○○ちゃんは、Aの呼び掛けに全く反応せず
ボーッと化石の様に突っ立ったまま、瞬きもせず一点を見つめ、呼吸さえしていないように見える。
 
我々三人は「そりゃ一億も詐欺られれば無理ねえよな」と心底同情はしているのだが
なぜこんなに可笑しいのだろう・・・・・・
Aは「○○ちゃん!」と大声を出しながら、そのたびに下を向いて笑いを堪えている
それを見ている私とYも、腹筋が震えているのだ。
 
これはやっぱり○○ちゃんのキャラクターの問題だろう
普段、日焼けサロンなどに通い、全身を真っ黒にサーファーのようにして
その黒さに合うように、意識的に真っ白なスーツを身にまとい、池袋の繁華街をさっそうと歩く
しかしその顔はゴリラ顔なのだが・・・・・・
 
でも○○ちゃんは、映画カサブランカのハンフリーボガード、それに日活全盛期の裕次郎さんを
意識していて、服装も仕草も、かなり真似をしながら日常を送っている。
しかし悲しいかな、それを誰も気づいてくれない。
 
いつだったか私が「○○ちゃん、今日のスタイルはカサブランカの酒場のシーンの、ハンフリーボガード
みたいだね~~」と云ったら、これまで見たことのないような笑顔で「やっぱり速水さんだな! これは俳優さん
しか分からないよねラブラブ! ボガードの背広そっくりに造らせたのよ・・・そう やっぱりわかる人にはわかるんだな~~」と店のピアノを引き始めた・・・・・・
 
私はそれ以上何も言わなかったが、○○ちゃんは勘違いをしていると思った
○○ちゃんが何処の地方から出てきたのか知らないが、どう格好をつけても
どこかに田舎の匂いが漂っているのだ。
しかし本人は気がついていない・・・・・・まわりの仲間はみんな気が付いているのに・・・
 
そのチグハグなところが彼の面白さになっている。
本人がその気になっている分、とてつもなく可笑しいのだ。
 
中国人ホステスがAの上着を引っ張りながら「シャチョさん、ダメデスヨ! マスターに首イワレマス、お願イデスカラ、シャチョさん、喋ル、ダメデス」と騒いでいるとき、○○ちゃんがフ~~とこちらに顔を向けた。
 
我々三人はここぞとばかり、こっちへ来いとオーバーな仕草で○○ちゃんを呼んだ。
 
○○ちゃんは気のない顔で、「分かった」というような合図を送り、それからレジの中に入ったり
他の客に挨拶などをして、たっぷり五分もかけて、我々の席へ、重い足を引きずりながらやってきたにひひ