<艶が~る、妄想小説>
今回は、土方さん編書きました
土方さんって、難しいけど…ギャップにいつもきゅんきゅんしてしまう私です
今回も、ちこっとだけリクエストを受け、土方さん頑張ってみました
土方さんのイメージが壊れていなければいいのですが…それだけが不安だぁ
(勝手ながら、主人公の名前を春香と書かせて貰っています)
↓初めての方は、こちらからお読みくださいませ
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バレンタインデー当日。
毎日のように花里ちゃんとお菓子作りをしてきた結果、あの人が好きそうなお菓子にめぐりあった。
それは、春駒(はるこま)というお菓子で、鹿児島城下の武士が最初に作ったお菓子らしく、晒し餡・上新粉・白玉粉・小麦粉・黒砂糖・白双糖を混ぜ合わせた物に水を入れて捏ね上げ、形を10cm程度の円柱状に整えた後に蒸し上げて完成となり、その食感は少し外郎(ういろう)に似ている。
この春駒を作るのに、行きつけの和菓子屋さんのご主人に作り方を親切に教えていただいたり、図々しくも台所をお借りしたりして、何とか今日を迎えることが出来たのだった。
「上出来や~!これなら、土方はんも喜んでくれるんとちゃうかな?」
私の作った春駒を見て、花里ちゃんが微笑みながら言った。
「……そうだと、いいんだけど…」
「大丈夫やって、自信持ち。これ、土方はん好きやと思うわ。それにこっちの桜餅も、ええ感じやで。隊士の皆はんも喜んでくれはるよ、きっと」
花里ちゃんの言葉に勇気付けられながら私はお菓子を箱の中に入れ、風呂敷包みで包むと、彼女にお礼を言って、元気良く置屋を後にした。
壬生浪士組改め、新撰組と改名してからは初めての訪問だし、近々、引越しするということも聞いていたので、今日はそのお手伝いなども出来れば…と、思いつつ、視界に屯所の門が飛び込んで来た瞬間、私はいろんな意味でドキドキし始めた。
そして、屯所の門をくぐると、遠くから威勢の良い隊士の方々の声が聴こえて来た。その真剣な声に耳を澄ましながら玄関に辿りつくと、私は静かに戸を開いた。
「ごめんください!」
大きな声で挨拶をすると、奥からそれに答えるかのように大きな声を出しながら、原田さんが現れた。
「あれ?春香ちゃん、久しぶりだねぇ」
「そうですね、二ヶ月ぶりくらいでしょうか?」
「今日は、どうしたんだ?」
彼の問いかけに、私は少し俯きながらも、皆さんにお菓子を持って来たことを説明すると、彼は少し考えながら呟いた。
「あ、そういやぁ、今日はあれだっけ?……なんだったっけっかな…えーと、ほら…」
彼が言いたいのは、バレンタインデーのことじゃないかと思い、私はくすくす笑いながらバレンタインデーのことかと尋ねると、彼は頭をかきながら大きく頷いた。
「そうそう、それだよ!なんか聞いたこと無かったからさ…春香ちゃんとこの田舎の風習なんだって?総司から聞いたよ」
「はい、毎年2月14日に行われるんです」
「ふ~ん。で、その大事そうに抱えているのが、お菓子かい?」
彼はニヤリとしながらお菓子を見ると、私は少し頬を染めながら、そうだと答えた。すると、彼はさらにニヤリとし、誰に渡すのか尋ねてきた。
「総司か?土方さんか?近藤さん…じゃあねぇよな」
「……い、言えません…」
私が俯いたその時だった。
奥から、ゆっくりと土方さんが姿を現すと、私を見て少し驚いた顔をした。
「……春香」
「土方さん…あの、今日は突然すみません…」
「……何か用か?」
「…えっと、その…」
私が言いよどんでいると、土方さんは、とりあえず上がれと言い、また去って行った。
(……なんだか、怒っていたみたいだな…)
私が土方さんの去ったほうを見ていると、原田さんが笑顔で言った。
「気にするな、最近は特に忙しいからな…気が立ってるんだろ。それに、引越しもあるしよ、新しい隊士たちの面倒も看なきゃならないからなぁ…」
「……そう…ですよね…」
忙しいとは聞いていたけれど……。
なんだか私だけ浮かれているのような気がして、さっきの土方さんの顔を思い出し気分は沈んで行った。
それから、私は原田さんに居間へと案内されると、ここで待つように言われて一人座り込む。
「ふぅ~……」
私は誰も居ないガランとした部屋で、思わず溜息をついた。せっかくのバレンタインデーなのだけれど、土方さんが貰ってくれるかどうか、そして、気持ちを受け止めてくれるかどうか……。
私は不安でいっぱいになっていた。
そんな時…。
土方さんが、襖を開けてゆっくりと入って来た。
「今日は、良く来たな」
「……はい、あの…今日はその…」
「………」
無言で私の前に座る彼を見て、私は緊張して何て言いだそうか考えていた。
(……どうしよう…何て言えばいいかなぁ…)
すると、彼は私を見つめながら、「……ばれん何とかってやつか?」と、言った。
「あ、はい!土方さんに…その…お菓子を…」
私は思いきって風呂敷包みを解き、箱を開けてお菓子を差し出すと、彼は少し呆気に取られながらも、「これを俺に?」と、呟いた。
「はい、土方さんはどんなものが好きなのか…全然分からなかったのですが、いろいろなお菓子を試行錯誤して作った結果、この春駒というお菓子なら…って思って…」
「…………」
私の説明に無言で聞いていた土方さんが、お菓子を見て少しだけ微笑んだように見えた。
「春駒か…」
「……嫌いでしたか?」
「いや、そんなことはない」
どうやら、嫌いな食べ物では無かったようなので、私は少しだけ彼に待っていて貰うと、台所を借りてお皿に春駒を綺麗に乗せ、彼の分のお茶を淹れて再び、彼の待つ部屋へと急いだ。
「良かったら、どうぞ」
「……ああ」
彼はお皿ごと掌に乗せ、一口分を切り分け始める。
(……好みの味に仕上がっていますように……)
私は、彼をじーっと見つめながら心の中で祈った。
そして、彼が一口目を食べようとした時、彼は私を見て困ったような顔で言った。
「……そんなふうに見られたら、食うに食えねぇだろ」
「あ、す、すみません!」
私はすぐに視線を泳がせると、彼は一口頬張った。
「…………」
無言で食べ続ける彼をチラチラと横目で見つつ、俯き加減に視線を落とす。彼は残りの分も食べ終わると、お茶を飲みながら、ふぅ~と、息を漏らして言った。
「……美味かった」
「ほ、本当ですか?」
「ああ……甘さも控えめだったしな」
さっきまでの緊張感はどこへやら…。
彼の少し微笑んだ表情に、私は嬉しくなり、思わず顔をほころばせた。
(……良かったぁ。喜んで貰えて…)
彼は、お皿をお盆に戻すと、改めて私を見つめながら呟いた。
「で、今日、俺に菓子を渡しに来たってことは…俺に気があるってことでいいのか?」
「……え…えっと…その…」
「違うのか?」
「い、いえ!違わないです!」
私が慌てふためいていると、彼は可笑しそうにふっと、鼻を鳴らした。私は、心を決めて、彼に気持ちを伝えようと喉まで出かかったその時、襖の向こうで涼やかな声がした。
「入りますよ」
言いながら、沖田さんは部屋の中に入ってくると、私と土方さんを交互に見て苦笑した。
「……どうやら、お菓子はもう食べられてしまったみたいですね」
沖田さんは残念そうに呟きながら、土方さんの隣にちょこんと腰掛けた。そして、土方さんに稽古が終わったことを伝えると、私のほうを見ながら、「私も春香さんのお菓子が食べたかったです…」と、呟いた。
「あ、あの…土方さんのとは違いますが、皆さんの分のお菓子も用意して来ました!」
「え、本当ですか?」
「今、食べますか?」
沖田さんに尋ねると彼は、是非、と言ったので、私は部屋を出て台所へ向かおうとしたその時、襖の向こうから聞こえて来た二人の会話に思わず耳を傾けた。
「土方さんは何をいただいたんですか?」
「春駒だ」
「いいなぁ…土方さんだけ特別なお菓子なんて、ずるいですよ…」
「お前なぁ……」
兄弟みたいな二人のやり取りを見ていると、心がほのぼのとしてくる。
(……本当に仲がいいんだなぁ…)
そんなふうに思いながら、私は台所へ行って沖田さんの分のお菓子とお茶を用意し、また居間へと戻ると、沖田さんがお腹を抱えて笑っていた。
「お二人とも、楽しそうですね」
私はそう言いながら、沖田さんの前にお盆ごと置くと、沖田さんがこの間起こった不思議な話の事を聞かせてくれた。
ある晩のこと。永倉さんがトイレに起きた時、トイレの戸の前で誰かが立っているのが見えて声をかけると、一瞬にしてその人は消えてしまい、ビックリした彼の悲鳴が屯所中に響き渡り、全員が何事かと飛び起きて、大騒ぎになったのだそうだ…。
「しっかし…今、思い出しても腹が立つ…」
土方さんは腕組みをしたまま、瞼を閉じて言うと、その横でお腹を抱えて笑っていた沖田さんも口を開いた。
「でも、永倉さんが見たのが本物の幽霊だったとしたら…どうします?」
「んなわけあるか…あいつが寝ぼけてただけだろうよ」
「そうかなぁ…。春香さんは、幽霊っていると思いますか?」
突然、尋ねられて私は一瞬、どう答えていいか戸惑ったが、「いると思います」と、答えると、土方さんは私を見ながら、信じられない…と、いうような顔をした。
そして、沖田さんはなおも楽しげに話し出す。
「私も、結構信じています。もしも、私が死んだら、土方さんのところに化けて出ようかと思ってますし」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、殺したって死なねぇ奴が良く言うぜ」
私は、少し離れたところで二人の会話を微笑ましく見ていた。そして、楽しそうな沖田さんを見つめる土方さんを見て、少し驚いた。なんて、優しそうな目をするのだろう…と。そして、次第に顔を曇らせて節目がちに俯くのを見て、胸がズキッとした。
彼らは、京の治安を守るべく、毎日剣術の稽古を必死でやっていると聞いたことがあった。いつもはこんなに温和に見える沖田さんでさえ、隊の稽古につく時は鬼のようになるらしい…。
この時代に生きる男達が、いかに過酷な世界で生きているか…。
女の私にはきっと、いつまで経っても理解できない世界なのだろうな……。
「……春香さん?」
「えっ?」
心配顔で私の顔を覗きこむ沖田さんに、何でもないことを伝えると、沖田さんは、「お菓子、いただきますね」と、言い、美味しそうに桜餅を頬張った。その美味しそうな顔に、私も思わず嬉しくなる……。
そして、沖田さんはお茶をぐいっと飲むと、ご馳走様でしたと言い、私に挨拶をして居間を出て行った。私は最後まで微笑んでいた沖田さんに微笑み返したまま、ふいに視線を感じ土方さんの方を見ると、彼は私を見て微笑んでいた。
二人だけになり、また少しだけ緊張感が生まれ始めると、土方さんは静かに口を開いた。
「今日は、まだゆっくり出来るのか?」
「は、はい。お座敷までに帰れば良いと、秋斉さんから言われています」
「……そうか。じゃ、梅でも観に行かないか?」
「あ……はいっ!」
それから、一緒に屯所を出ると、ひたすら彼について歩き始めた。すぐ隣には、大好きな土方さんがいてくれる……。なんだか、夢でも見ているような気がしてきた。
ふと、見上げれば、端整な横顔がすぐそばにある。
(……この横顔が…かっこいいなぁ…)
そんな時だった。
余所見をしていたからか、私は地面から出ていた小さな石に気付かず、思いっきり前のめりになって倒れそうになった。
「あっ!」
もう駄目だ……と、思った瞬間、大きな手に支えられ思わず抱きとめられる。
「余所見してやがるからだぞ」
「す、すみません…」
「俺に見とれるのはいいが、しっかり歩け…」
「……は、はい…」
(……見とれているの…バレていたのかぁ…)
彼に抱きとめられたまま、私は彼の視線と温もりを一気に受け、心臓がこれ以上ないってほど飛び跳ねていた。
そんな私を見て、彼は左腕を差し出して言った。
「ほらっ……」
「……え…」
私が不思議そうに彼を見つめると、彼は少し頬を赤くしながら、「掴まっとけ」と、呟いた。
「……あ、ありがとうございます」
私は、逞しい腕にしっかりと掴まると、またゆっくりと歩き出す。私の歩みに合わせて歩いてくれている彼の優しさに、私は心が温かくなった。
それから、しばらくまた彼について行くと、とある神社に辿りついた。入り口には、大きな鳥居が一つ立っており、そこから、わりとすぐのところに立派な本殿が見える。
「ここは……」
「梅宮(うめのみや)大社と言って、初めて酒を作って神々に献じた酒造の祖神である酒解神(さかとけのかみ)と、その家族である神々が祭られている。ここの梅なら、もう咲いているかと思ってな」
活々と話す彼を見て、私は思わず微笑んだ。勿論、他にも子授けや安産のご利益があるらしいが、彼がお酒の神様にいつも何をお願いしているのか想像したら、なんだか可笑しくて…。
「何が可笑しい?」
「いえ、沢山美味しいお酒が飲めるといいですね」
私がなおも笑いながら言うと、彼は少し訝しげな顔をしたが、またゆっくりと歩き出した。
神社の中へ入ると、空気が一変し、冷たい風が私達の間を吹きぬけた。そして、本殿の前で、一緒に参拝をする。
考えてみれば、土方さんと一緒に神社に来るのは初めてだった。なかなか、一緒にこんな場所まで来るなんてことは、難しかったから…。ふと、横にいる土方さんを見ると、もう両手を合わせて何かをお願いしているようだった。
時々、吹き荒れる春の風に彼の前髪は軽く遊ばれ…そして、閉じられたその切れ長の目……。
(…あっ…見とれている場合じゃなかった…)
私は急いで目を閉じると、せめて彼が大好きなお酒を楽しく飲めますように…お酒の神様にお願いをした。
それから参拝を終えると、彼は梅の園へ案内してくれた。そこは、かなり広い範囲で、赤や白、桃色の梅の花が咲き乱れていた。梅の良い香りも、漂ってくる。
「うわぁ……素敵…」
こんなに素敵な梅園に来たのは、初めてかもしれない…。彼も、梅の花を見上げながら瞼を閉じて何かを感じているようだった。その色っぽい顔に、私はまたドキドキし始める。
「春香……」
梅を見ながら彼が呟いた。
「今日は、ありがとうな…」
「土方さん…」
「お前の気持ちは受け取れねぇが…」
「……え……」
梅の花を見上げたまま、笑顔で呟く彼に、私は不安になり思わず歩みを止める。そのまま歩みを止めずに歩いていく彼の背中を見つめながら、どんどん離れていく彼に声をかけた。
「待ってくださいっ!」
私の声にやっと歩みを止めると、彼はゆっくりとこちらを振り返った。
「それって、どういう意味ですか?」
私は駆け足で彼の元へ近づくと、彼は真剣な眼差しで私を見下ろしている。
「私のこと……嫌いですか?」
「……そんなことはない」
「本当は、いつも私が屯所へお邪魔するのも…迷惑でしたか…」
「…………」
私は、言いながら胸が詰まって上手く言葉に出来ずにいると、彼は苦笑しながら私をそっと抱きしめた。
「俺達が今まで、どんなことをしてきたか…そして、これからどんなことをしようとしているのか、お前には一生理解出来んだろう」
「土方さん……」
「……んな簡単なもんじゃねぇしな」
「私は……」
そんなことを聞きたいんじゃない…。
私が、土方さんから聞きたいのは…。
「その通りだと思います…たぶん、私には、土方さんたちのことを理解するなんて一生無理だということも、分かっています。でも、それでも私は…土方さんに……」
言いながら、私はいつの間にか涙で前が見えなくなっていた。
「あなたについて行きたいんです……」
「…………」
彼は少し驚いた顔をし、無言のまま私をただ抱きしめると、私の耳元で静かに囁いた。
「俺の女になるってことは、墓に片足を突っ込んだも同じ……お前にその覚悟があるのか…」
その言葉に、私は思わず顔を上げて彼の顔を見上げた。
「ひ、土方さん……」
「お前にその覚悟があるのなら……俺について来い」
一番聞きたかった言葉に、私は満面の笑顔で頷くと、彼は苦笑しながら私に言った。
「鼻水出てるぞ…」
「……ひ、土方さんのせいじゃないですか…」
彼は、そっと懐から小さな手拭を取り出し、私に差し出した。
私はそれを受け取り、遠慮無く涙を拭かせて貰う…。
これからどんな苦難が待ち受けていようと、彼と一緒なら乗り越えられる…。そう確信したのは、私がお座敷に出ていた時。
彼に三味線や舞を披露すると、なんだかんだ言って私に言葉をかけてくれたり…。たまにだけれど、彼に褒められると嬉しくて……。言葉はぶっきらぼうだけど、温かくて…。
この人と一緒にいれば、私は絶対に幸せになれる…。
私はそう確信したのだった。
「送っていこう」
そう言うと、彼はまた私に腕を差し出した。
「……もう、俺から離れるなよ」
梅の花びらが彼の肩にヒラヒラと舞い落ちる。
まるで、梅の花さえも彼に恋焦がれたかのような…。
私は彼の温かい腕に寄り添い、このまま置屋にたどり着かなければいいのに…なんて思いながら、ゆっくり、ゆっくり歩いた。
<おわり>
~あとがき~
お粗末さまでした。・゚・(ノε`)・゚・。
土方さんって一番難しいねん(⊃∀`* )
どこまで崩していいものやらって考えるんですよね(笑)
次は、秋斉さん書いたら幕府新撰組編はやっと終わるぅ。
もう、バレンタインはとっくに過ぎたのに(≧∀≦)