<艶が~る、妄想小説>
もう一つの艶物語 ~旅立ち~(後半) #4 *坂本龍馬*
いよいよ、龍馬さんと翔太くんと、ヒロイン(春香)の湯治の旅が始まります
すこーしだけまた二人はいい雰囲気に
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それから数日後。
無事に薩摩の霧島温泉に辿り着くと、龍馬さんの治療生活が始まったのだった。
私と翔太くんは龍馬さんの身の回りのお世話をしながら、気が付けば一週間の時が過ぎていた。龍馬さんの手の傷は、温泉の効果も得てどんどん良くなりつつあった。
そして、いつものように部屋を掃除して料理の下ごしらえなどを終えると、私は縁側に出て一休みする。庭にある木を見つめ、ふぅ~っと息をつきながら空を見上げると、青空に白い雲が静かに流れていた。
目を閉じると、聞こえてくるのは雀の鳴く声と風がそよぐ音。
心の中の不安は消えないままだけど、今だけは…。龍馬さんと一緒にいられる喜びを胸いっぱいに感じていた。
一方、その頃。
龍馬さんと翔太くんは、温泉で一杯飲みながら、男同士で熱く語り合っていた。
「翔太、おまんはいつ故郷に帰るつもりじゃ?」
「え?……あ、あの…もう少し後になると思います…」
「たまにゃ、故郷に帰らんといかんぜよ。おかやんやおとやんも、おまんのことを心配しちょるき」
「て、手紙を書いているので、心配はさせてませんよ!」
「ほうか?ならええが」
翔太くんは、苦し紛れな嘘をついた。私達が未来から来たことは、お互いに内緒にしていこうと決めたから。翔太くんは動揺しながらも、話題を変えて話し始める。
「あの、ところで龍馬さん…あいつのことですけど。いつ嫁さんにしてやるつもりなんですか?」
「ぶっ……」
龍馬さんは飲んでいたお酒を吹き出した。
「…な、何を言うちょるんじゃ?!」
「あいつは、それを望んでますよ」
翔太くんの言葉に龍馬さんは驚きながら、手酌をしてお酒をぐいっと飲み干した。
「わしの最終目標じゃが……今はまだ叶わん夢ぜよ」
「龍馬さんって、意外と奥手なんですね…」
翔太くんがニヤニヤしながら言った。
「翔太こそ、人のこと言えるんかのう?」
「俺は……えっと、まぁ…その…」
「はははは、目が泳いじょるき」
「お、俺はもう、先に出てます!お先に……」
そう言うと、翔太くんは先に温泉を後にした。
「……嫁さん…か…」
龍馬さんはまたお酒を飲み、手拭を頭にのせながらポツリと呟いた。
一休みした後、私は夕飯の支度をし始める。今夜は、龍馬さんの好きな鯖の刺身にダイダイの汁をつけたものや、他にも魚料理を用意した。
一息つくと、背後からはしゃいだ声がした。
「おお!すげぇ美味そう…」
「ほんに、鯖の刺身は久しぶりじゃ!」
振り向くと、二人がにこにこしていた。
おかずに伸びる二人の手をぴしゃりと叩くと、もう少し待つように促した。
「つまみ食いは駄目ですっ!もう少しでご飯が炊けるから待ってて下さいね」
二人は私に窘められて少しがっくりと肩を落とすと、居間へと戻って行った。
それから私達は、夕飯を食べながら楽しい時間を過ごした。二人の楽しげな顔が見られて、こちらまで幸せな気分になる。龍馬さんも大好物の鯖の刺身を食べながら、私に笑いかけてくれた。
一通り食事が済むと、二人は眠そうにまどろむ。
「俺、もう食えない…」
翔太くんがお腹を押さえながら呟いた。それを見ていた龍馬さんも、瞼をとろんとさせていた。
「お粗末様でした!」
食べ終わったものを片付けて、私も温泉へ行く支度をする。そして、まどろむ二人に声をかけて居間を後にした。
私はまた温泉につかりながら、さっきの二人の顔を思い出す。
(二人とも、子供みたいだったなぁ…)
こんな平和な日々がずっと続けばいいのに…。ふぅ~っと、ため息にも似た声を漏らすと、私は身体の芯まで温まった。
そして、龍馬さんの部屋に戻ると翔太くんの姿は無く、龍馬さんは一人静かに佇んでいた。
「おかえり」
「ただいま戻りました。今夜もいいお湯でした」
いいながら、私は鏡台の前に座って髪を梳かし始める。すると、彼はゆっくりと私の背後にしゃがみこむと、後ろから優しく抱きしめてきた。
「龍馬さん…」
「……ずっとこうしたかったちや」
いつもよりも甘く優しげな声で、彼は囁いた。
「……私もです」
「もう、邪魔は入らんぜよ」
そう言うと、彼はニカッと笑った。その笑顔にぷっと吹き出しつつも、私は彼の逞しい胸に寄り添う。
いつだったか、いつものように龍馬さんと翔太くんがお座敷に遊びに来てくれてた時、高杉さんも交えて投扇興をして遊んだり、その晩は翔太くんと龍馬さんが泊まってくれた事があった。その時、私達はお互いの気持ちを打ち明け合い、気持ちを確かめ合うかのように抱きしめ合おうとし、とても良いところで翔太くんの寝言に邪魔されていたのだった。
「まだ…おまんを抱く夢を見ちょうようじゃ…」
私の耳元で優しく囁くと、彼は鏡に映った私をじっと見つめる。鏡越しに映る彼の優しい眼差しに、胸がドキドキした。するとそこへ、ゆっくりと月明かりが部屋の中へと差し込んできた。彼は私を抱き抱えると、縁側へと歩き出す。
「おお!春香、見てみるちや、綺麗なまんまるお月様ぜよ」
「本当だ!綺麗ですね」
(そういえば、以前、月の中にいる兎が人の顔に見えたと言っていた龍馬さんだけど、今はどういうふうに見えているんだろう?)
私は気になって彼に尋ねてみた。
「あの、龍馬さん?」
「ん、なんじゃ?」
「以前、お月様の中の兎が人の顔に見えたって言ってましたが、今もそういうふうに見えますか?」
「うーん、いんや。今はちゃんと兎が餅つきしちゅうように見えるぜよ」
彼はにこっと笑いながら言った。
その笑顔に、私は一安心すると、またお月様を見上げる。
「のう、春香」
「なんですか?」
「わしの……」
「……?」
「わしの嫁さんにならんか?」
「……っえ?」
一瞬のことに、私は呆然とした。
まさか、彼からそんなことを言ってもらえるとは思っていなかったから…。
「本当ですか?龍馬さん…」
「……本気じゃ。いずれは…おまんを嫁さんにしたいと思うちょる」
「……私、信じて待ってます…」
「おう、必ずおまんを幸せにするき」
私を抱きかかえたまま、彼はまたニカッと微笑んだ。
それから約二ヶ月もの間、私にとって、これ以上ないほどの幸せな日々が続いたのだった。
そして、季節はまた初夏を迎える頃。
幕府は、十万を超える兵力を投入して第二次長州征伐を開始した。
治療の旅を終え、ユニオン号で下関に寄港した私達は、長州藩の求めにより参戦することになり、高杉さんが指揮する小倉藩への渡海作戦で龍馬さんはユニオン号を指揮し、最初で最後の実戦を経験することになるのだった。龍馬さんの手の傷は、完治とまではいかないけれどだいぶ良くなってきていた。
湯治の旅は、私と龍馬さんにとってまるで新婚旅行のようだった。
<つづく>
艶物語 #5へ続きますっ。
(⊃∀`* )