<艶が~る、妄想小説>


今回は、沖田さんに引き続き…投扇興で戦っている秋斉さんの恋心をちびっとですが、描いてみました。私は、こういう雰囲気の秋斉さんの印象が強くて…。こないなってしまいましたし、相変わらずの駄文ではありますが……


良かったら、またお付き合い下さいませにこっ




【恋心】 ~想いはてなく、心はるかに~



まだ初夏を迎えたばかりだというのに、今年一番の暑さを向かえた京は、蒸し暑ささえ感じていた。


何をするにも軽く汗をかいてしまい、帯から手拭いを出しては額の汗を拭くの繰り返し…。


「もう、夕方なのに…この蒸し暑さ…」


そろそろ、お座敷へ出る準備をしなければいけない頃合いになり、身支度を整えながらもすぐに汗が背中や胸元を擽るように滴り落ちる。


(これじゃ、きりがないなぁ…これでは、夏本番が思いやられる…)


それから、何とか支度を済ませて揚屋へ向かおうと、置屋の玄関先で草履を履いていたその時、背後から秋斉さんに声をかけられた。


「はい、なんでしょうか?」
「これを飲んで行きなはれ」


そう言って、彼は湯飲みを差し出した。


「これは?」
「甘酒どす」


秋斉さんは微笑みながら頷くと、番頭さん達と一緒に他の遊女達にも配りながら口を開く。


「うなぎ…言いたいところやけど、そない高価なものは簡単には手に入らへんから、せめて甘酒でも飲んでバテんようにしてもらわな」


この時代では、夏の暑さ対策として一般庶民でも手に入りやすい甘酒が用いられていたようだ。


砂糖などの甘味料は一切、使用せず、米麹についている麹菌の酵素が飲む点滴のような役割を果たしていたという。


(そういえば、おばあちゃんやおじいちゃんがよく夏に甘酒を飲んでいたっけ…)


「甘酒には、そんな効果もあったんですね…」
「これで、少しは身体も楽になるやろ」


受け取った甘酒を少しずつ飲みはじめて間もなく…逆に、身体がぽかぽかと暖かくなって行き、それと同時に意識がぼんやりとし始める…。


(あれ…どうしちゃったんだろ……)


何故か、甘酒を飲んだ途端、体温の上昇と共に軽い眩暈に襲われた。


「どうしよう…」
「どないしたんや?」
「何だか、眩暈が…」


頬や首のあたりがきゅーっと締め付けられるような痛みさえ感じる。


(私、もしかして…甘酒に酔ってしまったの??)


「顔色が悪いな…あんさんには逆効果やったか」
「す、すみません…秋斉さん…」
「謝らんでもええ…」


そう言うと、秋斉さんはしばらく私の様子を窺うように見つめ、そっと私の身体を抱き上げた。


「あ、大丈夫です…歩けますから…」
「こういう時は、素直に甘えとき…」


彼の首に手を回し、もう片方の手で肩にしがみつくと、彼はゆっくり歩き出した。


「甘酒だけのせいや無いな…」
「そうかもしれません…頻繁に肌襦袢を変えていたんですけど…」


階段を上がり暗い部屋の中へ入ると、彼は私をそっと下ろし、灯りを灯して布団を一式敷き始めた。


「秋斉さん…重たいのに、ありがとうございました」
「重くは無かったが、ほんの少しでも調子が悪い思う時は、遠慮なく言い…」
「……はい」
「今夜のお座敷は出んでよろし。ゆっくり休みなはれ。今、薬を持って来るさかい」


そう言い残すと、彼は部屋を後にした。


(ふぅ…日頃の疲れが出たのかな…)


化粧を落とし、結っていた髪を解き、新しい肌襦袢に着替え終わると、布団の中へ潜り込んだ。横になった途端、微熱を感じながら身体中の力が抜けていく。


(風邪、引いちゃってたんだなぁ…きっと…)


甘酒を飲んでいなかったとしても、遅かれ早かれ倒れていたのかもしれない。


(それにしても……秋斉さんに抱きかかえられたの…これで二度目だ…)


あの時……。


バレンタインデーのお菓子作りに一生懸命になりすぎて、風邪をこじらせてしまって。


やっぱり、微熱を感じながらも無理をしてお座敷へ出た時、高熱を出して倒れてしまったことがあった。その時も、彼は廊下で蹲る私を抱きかかえ、部屋まで運んでくれたのだった。


「ふぅ……」


また今回も、心配をかけてしまった…健康管理は大事だと、常日頃から言われているのに…。


でも……。



【こういう時は、素直に甘えとき…】



秋斉さんは、何かある度にいつも優しく支えてくれる…とても頼りになる人だ。


彼と出会っていなければ、ここまで成長できなかっただろう。


男性なのに、艶やかな仕草。


穏やかな笑顔……。


厳しい中にも、優しさがあり…。


時々、見せる男らしい態度に胸がドキドキと高鳴り……


そして、どこか寂しげな瞳を目にする度に、謎めいたものを感じていた。


もしかしたら、まだ私の知らない秋斉さんがいるのかもしれない。


「待たせたな…」
「あ、ありがとうございます…」


彼は、小さめのお盆と桶を持って戻ってくると、私の枕元に置いて袖から薬を取り出した。


「これで少しは楽になる…」


その薬を受け取り、口に含むがあまりの苦さに白湯で一気に流し込む…。


「うっ……苦いぃ…」
「…美味い薬などあらしまへん」


その通りなんだけれど…この時代の薬は、本当に飲みにくくて。


薬を飲むにも勇気がいるのだった。


「何度飲んでも…慣れません…」
「わてもや……」


彼は微笑むと、私の額にそっと手を添えた。


(……えっ…)


そして、彼の端整な顔がゆっくりと近づき、額と額が触れ合う。


「…少しあるな」
「あ、あ、あ…」


(ち、ち、近い!)


慌てて彼の肩に手を置き、自分から距離を置いた。


「顔が赤くなっとるけど、大丈夫か?」
「あ、はい!大丈夫です」
「わては、これから常客んとこへ行かなあかへんさかい、ついていてあげることが出来ひん…」
「あ、一人でも大丈夫ですから…」


そう言って、無理に微笑むと、彼は、優しい眼差しを向けたまま…


「こういう時は、甘えるもんや」と、言って、また私を横にさせると、桶に浮かばせておいた手拭いを絞り、私の額にそっと乗せてくれた…。


「じゃ…あの…秋斉さん……」
「なんどす?」


人恋しいのは、体調が悪いからなのかもしれない…。


用事が済んだらまた戻ってきて、ずっと私の傍にいて下さい…と、心の中で呟きながらも、「何でもありません…」と、言って微笑み返した。


「ほな、また後で顔を出すさかい…」


そう言って、彼はまたいつもの微笑みを浮かべると、静かに部屋を後にした。


「やっぱり…言えなかった」


薄暗い部屋を、行灯の小さな灯りがゆらゆら揺らし、外から聴こえてくる喧騒と、三味線の音が遠くなっていく。


(今は……早く治すことだけを考えなきゃ…)


薬の効果もあるのだろう…そんなことを考えながら、私はいつの間にか、深い眠りへと誘われていった。



それから、どれくらいの時間が流れただろう…。


(あれ…ここは、お座敷?でも、いつもと違うような…)


いつものお座敷にたった一人きり。


きっと、これは夢に違いない…。


なぜか、そう思って周りを見回すけれど、自分一人でいることがどんどん不安になっていって…思わず秋斉さんの名前を叫んでいた。



*艶が~る妄想小説* ~もう一つの艶物語~



部屋中に、私の声だけが響き渡る…。


どうして誰もいないの?


そう、思った時だった。


「ここにおるさかい、心配せんでええ」
「えっ…その声は、秋斉…さん?」


いつの間にか視界が暗闇に包まれる中、秋斉さんの優しい声だけが聞こえた。そして次の瞬間、ふと、右手に温もりを感じ、その手を強く握り返す…。


「傍にいて…お願いっ…」
「そない言われたら、離れられへんね」


柔和な声を耳にした次の瞬間、不意に、唇に違和感を感じ、何かを確かめるように手を動かした。


この唇の感触は…キス??私の両手が掴んだものは、着物だろうか?


本当に真っ暗で何も見えない!


今、目の前にいるのは秋斉さんだよね?


怖い……。


そう、思った時だった。


視界が薄らと明るくなり、いつもの天井がぼんやりと見え始める。


(……えっ……)


夢の続き?それとも……。


「大丈夫か…」
「えっ……」


仰向けになったまま目線だけを動かすと、柔和な微笑みを浮かべた秋斉さんの瞳と目が合った。


「秋斉さん…?」
「うなされとったようやけど…」
「あっ……怖い夢を…見ていました」


額に乗せられた手拭いのひんやりとした感触に、やんわりと瞼を閉じる。


「でも、良かった…」
「え?」
「あ、その…怖い夢を見た後、一人だと心細かっただろうけど、秋斉さんが居てくれて良かったなって思って…」
「……………」


(あれ…なんか、まずいことを言ってしまったかな…)


一瞬、曇りかけた彼の瞳が気になったけれど、汗をびっしょりかいた肌襦袢を着替えたくて布団からゆっくりと身体を起こした。


「う…身体にくっついてる…布団まで濡れちゃってます…」
「せやな…布団も変えたほうがええ」


それから、彼が布団を用意してくれている間に着替えを済ませ、用意された布団にまた横になると、引き続き彼の優しさに甘えた。


「薬が効いたようやな…」
「はい」
「これでもう、一安心どす」
「でも……」


(でも、何なんだろう??私は、いったい何を言おうとしてるんだろう?)


「でも、その…あ、やっぱり何でもありません…」
「…もう少しここにおるさかい」


彼は、微笑みながら私の手を握り締めると、穏かな声で言った。


「秋斉さんが傍に居てくれると、安心します…」
「そない言われたら、ここを離れられへんようになる」


(ん?この言葉…さっきも耳にしたような…)


秋斉さんに看病されていることが素直に嬉しい。今、この瞬間も…夢の中なのかと思ってしまうほど幸せな気持ちになる。


ずっと傍に居て貰いたいけど、でも、このままだと秋斉さんにも風邪を移してしまうかもしれない…やっぱり、我儘ばかりも言ってられない…。


「秋斉さん…あの……やっぱり、もう一人でも大丈夫ですから」


そう、呟いた瞬間…。

彼のしなやかな指が頬に触れると同時に、切なげな瞳がゆっくりと近づく…。


「もう、手遅れどす」
「えっ?」
「きっと…もう、もらってしもた」


(……えっ!それってどういう…)


そんなに長い間、つきっきりでいてくれたのだろうか…。


「さ、もう一眠りしぃ。あんさんには早う好くなってもらわな…」
「……はい」


もっと、いろんな話をしたいし、彼の穏やかな顔を見ていたい…。


もっと、優しい声に包まれていたい…。


でも、これ以上甘えたら、秋斉さんを独り占めしたら本当に罰が当たりそうな気がする。


「…秋斉さん、あの…」
「なんや?」
「……傍にいてくれてありがとうございました」
「あんさんは……わてんとこの大事な新造やからな」


(……っ…そうだよね。彼にとって私は、沢山いる新造のうちの一人…)


「そう…ですよね…」
「……………」


心とは裏腹に、作り笑いを浮かべていた。


なぜか、いつもこれ以上は言えないまま…聞けないまま終わってしまう。


「さ、もう、寝たほうがええ…」
「……はい。おやすみなさい」


私は、複雑な思いを抱きながらも、瞼をゆっくり閉じた。


彼の温もりを感じながらまた、深い眠りへと誘われていく。


今度こそ、秋斉さんにこの想いを伝えたい…。


夢の中でもいいから…。



*艶が~る妄想小説* ~もう一つの艶物語~



~秋斉 side~



「……俺の気持ちはどうでもいい。これまでも、そして、これからも…」


彼は、愛しい人の手を握り締め、その可憐な寝顔を見つめながらも、不退転の覚悟で呟いた。


そしてまた、心の中で自分に言い聞かせる。


この夢だけは、誰にも譲れない。


誰にも邪魔はさせない…。


今、抱いている愛しい人への想いは、偽りのもの。


それでもいいのだ、と。



ただ、ほんの少し…


自分の我儘が許されるのなら…


愛しい人に触れていたい…


夢の中でいいから、この想いを告げさせて欲しい…


そう、思うのだった。




<おわり>




~あとがき~


秋斉さんって、本当はどない人やったかな?と、改めて思い出して書いてみましたが、うーん、彼の切ない恋心を描くのは難しいですねガクリ(黒背景用)


初の、標準語にトライしてみましたが、これまたむずい汗


花エンド後みたいな展開のほうが好きだな…なんて、思いつつ。恋心っつーことで、切なさも大切にしてみましたねんね


秋斉さんのイメージが壊れてなければええがエヘ


そして、投票もいよいよ明日を残すのみ!


誰と、誰が温泉へ連れてってくれるのか?!


んでもって、貸切温泉でしっぽりと出来るのか?!(笑)


艶シーンは、寸止めがいいのか!?(笑)


今日も、遊びに来て下さってありがとうございましたクローバー