<艶が~る、妄想小説>
艶龍馬伝 第6話…。
私なりの龍馬さんと、主人公ちゃんと、翔太くん
いよいよ…龍馬さんの運命の日が近づいてきました。
今回からは、佳境に入ってくる為…。
龍馬さんの本編9話以降を読まれていない方や、坂本龍馬の歴史をご存知無い方には、ちこっとネタバレ的な文章が含まれますので、ご注意ください
(大人組に載せた時と、だいぶ内容が変わっています)
一応、本編とは違う描き方を心がけて書きました
(続き物につき、良かったらこちらからお読みくださいませ)
艶龍馬伝 第6話
そして、慶応二年、十月。
将軍・徳川家茂の死後、将軍後見職の徳川慶喜が第十五代将軍となったが、徳川慶喜は将軍職に就くことを望まず、徳川宗家の家督のみを継承することになった。
その年の八月頃に、龍馬さんは長崎に来ていた越前藩士の下山尚様に政権奉還策を説き、松平春獄様に伝えるよう頼んでいた。 しかし、政権奉還論自体は龍馬さんの創意ではなく、幕臣・大久保一翁様がかねてから論じていたことで、龍馬さんと下山様の会見以前の八月十四日には、徳川慶喜に拒否されていた。
そんな中、亀山社中は「海援隊」と名前を改め、改名後も龍馬さんは海援隊の一員として、活力的に土佐藩の援助を受けながら、土佐藩士や、他藩の脱藩者中の海外事業に志を持つ者達を引き受け、運輸・交易・開拓・投機等の商業活動を行い土佐藩を助ける為に、様々な偉業を成し遂げていったのだった。
慶応三年十月二十四日。
私達は、後藤象二郎様の依頼で越前へ出向き、松平春獄様の上京を促して三岡八郎様と会談した後、翌月の十一月五日に帰京した。
帰京後、私達は河原町の蛸薬師で醤油商を営む近江屋新助様の家に滞在することになり、そこを目指して歩いていた時のこと…。
一人、何かを考え込んでいる様子の翔太くんに私は声をかけた。
「翔太くん、どうしたの?」
「……なんか、引っかかるんだよな…近江屋……」
「引っかかるって、何が?」
「その名前だよ…どっかで聞いたことがあるんだよな…」
考え込む翔太くんを気にしていると、少し前を歩いていた龍馬さんがこちらを振り返った。
「二人とも、なんちゃーがやないか(大丈夫か)?」
「はい、大丈夫です…」
「どうしたがじゃ?翔太。浮かん顔して…」
「え?いえ…何でもありません」
「ほうか?もうじきやから、頑張れよ」
まだ少し考え込む翔太くんを気にかけつつも、私達は龍馬さんに置いて行かれないように近江屋宅へと急いだ。
その後、近江屋宅に辿り着いた私達は、各自用意された部屋へと案内された。ここでの滞在は長くなるとのことだったので、それぞれの部屋を用意して頂けたのだった。
そして、一通りの雑用を済ませると、私と龍馬さんは二階の母屋で一息ついていた。
「長旅、お疲れ様でした」
「おまんも、疲れたじゃろう?しばらくはここで世話になるき、手伝いをよろしく頼むぜよ」
「はい。心得ています」
「……………」
お茶を飲む手を休め、こちらをじっと見つめる優しい視線と目が合った。
その澄んだ瞳に心臓が大きく跳ね始める…。
「どうしたんですか?龍馬さん…」
「いや、なんちゃーない…」
「えっ…気になります…」
「……まるで、わしの妻になったみたいじゃのう」
そう言うと、彼も少し照れくさそうに微笑んだ。
いつだったか、彼と湯治の旅に出た時…。
いつか、平和な時がやって来たら、お嫁さんにしたいと言ってくれたことがあった。私は、その時のことを思い出して一人顔を綻ばせていると、そっと肩を抱き寄せられた。
「春香…わしと湯治の旅に出た時の事を覚えちゅうか?」
「……今、その時のことを思い出していました。龍馬さんが、私をお嫁さんにしたいって言ってくれた時の事を…」
「もうじきじゃ…もうじき、おまんをわしの嫁さんにするき。その時まじゃーや、ちっくとばあ待っていてくれ…と、言いながら、わしのほうが我慢の限界なんやけどな」
そう言うと、彼は笑顔で私の顔を覗き込んだ。
私は何度もこの笑顔に癒され、彼が居ない時も、大空を見上げ想いを馳せていた。でも、今は彼の腕の中にいる。そして、平和な時がやってきたら……。
「……っ……」
(……平和な時?)
忘れていた現実が襲いかかる。
彼がいずれ暗殺されてしまうという現実が重くのしかかり、思わず肩を震わせた。
「どうしたんじゃ?春香…」
「い、いえ…何でもありません…」
龍馬さんは、いつ、どこで…誰に暗殺されてしまうの?私達は、彼を救うことが出来るのだろうか…。
その時、障子の向こうから翔太くんの声がした。
「龍馬さん、伊藤甲子太郎さんが起こしになりました。お通ししますね」
翔太くんと共に部屋へ入ってきたのは、元・新撰組幹部、伊東甲子太郎さんだった。
彼は、新撰組の参謀兼文学師範だったが、新選組は佐幕派で、勤王(倒幕)を説こうとする方針をめぐり密かに矛盾が生じ、やがてその考え方はすれ違い始め、倒幕派が勢いをつけ時勢を転回しつつあると見た彼は、孝明天皇の御陵を守ると称して「御陵衛士」となり新撰組を離脱した。その後、配下を率いて離脱「高台寺党」と称して、政治活動や倒幕活動を行い、新撰組の潰滅を画策すると同時に、薩摩藩など倒幕勢力に足繁く通うようになっていたのだった。
私は、翔太くんと共にその場を後にすると、彼らは真剣な面持ちで話し始めた。
「今日はどうしたがじゃ?」
「ここに来たばかりでなんだが。新撰組に狙われている以上、土佐藩邸に身を寄せたほうがよいと思うのだ」
「ほうかのう…」
「京は新撰組の配下にあるからな。まぁ、ここも身を顰めるには十分なのだが…」
「ほうじゃ、ほうじゃ。どこへ行っても京におる限り、常に危険とねきり(隣り)合わせやき」
伊藤さんが説得するものの、龍馬さんはあまり真剣に取り合わず、その後も話し合いは続いたが、話は平行線のまま終わった。
伊藤さんの言うとおり土佐藩邸へ移動していれば…もしかしたら……。
この時の私達は、まだ知らなかった。
あの陰惨な日が、すぐ近くまで迫っていたことを…。
それから、十日が過ぎたある晩のこと。
私達は、早めの夕飯を済ませ龍馬さんの部屋で寛いでいた。
「今後は、おまんらにも大変な思いをさせるかもしれんが、海援隊は上手いこといっちゅうき」
「そうですね……」
笑顔で話す龍馬さんの隣で、翔太くんはまた何かを考えているようだった。
「翔太……なんちゃーがやないか?具合でもわりぃかえ?」
「いえ、……あっ!そうだ!」
翔太くんは、大きく目を見開いたまま私と龍馬さんを交互に見ると、今度は呆然とした様子で話し始める。
「思い出した…ここだよ……」
「えっ?」
「春香、ちょっと来てくれ…あの、龍馬さん…少しだけ待っていて貰えますか?」
そう言うと、驚いたままの龍馬さんを横目に、彼は強引に私の腕を掴み廊下に出て障子を閉めると、すぐに耳打ちしてきた。その内容にびっくりして、私も思わず大きな声を漏らす。
「ええっ!それ、本当なの?」
「しっ!声がでかい…」
その時、部屋から龍馬さんが現れ、真剣な顔つきで私達に言った。
「おまんら、わしに内緒で何を話しちゅう?」
「いえ、その…」
何も言えずに戸惑う翔太くんに、龍馬さんは、「わしにも教えとうせ」と、微笑んだ。
「おまんらだけずるいぜよ!まさか、翔太…じつはおまんも春香のことを…」
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
「ほなら、どういうことなんじゃ?」
いつにない真剣な眼差しを受け、翔太くんはびくっと顔を上げた。
「おまんら、しょうまっこと(本当に)わしに隠し事は無いかえ?」
「………」
翔太くんは、「もう、話してもいいよな」と、言うと、いつにない真剣な眼差しを向けてきた。私は一つ頷くと、彼は私達を部屋の中へと促し、正座する龍馬さんを目の前に静かに語りだした。
「龍馬さん、俺達…じつは……未来から来たんです」
「みらい…じゃと?」
「はい。俺と春香は、今から150年後の平成という時代で生きていました……なんて、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれませんが…」
「………」
龍馬さんは、少し驚愕しながらも翔太くんの話に耳を傾けていた。
「あの日のこと、覚えていますか?俺達と初めて会ったあの日、本当は俺達、京都に修学旅行に来ていたんです。そして、京都のとある骨董品屋で古ぼけたカメラを見つけた途端、この時代に飛ばされてしまって……」
その後も、翔太くんはこれまでのことを龍馬さんが理解しやすいように説明をした。龍馬さんは、熱く語る彼を真剣に見つめながら、何かを考えている様だった。
「よお分からんが……おまんらは、この時代の人間では無いっちゅうことかや?」
「手っ取り早く言うと、そういうことになります…」
「おまんの言うことじゃ、嘘は言うちょらんのじゃろうが…にわかには信じられん話じゃき」
それはそうだろう…。
私が龍馬さんの立場でも、同じように思うだろうから…。
けれど、翔太くんは尚も熱く語り出した。
「でも、信じて下さい!……俺達は、あなたのことを学校で…あ、寺子屋で習いました。俺達の時代では、あなたは日本を変えた革命児の一人として、日本人なら知らない人は居ないくらい有名なんです。この時代では当たり前のあなたの行動も、俺達にとっては全てが尊敬すべきものなんです…。正直、俺は初めてあなたに会った時、あの坂本龍馬なのか?って、信じられなかったけれど…あなたは正真正銘、坂本龍馬本人だった…」
「翔太……」
「…その歴史の中で、あなたは……」
翔太くんは一瞬言いよどむと、自分の手を握り締めて勇気を振りしぼるように言った。
「あなたは、暗殺されてしまうんです…」
「……っ……!」
龍馬さんは一瞬、大きく目を見開くと驚骸の声を漏らした。
「俺の記憶が確かなら、坂本龍馬が暗殺された場所は、ここ、近江屋宅。俺達が滞在しているこの家なんです…いつかは分かりません。でも、きっとあなたはここで命を落とすことになる…」
「それは、げにまっことなのかえ?(本当なのか?)」
「……はい」
翔太くんは、全てを知りつつ龍馬さんに着いて来たことを熱く語ると、龍馬さんはいつもの笑顔で私たちに話し始める。
「…おまんらの話を信じるき。翔太の言う通りなら、わしはもうすぐ死ぬかもしれんっちゅうことじゃな…」
「でも、俺はあなたを死なせない…絶対に守り抜きます。たとえ、歴史が変わろうと…絶対に!」
「ありがとう、翔太。ほうじゃったのか…おまんは故郷へ帰らなかったんじゃのうて、帰れなかったんじゃな」
「龍馬さん…」
私は、彼らの会話をずっと黙って聞いていた。
これからどうなるのか、龍馬さんはどうするのか…その行方を静かに見守ることしか出来ずにいた…。
「春香も、わしの最後を知っちょって…それでも、わしと一緒になる言うてくれたんかえ…」
「……はい。私はもう、龍馬さん無しでは生きていけないから…」
「わしは死なんちや。おまんを残して死ぬことは出来んき」
その澄んだ瞳に、私は嬉しさと不安が入り交ざって胸がいっぱいになっていった。
その時だった。
階下で大きな物音がして一瞬、私達の間に緊張が走る。二人は、同時に刀の鞘に手を触れながら早口で話し始めた。
「翔太……」
「俺が視て来ますから、春香を頼みます」
周りを窺うように部屋を後にする翔太くんを見守りながら、龍馬さんから衝立の裏に隠れているように言われ、衝立の裏にしゃがみこんだ。
(どうしよう……どうしたらいいの…)
もしも、その運命の日が今日だったとしたら…。
どうか、今夜がその日でありませんように…。
私は、聞き耳を立てながら震える身体を必死に抑えこんだ。
<つづく>
~あとがき~
これだけは避けられないですよね…。
。・゚・(ノε`)・゚・。
いまいち、伊東甲子太郎の行動が読めなくて…。
あんな感じなのかな?なんて、思いますが…。
伊東氏のこと教えてくれたほにほに隊に感謝♪
次は、どんな展開になるのか…。
とりあえず、鏡エンド的な展開を考えています…。
今回も、読んで下さってありがとうございました