青白い月の光が土手沿いの道を白く浮かび上がらせている。
彼女はその道を、ゆっくりと、リズミカルに、まるで月夜の散歩を楽しむように歩いてくる。
 
ときおり顔を上に向け、アパートの方を見たり、周りを見たりしているが
土手の上の私には気付かないようだ。
 
私は土手の上にもう一度腰を下ろし、閑けさをこわさないように・・・「○子・・・」と、声を掛けた。
 
彼女との距離は十メートルぐらい、彼女はピクッと動きを止め、私の方に顔を向けた。
 
一瞬の静寂が二人をつつみ・・・「待ってくれてたの・・・」とやわらかい声が返ってきた。
 
なんか・・・すごいロマンチックでやんの!
私の胸は波打っているし、彼女の声も久しぶりに逢う喜びが感じられる。
 
私はゆっくりと立ち上がり「ああ・・・」と土手を降りていった。
 
こんな映画のようなシチュエーションは、彼女との初デートのとき以来だ。
ちょうど一年半ほど前のことだ、友人に目黒の中華料理店を手伝ってくれと頼まれ
勤めたその店のレジ係をしていたのが○子だった。
 
けっして美人ではないが、物静かなたたずまいと、親切で優しい性格が
その当時荒れていた私の心を、いつのまにか癒してくれる存在になっていた。
 
バイトをして一、二ヶ月経ってからだろうか、どちらが誘ったのか忘れたが
映画を見に行こうということになった。
映画は恋愛映画だと思ったが、日比谷で映画を見て、食事をし、このアパートまで○子を
送ってきた。
 
お互いにこのままでは別れづらくなっていたのだが、それが言い出せずもじもじしていたら
「お茶・・・飲んでいく」と○子が云った。
 
私は十八歳。いくら学生の頃から不良だったとはいえ、まだ女性経験は二人だった・・・
○子の部屋に入ってからも心臓がバクバクいっている。
やがて時間が過ぎて・・・・・・終電車はなくなってしまった。
 
そんなことはお互い分かっているのに・・・「いけねぇ・・・電車なくなっちゃった!どうしよう」などと
わざとらしい儀式をして、六畳間に布団を二つ敷き、「電気、消すね」と○子が部屋を暗くした
数秒後、月明かりのなか、二人の手はお互いを求めからみあい、名前を呼び合い熱い抱擁を繰り返した。
 
あのときの熱い記憶が蘇って来る。
私が土手をゆっくり降りてゆくと「ごめんね・・・経理の書類がたまっていて、このところずっと残業なの・・・
もういないと思っていた・・・」と○子が云った。
私は・・・「星空が素敵だから・・・朝まで待とうと思っていたんだ」などと、歯の浮くような嘘が口からスラスラ出る。
 
○子はフッと笑いを浮かべ「ありがとう」と云った・・・・・・いかん! 見透かされている(~_~;)
 
私は○子に近づき、○子を優しく抱きしめた・・・・・・
時間が止まった・・・・・・○子のやわらかい乳房が、下腹部が・・・薄い布地を通って私の体に伝わってくる・・・・・
 
                                                               つづく