「エェェェェ! 盲腸……なんでおまえが盲腸だと分かるんだ!」私がそう云うと
「おめえ、忘れてるな、おれは経験者だ」とあいつが云った……

思い出した! こいつは高二の時、盲腸に掛かったのだ。
手術の翌々日私が病室を訪ねると、こいつは腕立て伏せをやっていやがった。

「大丈夫か?」と私が云うと「試合が近いからよ」と黙々と腕立て伏せをやるから
私は徹底的にこいつを笑わせてやった。
そしたら「腹が痛ェェ~~、頼むから止めてくれ~~」と泣き笑いをしていた。

私は親戚のヘタレが中学の時盲腸を切り、同じように笑わせたら死にそうになっていたことを
体験していたのだ。

う~~ん、そうか……体験者が言うなら、私は盲腸かもしれない。
親友はニタリと笑い、「てめえ、俺が盲腸で入院していた時のこと、覚えてるな~~」と
復讐心に溢れる目で、私を見詰めた……(~_~;)

私はこいつにだけは、入院先を教えない、と思った。

で、九時ごろに、直ぐ近くの病院で調べてもらったら、白血球が以上に増えていて
「盲腸ですな、すぐに入院しますか」と医者に言われた。

私は即答をしなかった。
何故かといえば、ひとつはこの病院だ。たかが盲腸とはいえ、腹を切るのだ
この、医院に毛の生えたような古ぼけた病院には入りたくない。
それともうひとつ、他人の健康保険証で入院などしてよいものだろうかという
ささやかな道徳観……

それで私は、その当時付き合っていた年上の女性(かなり年上)に相談したら
自分の住まいの近くに知り合いの医師が居る病院があるから、そこに入院しろということと
保険証は自分が手続きをするというので、任せてしまった。

この女性は何故か異常に張り切って、手術前に陰毛を剃る現場まで立会い
看護婦さんのことを「いやらしい!」と騒いでいた。
看護婦さんは仕事でやっているのに、考えすぎだと私が言ったら
「チンチンをさわることはない!」と憤慨していた。

私はこれから腹を切られるのに、なにをくだらないことを云っているのだろう……(-_-;)

                                           つづく