家から歩いてすぐの用水路。

近所のおじさんはいつもここで
フナを釣っていた。

昭和50年頃。
用水路に柵は無い。

子供がここに近付くとおじさんは
いつも大声で怒鳴っていた。

「おちるぞ!」

それでも止めないと、

「落とすぞ!」

とバージョンが上がった。

今思えば立派なボランティア。
子供を事故から守る監視員だ。

そんな野原さん(おじさん)、
水路に近づいても怒鳴らないケースがあった。

それは野原さんの近くに居るか、
「釣り」をしている、かだった。

子供でも竿を握っていれば
大人扱いしてくれるのだ。

なんだろね。
ここで大人になりたい自分がいた。

そして俺は自然と門下生に。
学校から帰ると毎日通った。

友達は塾で勉強。
俺は用水路で勉強。

小学校低学年、
俺はみっちり仕込まれた。

水の色、水温、タナ。
アワセ方やエサの付け方、
糸の結び方は雨の日に。

野原さんは子供に釣りを教える天才だ。

そして、小鮒に魅了されていった。
太った腹、美しいウロコ。

外道のクチボソやコイ、
オスのオイカワが釣れても
やっぱりフナだった。

しかし、ヘラブナが釣れた時は
衝撃が走った。

なんだ!この美しいスタイルは!

そして、水槽で飼った。
水槽には釣った魚が色々入った。

「フナに始まりフナに終わる」
どうも深い意味がありそうだ。


小学校高学年にもなると行動範囲も
広がって用水路以外のフィールドに
興味を持つようになった。

そして俺は野原さんから巣立つ。
天国の野原さんありがとう!


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生きてたらヤバいな。