<艶が~る、妄想小説>
前回は、お座敷に龍馬さんと翔太くんと、高杉さんが遊びに来ていて、龍馬さんといいところまでいったところで終わりました今回は、春香(主人公)が花魁の道を諦めて龍馬さんの傍で行動することに
歴史を遡り、ウィキベディアや図書館などで龍馬さんのことを勉強して私なりの物語を書きました
龍馬さんは大本命の為、何かのエンド的なところまで書き上げたいって想っています
よかったら、読んでくださいませ
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もう一つの艶物語 ~旅立ち~(前半) #3
次の日の朝。
私を呼ぶ声にハッと目覚めて、飛び起きる。
ふと、横を見るとそこには花里ちゃんが微笑んでいた。
「春香はん、おはようさん」
「あ…あれ?おはよう、花里ちゃん…あの、龍馬さんと翔太くんは?」
「もうとっくに起きはって、二人で出て行ってしもたよ。春香はんはぐっすり寝とったさかい、そのまま寝かせてやってくれ言わはって…」
「ええ!?」
起き立ての頭はまだ思考回路が止まったままで、私はゆっくりと昨夜の出来事を思い出す。昨夜は、龍馬さんたちとお座敷遊びなどをして楽しい時間を過ごし、それから龍馬さんと一緒に……。
私は龍馬さんと一緒の布団に入り、寝たところまでは思い出した。龍馬さんの温もりが、私を深い眠りへと誘って…すぐに寝てしまったのだった。
「あとな、坂本はんも、翔太はんも春香はんによろしく伝えて欲しい言うてはったよ」
「そう……ありがとう、花里ちゃん」
彼女はそう伝えると、自分の仕事に戻って行った。
(龍馬さん…翔太くん……次はいつ会えるだろ……)
私は、見送れなかったことを後悔しつつ、二人が無事にいられるように心から祈った。
翔太くんが言っていた通り、その後まもなくして薩長同盟が結ばれることになった。慶応二年(1866年)一月八日、小松帯刀の京都屋敷において、桂さんと西郷さんの会談が開かれた。けれど、話し合いは難航して容易に妥結しなかった。一月二十日。龍馬さん達が下関から京都に到着すると、未だ盟約が成立していないことに驚愕し、桂さんに問い質したところ、長州は、これ以上頭を下げられないと答えた。そこで、その夜に龍馬さんは西郷さんを説き伏せ、これにより薩長両藩は翌日、西郷さんと、長州は桂さんが代表となり、龍馬さんが立会人となって列席した。
そして、盟約成立から程ない一月二十三日。
龍馬さん達は、他の長府藩士達と投宿していた伏見の寺田屋へ戻った。そこでは、祝杯が交わされたが…。伏見奉行が、龍馬さんを捕縛する為の準備を進めていたのだった。
明け方二時頃。
護衛役の三吉慎蔵さんが外の異常を察知して二階に駆け上がり、龍馬さんと翔太くんに知らせた。
すぐに多数の捕り手が屋内に押し入り、龍馬さんは高杉さんから贈られた拳銃を、三吉さんと翔太くんは長槍などを持って応戦するが、多勢に無勢で龍馬さんは危険に晒された。その後、彼らはなんとか屋外に脱出し、負傷した龍馬さんと翔太くんは材木場に潜み、三吉さんは旅人を装って伏見薩摩藩邸に逃げ込み救援を求めた。
これにより、龍馬さんは両手を切られて大怪我をしたが、薩摩藩に助けられ一命を取り留めることになったのだった。
そんな大事件があったことなど知らない私は、青空を見上げては龍馬さんや翔太くんたちの無事を祈り、夜空を見上げては、龍馬さんのことを恋焦がれる日々を送っていた。
そんなある日のこと。
翔太くんが、久しぶりに置屋に訪れた。
彼はとても慌てていて、最初に見た彼の顔は酷くやつれているようだった。
「ちょっと、外に出られるかな?」
翔太くんがポツリと呟いた。
その目は、覇気が無く…私は心配になって置屋のすぐ近くの路地裏で彼と話をすることにした。彼はとても疲れている様子で、その場にしゃがみこむ。
「……龍馬さんが…」
「……龍馬さんが?龍馬さんがどうしたの!?」
私もしゃがみこみ、彼の肩を少し揺さぶるようにすると、彼は私の方を見て言った。
「ものすごい人数に襲われたんだ。なんとか俺達で命だけは守りきったけど、両手に大怪我を負ってしまって…」
「大怪我を!?それで、龍馬さんは…」
「ああ、今は安静にしているよ。手はもの凄く痛むらしいけど…」
「……そんな…」
震える私の手を握り締め、俯いたまま彼は呟いた。
「ごめんな……龍馬さんを守るってお前と約束したのに…」
「ううん……翔太くんは凄いよ…龍馬さんを助けられたのは、翔太くんがいたからだよ」
私の手を握る彼の手が、微かに震えている。子供の頃からそうだった。彼は、責任感が強くて弱いものいじめが許せなくて…。小さい頃から、私の傍でなんだかんだと守ってくれていた。
「俺、もっともっと強くなりたいよ…大切な人を守る為に」
そう呟いた瞬間、彼の足元に何かが落ちた。
それは、彼の涙だった。
「翔太くん……」
彼は下を向いたまま、手で涙を拭い鼻を啜った。
「ごめん…みっともない姿を見せちまって…」
「全然みっともなくなんかない。泣きたい時は、泣いて!私と居る時くらいは…」
「………」
彼はゆっくり顔を上げると、上目遣いで私を見た。
「私に出来ること…それは、悲しいことがあったら一緒に泣いて、楽しいことがあったら一緒に笑うこと。この時代に来てから、遊女としてずっとそうしてきたからだけじゃなくて、それが今の私に出来る唯一のことだと思ったの。だから、翔太くんも……私に甘えて…私で良ければ」
彼は私に微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、お前に勇気付けられるなんてな」
「私も、成長したでしょ?」
彼はやっと少しだけ笑顔を取り戻したようだ。
「あのさ、龍馬さんの側にいてやってくれないか?」
「え?」
「これから龍馬さんは一日も早く手を直す為に、湯治の旅に出るって言ってるんだ。お前が傍にいれば元気も出ると思って」
真剣な眼差しに私は戸惑った。
「私もそうしたいけど、でも…」
「……じつは、投獄されていた武市さんが亡くなったんだ」
「ええ?それ、本当なの?」
「ああ、だから…最近、ずっと元気が無いままでさ……」
彼が会いに来た目的は、私を龍馬さんの元へ連れて行くことだった。私は、遊女という立場を忘れ、龍馬さんに会いたい気持ちがどんどん募って行った。それから、少し考えた末……。私と翔太くんは、秋斉さんの元へと相談に行くことにしたのだった。
秋斉さんの部屋まで行くと、私達は少し緊張しつつも中に声をかける。
「あの、秋斉さん…ちょっといいですか?」
「ん、お入りやす」
声がしてゆっくりと襖を開けると、秋斉さんはいつものように記帳作業に追われている最中だった。翔太くんも一緒にいることを確認すると、不思議そうな顔をした。
「おや?翔太はんまで…どないしはったん?」
「あ、お久しぶりです。今日はまた、話があって来ました」
「どないな件でっしゃろ?ま、そないなところに突っ立ってないで、お上がりやす」
促されて、私と翔太くんは秋斉さんの前に二人して正座した。
「あの、秋斉さん…今日は相談事があって…」
「なんでっしゃろ?相談事とは…」
「はい、あの…少しの間、お暇をいただけませんか?」
「暇を?それはまたどないして?」
「私……会いに行きたい人がいるんです。その人は、手に大怪我をして…今、辛い思いをしているんです。だから、私がその人を勇気付けてあげたくて…」
「そのお人とは?」
「坂本龍馬さんです」
「坂本はんが…」
秋斉さんは、目を丸くして驚いていた。
私は、なぜ翔太くんが私を迎えにきたか…。これからどうしていきたいかを秋斉さんに説明すると、短い沈黙の末、彼は話し始めた。
「そういうことなら、遊女の立場を諦めてもらう事になるがよろしいでっか?」
私と翔太くんがキョトンとしていると、秋斉さんは尚も厳しい表情で言った。
「あんさんは、坂本はんを好いとるんやろ?」
「……どうしてそれを?」
「坂本はんに会うてる時のあんさんの目は、恋しとる目やったさかい」
くすくすと笑う彼を見て、私は赤面した。
「行くのなら、それなりの覚悟で行かなあきまへんえ。今までわてがあんさんに教えてきたことが、坂本はんの役に立つん言うなら尚のこと」
「秋斉さん!」
「何かあったら、遠慮なくわてに頼り。おまけに慶喜はんも、あんさんの為なら力を貸してくれるやろうし。ちいと、手放すのは惜しい気もしますが、恋をしはった女子には勝てんさかい」
秋斉さんは、笑顔で言った。
「慶喜さんは、おまけなんですか?」
「そうや、あのお人はおまけや。ただ、あんさんが居なくなると知ったら悲しむやろうけどな」
私達は、顔を見合わせてくすくすと笑った。
それを見ていた翔太くんも、頭を下げながら言う。
「あの、藍屋さん……今まで春香を大切にしてくださって、本当にありがとうございました!」
「春香はんは良い遊女やった。坂本はんのおかげや。翔太はんのおかげでもありますえ」
「いやぁ…俺は何も…」
翔太くんは照れながら頭をかいた。
「ほなら、善は急げや。早う支度をしなはれ」
それから、私と翔太くんは部屋へ行って荷物をまとめ始めた。身支度を整えながら、しばしの間思い出に耽った。ここに来てから、約一年が経つ。右も左も分からない私を、優しく迎え入れてくれた秋斉さんと慶喜さん。
そして、花里ちゃんや同じ新造仲間…。菖蒲姉さん達も、番頭さん達も。私にとって、この時代で生きていくうえで必要不可欠な存在だった。お世話になった人たちと、もしかしたら永遠の別れになるかもしれないと思うと、胸が一瞬ズキっとした。けれど、隣で微笑む翔太くんの笑顔が私の背中を押してくれたのだった。
置屋のみんなに挨拶を終えると、私達は龍馬さんの待つ場所へと急いだ。
翔太くんに連れられて、京都の事務所である酢屋へ案内されると早速、龍馬さんのいる部屋へと案内された。
襖を開けて、入った瞬間。龍馬さんはこちらを見て、あんぐりと口を開けて言った。
「な!…おまんは……春香じゃないがか!」
私はゆっくりと部屋の中に入ると、いつものように両手をついて挨拶をした。
「龍馬さん、お久しぶりです」
「おう……じゃが、なぜおまんがここに?」
「俺が連れて来ました」
翔太くんが龍馬さんの傍まで行くと、今までのことを説明した。私が何もかもを捨てて、ここに来たこと。これから、龍馬さんと一緒に居られることなど。
「ほうじゃったか…。しかし、春香をここに置くことは出来んき」
「龍馬さん!?」
「翔太、おまんの気持ちは嬉しいが…わしの周りは危険だらけじゃき。春香の命を脅かすことは、わしの本意じゃ無いがよ」
「俺が二人を守ります!」
「……翔太」
「……俺が、龍馬さんを…そして、春香を守ります。命に代えても」
彼の真剣な眼差しに、龍馬さんは驚いた顔をした。この時代に来て、龍馬さんと出会って…彼は一回りも二回りも男らしくなっている。こんなにも人の気持ちを優先して考えられるなんて…。彼の真剣な顔を見つめながら、私は胸が熱くなった。
そして、私も意を決して龍馬さんに気持ちを伝ようと口を開いた。
「龍馬さん…。私がここに来たのは、ただ龍馬さんと一緒に居たいだけではないんです。私、秋斉さんのところで遊女になって、沢山の人に出会い、いろんなことを経験して来ました。時には、泣きたくなりそうな時もありました。でも、あなたと出会ってからは、少しずつ変わって行くことが出来た。そして、何より…あなたの優しい笑顔にいつも背中を押してもらいながら、私も誰かの背中を押してあげられるようになったのです。だから、これからはあなたや周りの方々のお役に立ちたい!そう、心から願っています」
龍馬さんは、困ったような顔で私を見つめていた。
「それに…前も言いましたが、私はあなたの傍が良いのです。どんな時も、あなたの隣に…」
そういい終わると、自然と涙がこぼれ落ちた。目の前が涙で霞んでぼやけてしまうくらいに。龍馬さんは私の側までくると、涙で濡れた頬を傷ついた手で優しく触れた。
「…ありがとう」
龍馬さんはいつものように微笑んだ。
ずっと見たかった、彼の笑顔がそこにあった。
初春を迎えようとしていた頃。
いよいよ、湯治の旅が始まることになった。翔太くんと同じように、私も龍馬さんの身の回りのお世話をする為に同行することになったのだった。まずは、薩摩の霧島温泉へ行くことになり、私達は港へ来ていた。
「海、久しぶりだなぁ!」
でっかい波しぶきを上げる海を見て、私は感嘆の声をあげた。すると、側にいた龍馬さんも満面の笑顔で海を見つめていた。
「ほうか!わしは海が大好きじゃ!嫌なことも一気に波が流してくれるぜよ」
太陽に照らされた彼の横顔はとても眩しくて、長い髪は海風に遊ばれていた。そんな彼に見とれていると、龍馬さんがこちらを見てニコっと笑った。
「海は好きかや?」
「あ、はい、大好きです!」
「ほうか!…海を見ちょると自分がちっこく見えるぜよ。まさに、”世に生を得るは事を成すにあり”、じゃな」
「え?」
「おまんは、自分がこの世に生まれてきたことを考えたことがあるがか?何かをこの世に残したい、自分の手でいったい何が出来がか試しとうなる……自分の心に恥じること無く生きるっちゅうことが、わしは大事じゃと思うちゅうき。海を見ちょると、何でも出来そうな気がしてくるんじゃ」
私は、龍馬さんの両手を見やった。両手の傷は深く、特に左手の人差し指が曲がらなくなってしまっていた。優しい笑顔の裏で、彼は人一倍苦しい思いをしている。どんなに不便だろう、どんなに悔しいだろうかと思っていたけれど、龍馬さんの志はとても大きくて素晴らしいものだから、こんなに苦しい状態でも前向きな考えが出来るのだろう。いや、こんな状態だからこそ、そう考えることで自分を振るい立たせているのかもしれない。
<世に生を得るは事を成すにあり>
その時は分からなかったけれど、それは後世に伝えられる彼の名言の一つであった。
「龍馬さーん!」
船の前で、翔太くんが私達を呼ぶ声が聞こえた。
出港するという合図だった。
すると、龍馬さんが左腕を私に差し出した。
「行くぜよ、春香」
彼の逞しくて温かい腕を両手でしっかりと握り締めると、私達は砂浜をゆっくりと歩きだした。途中、砂に足を取られる度に、私達はくすくすと笑い合う。
まるで、船までの距離がバージンロードのようだった。
<つづく>
~旅立ち~(前半) 終わり。後半#4に続く。
゚.+:。(≧∇≦)ノ゚.+:。