もしも、一度だけ願いが叶うとしたら。


あなたは何を望みますか?




【絆】


「今はまだ肌寒いですけど、もう少ししたら泳げますね」

「…ああ」





一回でいいから、土方さんと二人だけで過ごしたいと思っていた。私の生まれ育ったこの現代で、誰にも気を遣わずに、こうしてそっと隣に寄り添って…


「まだ、後悔していますか?」

「………」

「してます…よね…」


夕焼けのオレンジが広がった水平線を見遣ったままの、土方さんの横顔が寂しげに歪む。私は、持参したシートを広げ腰を下ろしながら、土方さんにも腰を下ろすように促した。




もしも、あの時…

翔太くんが置屋を尋ねてくれなかったら。


土方さんは、歴史通り函館の地で戦死していただろう。


土方さんたちに着いて行けることになって間もなく、あれは京を発つ前夜。彼はカメラを手に、いつもの笑顔を浮かべながら龍馬さんのように満足げに言った。


“俺はこっちに残る”と。



『龍馬さんを助けることは出来なかったけど…俺に出来ることを、これからもここでやっていこうと思ってる』



龍馬さん暗殺に新選組も絡んでいるかもしれないと知りながら、私の想いを組んでくれた。そんな翔太くんの優しさが嬉しい反面、なんだか最後のお別れをされたような感じがして、素直にカメラを受け取ることが出来なかった。


それでも、翔太くんは真剣な眼差しで私を真っ直ぐ見つめ、いつものように励ましてくれた。


何より、龍馬さんとの約束を果たしたいし、ここで同志たち(みんな)と生きてゆきたいからという翔太くんの想いを聞くと同時に、上手くいくかどうかは分からないけれど、たった一度のチャンスを見誤らないようにと、念を押されていた。



『…幸せになれよ』



もしかしたら、これが最後かもしれないという思いの中で、やっぱり勇気づけられたまま…


結局、カメラを受け取った私は土佐へと向かう翔太くんと別れ、土方さんたちと共に大阪へと下った。それから、新選組は甲陽鎮部隊と改名し、甲州勝沼、宇都宮、会津と官軍に追われ続け。


最後の砦となった蝦夷地・五稜郭で土方さんは、総司令官である榎本武揚さんたちと共に戦っていた。


新選組副長として…



『…後悔はしていないか』

『ちっとも。土方さんを支えていくことが出来るから…』



精一杯の強がり。

伝えた言葉は本心だったけれど、本当は心細くて仕方がなかった。


いつも、気が気じゃなかった。

いつ、お別れしなければいけないかと想像するだけで血の気が引いて行くのを感じていた。


そして、とうとう旧幕府軍は窮地に立たされ…


新選組が守っていた弁天台場が敵の奇襲に合っていることを知った土方さんが、私達の制止を振り切って彼らを救出しに馬に跨ろうとした。次の瞬間、私はカメラを手にしながら土方さんに駆け寄り、自分に向けてカメラのシャッターを切ってしまった。


どこか、半信半疑だった。


でも、馬の嘶く声を耳にしながら私達は、眩いばかりの白に包まれ。次に目を開けた時、互いを抱きしめながらここに蹲っていた。


吹きすさぶ風に髪を攫われ、ただ潮の香りだけを感じる中。現代へ戻って来られたのだと分かるまでに時間は掛からなかった。



その後、行く当ての無い土方さんを連れて家に帰ったのだけれど、両親は私をいつも通りに迎え入れてくれて。不思議なことに、私を修学旅行に送り出したという記憶は無く、土方さんに対しても、まるで親戚に話しかけるように接してくれた。


行き場所が見つかるまでという約束で、家に居候することになった土方さんと一緒に過ごしたこの二日日間は、驚きと発見の連続だった。


現代の街並みは勿論、辿り着いた家や内装にも呆気に取られたように目を見開いていたし、お父さんから借りることになった洋服には慣れていたものの、お母さんから手渡された新しい二種類の男性用下着には戸惑いを隠せない様子で…


どちらが履き心地が良いのかと尋ねられても、うまく答えられず。結局はどちらも試してみたらどうかと言うほかなかった。


用意されていた夕飯のハンバーグにも、箸を持ったまま最後まで躊躇っていたし。お父さんが飲んでいたビールに付き合うことになってしまった時も、一口飲んで微妙な顔をしていた。


その後も、トイレやお風呂を含め、家にあるもの全てが滑稽に見えていたに違いない。



翌日。


図書館へ行き、私達が関わった時代の歴史を調べていて気付いたのだけれど、箱舘戦争まで参加したとされている土方歳三は、神隠しにでも合ったように行方知れずになった。と、いう内容に変わっていた。


そして、もう一つ。

坂本龍馬が暗殺された後、しばらくして解散へと追い込まれるはずの海援隊を守った男として、翔太くんの勇姿とその活躍が記されていて。


明治の世まで生きた翔太くんは、亀山社中の頃から書き記していた『結城翔太顛末記』を後世に残していた。


学校でも、みんな当たり前のように接してくれるのだけれど、そこには翔太くん自身が存在していなかった。


私と翔太くんが関わったことで、大きく変わってしまった歴史。




「後悔はしていない……と、言ったら嘘になる」

「…っ…」

「最期まで戦い、敗れるのならば納得も行くが…それさえも叶わなかったのだからな」


土方さんは、両手を背後に置き自分を支えるようにしながらそう言うと、空を見上げ眩しそうに瞳を細める。


「だが、今は…もう一つの使命を果たさねばと思っている」

「…もう一つの使命?」

「お前を守ることだ」


ここへ来て、初めて受け止める優しい眼差し。間近にして、一瞬、トクンッと胸の奥が震えた。


「…土方さん」

「今だから言えることだが、正直、お前に何かあったらと。そう考えるだけで気が気ではなかった」


一生、同志達の想いを背負って生きていくことになってしまったけれど、あの頃の想いはそのままに。これからは、私との時間を大切にしたい。


土方さんは、そう囁くように言って薄らと微笑んでくれる。


「…ごめんなさい」

「どうして謝る」

「土方さんの立場を理解していながら…」

「みなまで言うな。責めてなどいない」


土方さんの長い指先が私の頬を掠めてゆき、風に靡く私の髪を優しく梳いてくれて。私は、傍にある肩にそっと頬を預けた。


「土方さんのことは…これからも私が幸せにします…」


何となく恥ずかしくて、視線を逸らしながらそう言うと、今度は優しく肩を抱き寄せられる。手の平から伝わって来る温もりが心地良くて、私はぎこちなくも土方さんの腰元に手を回した。


更に抱き寄せられることで、私への想いの深さを感じる。


(そして、幸せになる。翔太くんと約束したから…)


より近づいた土方さんの吐息が前髪をふわりと揺らす。ふと、見上げると少し厳かな瞳と目が合った。刹那、土方さんの肩に顎を添えてしまうほど強く抱きしめられた。


(…っ…)


「この先どうなるか分からないが…改めて、お前に伝えておく」

「………」

「俺に着いて来い。もう二度と泣かせないから」


時折、土方さんの吐息が耳元を擽ってゆく。丁寧ながらもどこかぶっきらぼうな口調に苦笑してしまったけれど、私はその大きな背中を包み込むようにして抱きしめながら、何度も頷いた。



ずっと、願っていた。

土方さんの隣で呼吸をしていたいと…


もう駄目だと、何度も挫けそうになったけど、その度に土方さんへの想いは強くなっていった。



「大好きです。もう、絶対に離れませんから…」


どちらからともなく交わす口付け。

微笑んで、また求められるままに抱きしめ返した。


これからも、土方さんとの絆を信じて生きて行きたい。と、心から思える。





もしも、一度だけ願いが叶うとしたら。


あなたは何を望みますか?





【END】





~あとがき~


土方さん!お誕生日おめでとうございます(`-ω-´)


間に合ったぁww


じつは、私は…

まだ、土方さんの花と水しか読めていません。


なので、他のエンドでこげな感じの現代へ来てしまうというシチュエーションがあるかもしれないと思ったので、そのへんはオリジナル入っております汗


五月生まれには、陽気な人が多いような気がするのは私だけだろうか??


うちの母は、以前も書きましたが、五月八日で。俊太郎さまの生まれた日(旧暦)と同じというw


母は、頭が良くて口が達者でw

機転の利く人で、周りを惹きつけるタイプでした。


私は、いつもそんな母に助けられて来ました。


話しが逸れてしまいましたがw


この後、二人でいろんなことを乗り越えながら楽しく幸せに暮らしていくんだろうなぁ。


ちなみに、私がイメージした今回の土方さんの服装は、




↑主人公ちゃんのお父さん(だいたい42歳と設定w)から借りたということなので、こんな感じかとw


後日、どこかへ行ってかっこええ服を買ってくることになると思うんですけどwなんて、妄想だけは膨らみますww


そして、下着はどちらを選んだのかw


主人公ちゃんと同じ家で暮らしながら、これからどうやって生きて行くのかww


二人きりの夜もある…よなwww当然ww


はぁ…

あとは、私のように自由に御想像下さい♪


脱線しましたッ


これからも、土方さんに着いて行きたいです(-∀-)イヒッ


今回も、お粗末さまでした汗