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【あいらぶゆー】 高杉晋作×結城翔太(後編)
高杉さんに付き添われながら置屋へ戻った後も、二人から告げられた言葉を思い出しては独り思い悩んでいた。
翔太くんと龍馬さんを見送った後、大門まで送ってくれた高杉さんからも同じような言葉を投げかけられたから…。
現代にいた頃から、ずっと一緒だった翔太くんへの想いと。こちらの時代で生きていくうちに、いつの間にか尊敬の念を抱くようになっていた高杉さんへの想い。
翔太くんと共に、一日も早く現代へ戻りたいという気持ちと、このまま高杉さんの元で芸事に励みながら生きて行きたいという気持ちが綯交ぜになる。
(私は…どうしたいんだろう…)
そんなふうに考えながら俯き加減に歩いていたからだろうか、姐さん方の後から揚屋の玄関先へやってきた私の目前、
「どないしたんや、浮かん顔して」
「え、あ…何でもありません」
秋斉さんの少し心配そうな顔がそこにあった。
「疲れが溜まっとるようやったら、無理せんと遠慮なく言いや」
「はい…」
「…ほんまになんもあらへんの?」
「何も、無いですよ…」
(と、いいつつも……やっぱり、秋斉さんには見抜かれている??)
そう思い逸らし気味だった視線を上げた途端、例の訝しげな視線と目が合う。こういう時、大概は後に秋斉さんの元へ足を運ぶことになっていて…
「わてにも言えへんことか」
「え、いや…その…」
「相変わらずやね、あんさんも…」
まぁ、ええ。と、言って私に手を差し伸べてくれる秋斉さんの大きな手の平に手を重ね、草履を脱いで玄関へと上がり、いつものように姐さん方の背後をついて歩みを進めた。
「今宵も、おきばりやす」
「が、頑張って来ます!」
振り向きがてら無理に微笑みながらそう返し、気持ちを切り替えてお座敷へと向かったのだった。
そんな日々を過ごす中。
あっという間に、七夕当日を迎えた。
朝から快晴ながらも、少し湿った梅雨らしい気候に薄らと汗をかき始め、再び二人の笑顔を思い出して、思わず廊下を拭いていた手を止めた。その時、
「また、溜息どすか」
「あ、秋斉さん…」
「おはようさん」
「おはよう…ございます」
七夕に快晴とは珍しい。と、言いながら揚屋の縁側から空を見上げる秋斉さんに小さく頷く。
「あの、いつからそこに?」
「ちびっと前からな。何か悩んどるようやさかい、気になってしもうて」
私の喉元に向けられていた視線がゆっくりと上がり、その眼差しに抗うのはもう止めようと思った私は、思いきって抱えている悩みを打ち明けることにした。
与えられた仕事を熟した後、秋斉さんが最近ハマっているという美味しい緑茶を持参して、秋斉さんの待つ部屋へと向かった。
そこで、これまでのことを丁寧に話して聞かせると、秋斉さんは少し困ったように微笑んだ。
「なるほどな。そうゆうことどしたか…」
「誰かに相談することでは無いって思ったので、自分の中だけで処理しようとしていましたが…」
「そうもいけへんようになった、ゆうことやね」
「……はい」
秋斉さんは、伏し目がちに小さな吐息を零した後、何かを考え込むように沈黙した。その短くも長い時間、ただひたすら次の言葉を待つ。
「自分の気持ちに、素直にならはったらええ」
「素直に…」
「せや、お二人ともまたいつ会えへんようになるか分かれへんのやさかい」
そう言って、秋斉さんは真っ直ぐ私を見つめた。
「…そうですよね」
「それに、いつまでもそない顔をされとったら敵んし」
「す、すみません…」
美味しそうにお茶をすする秋斉さんに軽く頭を下げると、「もう慣れました」と、言う声が頭上で聞こえて、本当に頼りっぱなしだということに気付かされる。
そんな時いつも、遠慮しないでいいと言ってくれる秋斉さんの優しさに、甘え過ぎているのかもしれないとも思わされたのだった。
それから数刻後。
いつものように、姐さん方の名代などを務めながら旦那様方と接している間も、いつやってくるかもしれない翔太くんと高杉さんのことを考えてしまい、時々だが上の空になってしまう自分がいた。
二人同時に来て欲しいと思う反面、自分の気持ちに素直になる為にもあの人と話す時間が欲しい。
けれど、そんな想いとは裏腹に…
その晩、二人が藍屋の暖簾をくぐることは無かった。
翌朝。
姿を現さなかった二人のことが気がかりで、ほとんど一睡も出来ないまま朝を迎えた。
今も、急な用事が出来て来られなくなっただけだと思いつつ、何かあったのでは無いかと思うと居てもたってもいられない気持ちでいっぱいになる。
鏡台の前に座り込み、くまの出来た今にも泣きそうな自分の顔を見て苦笑を漏らした。
『せや、お二人ともまたいつ会えへんようになるか分かれへんのやさかい』
不意に、秋斉さんの言葉を思い出すと同時に、トクンットクンッと耳をつんざく心臓の音が速まるのを感じながら、会いに行きたくても行けないもどかしさでいっぱいになり…
(急用で京を発っているのならそれでいい…でも…)
今まで感じたことの無いほどの緊張感に襲われていた。
龍馬さんの下男を務めている山田藤吉さんが置屋を訪ねてきたのは、丁度昼餉の準備の真っ最中だった。
偶然、玄関先へと足を運んでいた私の目前。走って来たのか、息を弾ませながら私を見つけた途端、「翔太と高杉はんが…」と、言ってその場にしゃがみ込んだ。
「二人に何かあったのですか?!」
「さ、昨晩のことや…」
「えっ…」
「詳しいことは歩きながら話すさかい、うら(私)と来て貰えるやろか?!」
例えようも無い程の緊迫感に身を震わせながらも、すぐに秋斉さんの元へ行って外出の許可を得た後、支度もそこそこに藤吉さんと共に置屋を後にした。
暖簾をくぐって間もなく、藤吉さんはこれまでの経緯について丁寧に話してくれた。その内容に、一瞬眩暈を覚えて立ち止まるも、急ぐように言われ足を踏ん張りながら再び藤吉さんの背中を追い掛ける。
「それで、二人の容態は…」
「命に別状は無いゆうことやけど、負った傷はかなり深い…」
「…っ……」
(嘘…でしょ…)
藤吉さんの話では、京の町中で偶然出会った高杉さんと翔太くんが島原を目指していた最中、数名の刺客と出くわし、応戦するも多勢に無勢だと感じた二人は、お互いを守りながらも逃走をはかった。
けれど、逃げた方向から現れた刺客と追いかけてきた刺客に挟まれてしまい、高杉さんは肩を、翔太くんは胸元を斬られ深い傷を負ってしまったのだそうだ。
「あの高杉はんが手こずらはるとは……坂本はんと長岡はんが偶然、通りかからんかったら今頃墓場行きやったろう…」
「そんな…っ…」
「すんまへん、おまはん(貴女)を怖がらせるつもりは無かったんやけど…」
「いえ、わざわざ足を運んで下さって…ありがとうございました」
胸が苦し過ぎて、そう答えるだけで精一杯だった。
二人の怪我が心配で早く会いたいと思うと同時に、剣術や槍術の達人として知られる高杉さんや、龍馬さんの右腕となってもいいくらいにまで上達した翔太くんが、命の危機に見舞われてしまうほどの腕を持つ刺客がいるということにも恐怖を覚えた。
(本当に、いつ会えなくなるか分からないんだな…)
どこかで、あの二人なら大丈夫だと思っていた。
だって、いつも笑顔で会いに来てくれていたし、俺なら大丈夫だって言ってくれていたから…。
(今すぐ会いたい…)
頬を伝うこの涙が、私の素直な気持ちだとしたら…。あの人への想いを確信しながら、「もうちびっと急げるか」と、言う藤吉さんの速まる足に置いて行かれないよう、ただひたすらその背中を追い続けた。
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~あとがき~
今回は、趣向を変えてこういう演出にしてみました。東京では、夕方頃に雷を伴った雨に見舞われましたが、今夜は天の川…見えるんだろうな
織姫と彦星は今頃、一年ぶりに温もりを分け合っているのでしょうが…主人公ちゃんと同じように会えない辛さを感じているわたす
高杉晋作編と、結城翔太編は、また後日アップ予定です後編では描けなかった二人とのラブラブぶりを描きたいと思います
しかし、考えてみたら高杉さんは勿論のこと。
龍馬さんと一緒に行動している翔太くんも、本当は死と隣り合わせだったりするんですよね。
その為に、龍馬さん達から剣術を習っていたと思うので…。
普段なら大丈夫だと思っていても、高杉さんが実戦慣れしていない翔太くんを庇いながら、複数の強い刺客を相手に剣を交えることになったとしたら…。
そういうふうに想像して、こげな感じに
七夕の夜に起こってしまった悲劇。
でも、それにより本当の気持ちに気付く主人公。
私なら、どちらかを選ぶなんてことはできませんけれど…
ヽ(;´Д`)ノ