ガラスの肘、もといウェハースの肘となってしまった僕は、途方に暮れた。



でも、僕は思った。



(肘がダメでも、足があるじゃないか。)



ポジティブな僕は迷うことなく、野球部を退部し、サッカー部に入部することにした。
幸い野球部の監督も、僕の気持ちを尊重してくれ、サッカー部の監督も僕を快く受け入れてくれた。



サッカー部に入部してから数日。
もともと運動神経のよい僕は、周りの選手より優れた才能を発揮し、野球部から転身わずか一週間で、レギュラーの座を掴み取った。
一年坊である僕がレギュラーに選ばれた事よりも、サッカー初心者の僕がわずか一週間でレギュラーになったという事実が皆に驚かれ、その頃からサッカー部員達とも一気にとけ込めた。



しかし、やはり中にはこんな僕をよく思わない人間がいた。
サッカー部所属、同学年のk谷だ。



彼はサッカーをこよなく愛していた。
特に、ex.鹿島アントラーズのアルシンド選手に憧れていたという彼は、髪型までも真似する程だった。
そんな彼がある日



「お前なんかより俺のがずーっと前からアルシンドファンなんだよっ!」



と言いながら、僕のコメカミ目掛けてスライディングしてきた。
コメカミに届くスライディングて一体。。。
今思うと、余程ミラクルなスライディングをしたに違いないが、確かにアレはコメカミを目掛けたスライディングだった。
その証拠に今も僕のコメカミにはクッキリとスパイクの跡が残っている。



k谷は僕が気に入らなかったようで、毎日のように僕のコメカミにスライディングしてきた。
雨の日も、風の日も。台風の時はしてこなかったけど、その変わりに給食の牛乳を知らぬ間に半分だけ飲まれてたりした。



しかし、僕はメゲなかった。
毎日毎晩マリオカートをやり込むことで、気付いたら県西の選抜に。そして、県の指定強化選抜に選ばれていたのだ。
僕はこの時



「よし、肘はウェハースだけど、足ならイケるっ。絶対にプロになってやるんだ。」



そう強く誓った。



しかし、その願いもまた虚しく奪い去られてしまう。





サッカー部に入ってから一年程たった、中二の夏。
一日オフだった僕は、友達と海水浴に行くことにした。
地元は海までスグだったので、友達みんなで自転車で行くことにした。
それがあんなことになるなんて。。。



自転車にまたがり、希少なオフを満喫しようとする僕らの目の前を、広瀬香美風の女性が颯爽と通り過ぎた。
誰もが



「え?真夏に広瀬香美??」



と思っていたに違いない。僕だってそうだった。


(広瀬香美は冬の生き物。真夏のこんな暑い日にそれもこんな地元に現れるハズがないんだ。)



アレはきっと錯覚だと、自分に言い聞かせながら、海へと続く坂道をみんなで下ると、目の前からアラレちゃんが走ってきて、案の定僕は転倒した。
そして僕は案の定膝を打った。
オヨヨ。


























医師の診断結果。
―膝のお皿、ギャリーン。(全治80ヵ月)―



僕は泣いた。
若干笑いながら泣いた。


(二度も同じ相手に人生をメチャクチャにされるなんて。。。)



ガラスの膝。



周りは僕の足をこう呼んだ。



(本当は有田焼きの膝なのに。。。)



僕はやり切れなくて、その思いを唄い叫んだ。
今回は小さめな声で叫んだから、誰にも文句を言われなかった。
けど、目の前を当時好きだった佐藤さんが通った時だけは「僕って可哀想アピール」がしたくて少しボリュームを上げて、余計にビブラートをかけて唄ってみた。



そして、憧れの佐藤さんにもシレっとシカトされ、自分の唄にも満足したので、そろそろ家に帰ろうかと思った時、小太りなアルシンド風のチャラチャラした男が僕にこう言った



「そのメロディー、いいね。最初のコードは“B”かい?チャラ~ン。」



僕は丁寧にこう言った



「は?お前知ったかぶんな。Cだし。」




















これが華那くんとの出逢いでした。





完。