私がお昼のドラマをやっているころだ
プロデューサーがこんなことを云ってきた。
 
P 「演歌歌手の○○がね、音楽に関する製作費、全部もつから、主題歌を歌わせてくれって云ってきたよ」
 
私 「えっっっ!! ○○ですか!!」……○○は誰でも知っている(今でも)超大物演歌歌手で
私は「へェ~~あの大物が・・・費用全部持つっていってるんですか」
 
P 「あぁ・・・」
 
私 「でも、違うんじゃないですか・・・このドラマとイメージがまったく合わないですよ」
 
P 「あぁ・・・だから断わったよ」……
 
少ない製作費を四苦八苦しながらやりくりしているプロデューサーが
イメージに合わないとなれば、金を目の前に積まれても断る。
 
これが最低、ドラマを創る者の矜持だ。
 
しかし…例えば歌手が、新曲を出した時の宣伝費は・・・どのくらい掛るとみんなは思うだろうか・・・?
 
3000万?…5000万…1億…3億???・・・・・・・さぁーどれくらいだろう……
 
私が歌手やマネージャーから聞いた話では、3000万は問題外で
5000万だったら、深夜の誰も見て居ないようなTVで何回か見かけるぐらいの宣伝費だと云っていた。
 
ということはだ・・・私が音楽事務所の社長だとしたら、その5000万、全部プロデューサーに差し上げて
曲を主題歌にしてもらえば……そうだよね……ドラマの主題歌は殆どがヒットする!!
 
みんなもその例は散々観てきたよね……ということは……そういうことなのです。
 
そこで最初の阿部さんのお宅に話が戻ってくるのだ…『質素な普通のサラリーマンのお宅』
阿部さんも平山先生も、主題歌を決められるプロデューサーという地位に就いて居たわけだ。
 
平山先生の息子さん・・・満さんがこんなことを云っていた。
 
満さん 「ある日、父の大ファンだという人が、どうしても尊敬する平山先生と会いたいとのことなので、父の身体の事もあり、自宅に来てもらう事にした。 訪ねて来た男は、『えぇ!!これが先生のお宅ですか~~~本当に??・・・』・・・と、まるであばら家を見る様に、がっかりしたような、馬鹿にしたような…そんなうすら笑い浮かべていたんで、私は本当に頭に来て、直ぐに帰ってもらったんですよ!! 」……と
 
満さんが憤慨するのは当たり前で、平山先生も阿部プロデューサーも、そんなインチキとは全く無縁のところで
仮面ライダーを、また他のドラマを創っていたのだ。
 
それ故に、純粋な子供の心に何十年も語り継がれる、仮面ライダーという「正義の物語」が創れたのだ。
 
阿部さんのあの底抜けの笑顔が・・・それを物語っている。
 
阿部さん……ありがとうございました。
 
                                                     速水亮