fuga motiv)と酷似。
たまたま二日前に弾いていたので記憶とリンクした


この直後にナポリの和音を通ってe-mollの終止とともに
キリストの語りが終わる。
その言葉が響いたか、A(恐怖)はWohlan! と叫び
希望、魂を見出すことができた

最後Freude tunで終わる


コラール(A-dur 4/4) (16分04秒~)

主のもとにある死者の安息を歌う。定旋律はこちらコラール集より
今や、満ちたれり・・

この第5曲コラール、聴いた瞬間、むむむ!?
なんと不思議な響き(進行、和音)??こんなBachは初めてかも?
ラーシード(♯)-レ(♯)の増4度という進行とガラリと変わる和声。
(旋法でいうとリディア)それはいいとして、Ⅱ度ⅤからⅡへ行かずに
Ⅲ度Ⅴへ行く様にドキっとさせられる!
2回目のときはⅣ度Ⅴ7からⅤ度Ⅴ根省(減3和音)という
不安定な音で一旦フェルマータ停止。
次で解決するのでホットできるけどちょっとビックリな世界を漂った印象。
(小難しい話になったのでスルースルー


不可解な和音も霧が晴れるようにすっきりと最後はA-durで
後味よく終わった

Esist genung と繰り返しながら。
ということで、結局恐怖(不安おののき)は去って、心に平安の灯を
ともすことができたのかしら。

死だの恐怖だの、不吉な言葉が並んでいるわりには、
曲自体は暗くならず、寧ろ明るい生命に満ちたものだった。
対話の一方の希望(T B)の役割が大きかったということかしら。

いろいろ調べたら、アルバン・ベルクという人がこの第5曲コラールの
増4度motivを使いバイオリン協奏曲を書いたとあったので
さっそく聴いてみましたが・・・
不思議な現代曲の世界、耳を凝らして聴いていると
2楽章にこのmotivが対位法的に使われていました!
そういう探しものが無いと、とても最後まで聴けない世界の
音楽でした^^;(耳馴染みがないので)

というわけで今回の対話式カンタータはとっても不思議な作品でした