もう、20年程も前の、出来事です。




所属するオケの
12月の定期演奏会に向けて、
あと僅か、…という時季。

あたたかいお品が からだに嬉しい、

ちょうど 今頃のこと、でした。


…m(__)m



*****




先日。


マエストロ、

セイジオザワ/ウィーンフィル

彼の 未完成@洋酒館。 を 聴きながら、

その 全身からほとばしる

「音楽、愛」に

「人間、愛」に、

…感涙、致しました。




そして、演奏後。


しばらく 放心しながら


むかしむかし の とある出来事を、

思いだしていました。

…。





ミニチュアスコアは、全音さん。

*******




毎週末、オケの練習帰り、

乗換駅にて 夕食を頂いてから、

寮に戻るのが、習慣でした。

休日、寮では食事が出ないのです。



練習帰り、そのまま、

飲み会に参加することも、しばしば。

しかし、
毎回は流石に。
(アルコールダメですし、経済的にも。)


飲み会に参加しない日は、
同じ寮生で、同じオケにて活動していた
フルート奏者の友人と、
帰途夕食をとる、というのが常でした。





「その日」の練習は、

Tutti(全体合奏)ではなく、

弦・管、に別れての練習でした。


練習場所は、全く別々の地にあるホール。

でも、偶々お互いの乗換駅は、
何時もと同じ、某駅。

じゃあ、練習後に、その駅に合流ね!
と待ち合わせ。
連れ立って、何時もと同じように、
楽器ケースを抱えてお店へ。



「行きつけ」というと、大袈裟ですが、

その 乗換駅の線路高架下には

関西風(彼女も私も関西出身なので)で、

薄味の、おうどんの 美味し~い、

私達お気に入りのお店がありました。

(今現在も、あります^^♪)



その日。

私たちがお店に入った瞬間。

一組の男性客グループを除く、

他のオバサマ女性客、全員が、揃って


「ハッ!」としたように…


微かにザワメキながら、

私達を注視しているのです。




一瞬、「???」…です。



それまで、
こちらのお店は何度も訪れましたが、
このような経験は、ありませんでした。



高額な、ディナーレストランでもありません。若い学生二人が楽器ケース抱えて入ったから、って、…何か?

…問題でも?


何が理由で、注視されているのかわからず、軽い反発心がわいてしまうくらい、オバサマ方の視線は、ちょっと不自然な程、あからさまでした…。




なぜ、注目されるのか、が、不可解。




不審に思いながらも空腹に耐えず(笑)、

ま、いっか?と…。

私達は男性客グループの正面のソファ席に座りました。
真横に、彼らの背中をみる、位置でした。



男性客グループの横並びにいらっしゃる、

オバサマ方のチラチラした、視線の中。


わざと、それらを払拭するように、
堂々と、

「今日の練習、どうだった?」

と、あたたかいおうどんを頂きながら。


音楽。

合奏、指揮、等々について。

その日の練習状況についての、情報交換。
かなり、盛り上がりながら、会話していました。


その間も、チラチラオバサマ方の視線の嵐にあいながら。



気にしないようにしても、

気になります…(^_^;)



も~~、何なの?


と、何気にオバサマのお一人と目が合うと、

何やら、その方、メガネの奥の目が、

ニヤニヤとされています。




?????



何?

ちょっと、薄気味悪い…



と、ふと、

男性客グループの方に視線を移すと。


3人の方々が、あたたかいお鍋を囲み、
盛り上がっています。


手前の椅子に、

上背のある、スーツ姿の男性が二人座り、

奥の、ソファに腰掛けている、小柄な男性を相手に、何やら…賑やかです。



…まぁ、このお店、

いつからこんなに騒がしくなったのかしら?


オバサマ方の視線にとらわれていたので、男性客には全く注意せず。

何だか盛り上がってる方々がいるな、くらいの認識でした。



その彼等の 大きな丸聞こえの声に、

いささか、辟易(かなり大きな声、笑い声など、筒抜けです)しながら、耳を傾けるともなく。



すると、奥の方が何かを落とされたようで、

手前のお一方が、「あ、拾います」と、

サッと屈んで、テーブルの下に落ちた何かを、拾おうとしました。





その瞬間。













何度も、瞬きを 繰り返してしまいました。


…!




…?




…?




…!!




ぽかーーーーーーん、です。








文字通り。

あまりの衝撃に、固まりました。

口を開けたまま…。





手前の片方の彼が屈んだおかげさまで、
奥に座る方のお顔をハッキリと、
目にすることが出来たのです。



しかし。



もちろん、ジロジロ見るのは失礼です。



ワタクシは、


…もう目の前のおうどんは喉を通らず、

彼等の会話の内容が、急に耳に入り出しました。


奥の方が、何かお話されたことに対して、

手前のスーツの男性(屈まなかった方)が、こう言われたこと、今も、耳に残っています…



「しかしですね、我々としましても、

そこは、…商売、ですから!」



下手に出ているようでいて、

それは、断固として譲れない、

そういう、決定的な


…決裂、の 瞬間、でした。



一瞬、店内は シーン となり。



奥に座る方は、タバコか何かを、
テーブルに軽くトントンと、

暫くその音が響きました。




奥に座る方は、



…わかりました、うん、うん、



と、何度も、

ご自分を納得させるように

繰り返し



じゃあ、これで。


うん、うん、


ご自分に言い聞かせるように、

頷きながら

静かな声でそう言うと。


立ち上がり、先に立って、

奥の厨房の方に自ら、お声かけに。



私は、彼が、
奥のソファ席から立ち上がり、私の真横を通り抜け、また奥の厨房からこちらに向かい歩く、その姿を一瞬の隙もない程、見詰めてしまいました。



とても、苦々しい、苦し気なお顔。




「楽器ケースにサインしてくださいラブ



など、とてもじゃないけど、

言える状態ではありませんでした。




「商売ですから」??



どの口が、この、

世界的な マエストロに向かって、

言えるの??


若い私には、その言葉の意味が、

全く理解出来ませんでした。




交渉内容の詳細はわかりませんが、

マエストロの失意失望は、

ハッキリと伝わってきて…




ただただ、悲しかったです。



スーツ姿の二人の振る舞いを、一部始終、観察しておりました。



あの お二人は、どこのレコード会社?
ご関係?の方々なのか。
一枚のCDの販売内容についての、
お話し合いでした。

忘れ難いです。

因みに。
お支払いはマエストロがなさいました。

(⬆気付いてからは一部始終見逃さず…)


フツウ、何かの商談?なら、
会社が支払うのでは?

などとまで、思ってしまい。

申し訳ありませんが、
そのスーツのお二人を、
ナニサマでしょう、
音楽業界とはこんなに、品性下劣なの?

商売、って、何?

…。モヤモヤ。




「芸術」と「ビジネス」との間にある、

深くて暗くて、重い?…溝を


…垣間見る機会 を 頂きました。…。




重苦しい思いで、彼等がお店を出るのを

見送り、見届けると。




待ち構えていた ように、


彼等の隣のテーブルに 座って、私を

ニヤニヤと 眺めてらした

メガネのオバサマが、

座ったままテーブル越しに話し掛けてきました。



「…貴女!貴女の反応が!いちばん、面白かったわ~~!^^」



え?!



「私達、貴女たちが楽器ケースを持って(店内に)入って来た時から!もう、びっくりしちゃって!いつ(マエストロに)気付くかな~~、いつ気付くかな~~、って、楽しみにしてたのよ~~♪♪」



…あ。はぁ…汗



「でも、あなた方、ぜんっぜん気が付かないんだもの、ねぇ~~?」

(⬆と、同行並びに周りの他のお客様にも同意を求める、そのオバサマ…笑)



「そしたら、ほら、あなたの(気付いた瞬間の)顔!口開けて、見てたでしょう~~!ほんと、面白かったわ~~!びっくりした、でしょう~~嬉しいw



…あ、はい…。驚きました…。



「そうでしょう!そうでしょう!よかったわ、ねぇ~~!きゃー上げ上げ

⬆顔文字だとこんな感じの、ハイなオバサマ…。


…。ハイ~~汗汗汗




ちょっと、内心、複雑…。


う~~ん。

…あたし、マエストロのお気持ちを受け止めすぎて、一緒に凹んで?たけど、



この オバサマ…。!

…ツワモノ…!? と…。 汗汗汗




オバサマの「明るさ」が、

店内の緊張に満ちた空気を、

一新してくださいました。






それから程なく、です。

マエストロが、ウィーンフィルの

ニューイヤーコンサートを

日本人初、お振りになったのは。





彼のお姿を拝見する時、いつも、

あの 苦痛に耐えた 表情を 思い出します。



いくつもの、
ああした苦痛に耐えたからこそ、


いまのあの方の「美しい」音楽があるのだと、…確信しています。




芸術とビジネス。


現代は、(そうはいっても20年前ですが)

よりこのふたつの溝が、

深いのかも、知れません。



*ちなみに*


その、日本人指揮者初、の、
ウィーンフィル
ニューイヤーコンサートのCDが、
その年の?売り上げNo.1に輝いた!
と知った際、…涙が出ました。

あの時の、リベンジ?
やったね爆笑

…と。嬉しくて!…。

 

さぁ?
あの時のお二人は、
どのようなお気持ちだったのでしょう。


ワタクシは、きっと、

「その溝に嵌まって、苦しいのは彼(決裂の言葉を口にした方)の方に、違いない…。」

と、今は、思っています…。


その後、ワタクシも、理想と現実の狭間に立つ社会人経験をしましたから…。


彼等が、そのニューイヤーコンサートのCD販売(またはそれ以外でも)に関わり、マエストロとの関係改善をはかれていたら、いいのにな、って思っています。



彼の未完成を聴きながら、そんなことを

感じました…。


ひとはみな、未完成、未完成のまま、

少しでも、完成を目指していく…

ということを…。