<艶が~る、妄想小説>
今回は、秋斉さん、俊太郎様、龍馬さん、沖田さんに引き続き…
土方様に挑戦っす
俊太郎様の次に書きにくい人だったりしますが…
頑張って書いてみました
ヒロインが屯所へ出向き、土方さんや沖田さんたちと半日を過ごすお話っす
良かったら読んでやってくださいませ
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<もう一つの艶物語 ~恋心~> *土方歳三編*
早朝。
「ふわぁぁ…」
あくびをしながらゆっくりと起き上がった。
今日は、待ちに待った土方さんに会いに行ける日。
私はニヤケる顔を必死に堪えながら新造としての仕事を終わらせて、身支度を整えた。
「よし、完璧!」
鏡の前で入念にチェックする。
そして、秋斉さんの元へ行き、出かけることを報告して、いそいそと置屋から出ようとしたその瞬間、ふいに何かとぶつかった。
「あ、痛っ!」
「おっと」
「け、慶喜さん!」
偶然にも、中へ入ろうとしてきた慶喜さんにぶつかってしまったのだ。
彼は私の両腕を掴むと、顔を覗きこみながら言う。
「怪我は無いかい?」
「あ…大丈夫です。すみません、慌てていたから気が付きませんでした」
「どこかへお出かけかな?」
「はい」
「残念だな…せっかく春香に会いに来たのに…」
慶喜さんは崩れた着物の裾を正しながら言った。
私がどぎまぎしていると、中から秋斉さんの声がした。
「おや、慶喜はん。お早いお着きどすな」
「早く春香に会いたくてね」
「それは残念どしたな、春香はんはこれから出かけるさかいに」
「うん、そうみたいだね…」
「春香はん、早う行きなはれ。先方様もきっと心待ちにしとるやろうから」
「はい!」
私が元気良く答える隣で、慶喜さんが私の肩を抱きながら言う。
「俺も春香に着いて行こうかな~」
「あんさんの相手は、わてがしたるさかい…」
秋斉さんの呆れた顔を見て、私はくすくすと笑った。
そして、二人に挨拶をすると揚屋を後にした。
屯所にたどり着くと、中から威勢の良い声が聴こえてきた。
朝の稽古に励んでいる声だ。
「ごめんください!」
久しぶりの訪問に、私は少し緊張しながらも声を張り上げて言った。
すると、玄関の方から沖田さんが駆け寄って来る。
「いらっしゃい、春香さん。今日はよくお越し下さいました」
「お邪魔します」
ふと、沖田さんの背後から人の気配がしてそちらに目を向けると、少し無愛想な顔でこちらに近づいてくる土方さんの姿が見えた。
「よぉ…」
「あ…土方さん…お久しぶりです」
「…おお」
久しぶりの土方さんに、私は早速胸がどきどきし始める。
(やっぱりかっこいいなぁ…この流し目が…もう、見ていられないけど…もっと見ていたい…)
「……嫌だなぁ。二人して見つめあって」
ふと、沖田さんが怪訝そうな顔で呟いた。
「うるせえよ…」
「あ、あの……えーと…」
戸惑う私を見て、沖田さんはくすくすと笑いながら、「こんなところで立ち話もなんですから、中へどうぞ」と、言って、私の背中を押しつつ中へと案内してくれた。
私はすぐに土方さんの部屋へと案内された。
そこは相変わらずキチンと整えられていて、長机の上には筆一式だけが置かれていた。そして、しばらくすると藤堂さんがお茶を持ってきてくれたのだった。
「お茶、お待たせ!」
「ありがとうございます!」
「いえいえ……あれ?」
と、藤堂さんがお茶を置きながらマジマジと私の顔を覗きこむ。
「春香さん、以前会った時より綺麗になったような…」
「藤堂さんも、そう思いますか?」
と、沖田さんが言葉を返す。
私がどぎまぎしていると、隣に座っている土方さんの右眉がピクリと動いた。
「おっと、それじゃおいらはこのへんで」
と、言うと、藤堂さんはそそくさと部屋を出て行った。
「ふふふ。私もですけど、みんなが春香さんが来るのを楽しみにしていたんですよ!…特に土方さんはね」
「総司、余計なことを言うんじゃねぇよ」
「あはは、素直じゃないなぁ。本当に」
(土方さんが、私を心待ちにしていてくれた…?)
私はお茶をいただきながらも、自然と顔がニヤけていくのを抑えつつ、なんて言っていいのか困惑した。
土方さんの隣でにこにこしながら座っていた沖田さんは、「じゃ、私はそろそろ稽古をしなければいけないので。ごゆっくり」と言うと、その場からゆっくりと立ち去った。
「……春香」
突然、土方さんに呼ばれてびっくりして答えると、彼は縁側に出ないか?と呟いた。私は頷くと、二人で縁側に出る。
今日はお天気も良く、縁側にはこれ以上ないくらい暖かな日差しが注がれていた。土方さんが無造作に座り込むと、私も少し躊躇いながら土方さんの隣に座った。
「あったかい…」
私は空を仰ぎながら呟くと、彼は「そうだな」と、目を細めながら言った。
すると、私たちが座る目の前に、二羽の雀が飛んで来た。
チュンチュンと、何かを啄ばみながら仲良く餌を探している。
「わぁ~、可愛い…こんなに近くに…」
言いながら、すぐ隣から視線を感じてそちらを見ると、土方さんが柔らかな目で私を見ていた。私はドキドキする胸を必死に抑えこみ、思わず俯く。
鬼の副長と呼ばれている人が、今私の隣で穏やかに微笑んでいる。なんだか、土方さんの違う一面を見た気がした。
「土方さん」
「なんだ」
「この間は、誘っていただいて嬉しかったです」
「みんな、お前が来るのを楽しみにしていたからな」
「……私なんて何も出来ませんけど」
「別に何かをしてもらおうなんて、期待はしちゃいねぇよ」
(うっ……そう言われると…なんて言ったらいいのか…)
俯く私に、彼はふっと笑うと静かに呟いた。
「お前は……」
「……え?」
「いや、何でもない」
やがて彼は空を仰ぎ、眩しげに目を細めるとゆっくり瞼を閉じる。
その横顔が色っぽくて、目が逸らせなくなった。
何て言おうとしたのか分からなかったけれど、私は心臓が飛び出そうになるくらいドキドキしていた。
それから、私も手伝ってみんなでお昼を食べたり、沖田さんたちの稽古を部屋の端で見守ったり、楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行った。
「そろそろ、置屋に戻らなければ…」
「もう、そんな頃合いですか…」
沖田さんが残念そうに呟いた。
それから、新撰組隊士の皆さんに見送られながら、私が玄関で草履を履いていると、沖田さんがまた声をかけてくれる。
「楽しい時間はあっと言う間ですね。最近は物騒ですから、私が置屋まで送っていきましょうか?」
「……俺が送って行こう」
沖田さんの隣にいた土方さんがポツリと呟くと、無言で私の隣に腰掛けながら、草履を履き始めた。
「あ、いえ…大丈夫ですよ。私一人でも帰れますから…」
私が照れながら言うと、土方さんは、「……そうか」と、言って少し不機嫌そうに草履を脱ぎ始める。
「土方さん!もう、本当は春香さんを送って行きたくてしょうがないくせに…」
と、沖田さんが苦笑いをした。
座りながら、土方さんは厳しい目つきで私の方を見て言った。
「どうするんだ?」
「えっ?」
「俺と行くのか、一人で帰るのか……どっちなんでぇ」
少し眉を吊り上げながら言う彼に、私はどぎまぎしつつも、「土方さんに送っていただけたら、嬉しいです」と、答えた。私が素直に答えると、土方さんは少し優しげな顔をしてまた草履を履きなおした。そして、しばらくすると、「じゃ、二人とも気をつけて」と、沖田さんが笑顔で見送ってくれたのだった。
夕焼けがオレンジ色に空を染めあげる中、私達は無言で歩いた。
(まさか、土方さんから送っていくと言って貰えるなんて思っていなかった…どうしよう…)
沈黙を打ち破るべく、私は思いきって彼に声をかける。
「……土方さん」
「ん?」
「今日は、本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「総司や他の連中も楽しかったようだ」
「……土方さんは?」
「聞きたいのか?」
「そ、そりゃ、聞きたいですよ」
彼は私を横目でチラッと見ると、微笑みながら言った。
「楽しかった……なんて、本当なら口が裂けても言えねぇな」
(ううっ、そう来たか…)
私は、今までに無い土方さんからの言葉に内心、小躍りしたくなる感情を必死に押さえ込んだ。
「お前が来ると皆の英気が高まる。だから、またいつでも来い」
その言葉だけでも、私はものすごく嬉しかったけれど…
さっき、縁側で彼が言おうとしていたことが気になって、尋ねてみることにした。
「あの、もう一つ聞きたいことが……」
「なんだ」
「さっき縁側で言いかけたことって、なんだったんですか?」
「………」
私は、黙り込む彼にがっくりと肩を落とすと、それを見ていた彼は私の肩を抱きしめ、前を向いたまま静かに囁いた。
「……お前はただ、俺の傍にいればいい」
彼の素直な気持ちが聞けたようで、私は思わず土方さんを見上げる。
「……なんて顔してやがる。不細工になってるぞ」
「だって……嬉しくて…」
私は、左肩の手の温もりを感じつつ少しだけ彼に寄り添って歩いた。
行きは少し長く感じられた道のりも、二人で歩いていたらあっと言う間に置屋に着いてしまったのだった。
「着いたな」
「あの、送っていただいてありがとうございました」
「ああ。さっきも言ったが、また来い。お前ならいつでも歓迎するぞ」
そう言うと、土方さんはまた来た道を歩き出す。
私は、その後ろ姿にお辞儀をすると、彼の背中をいつまでも見送った。
土方さん……私、あなたを好きでいてもいいですか?
<おわり>
お粗末さまでした(⊃∀`* )
土方さん大好きだけど、難しいなぁ~