本家のヘタレのお母さんも顔を見せた、ばあさんがどうしたものか
相談に行ったのだ。
とりあえず、胃薬を持って現れたのだが、「あれ、おんねえよ、あじゅしたらいいだっぺ」
と知恵さえも浮かばない。

今だったら、救急病院とか、何か手があるのだろうが、大正生まれのばあさんとおばさんでは
ただ自然治癒を待つばかりなのだ。

隣町の木更津に行けば救急を扱う病院などありそうなものだが、車を運転する者がいない。
私は起き上がれもしないのだから、運転など出来るはずも無く、弟は麻雀に行ったっきり
どこへ行ったのか分からない。

本家のヘタレは、嫁とおばさんの強烈なバトルで、家を出てしまっている。
今は夜中の十二時ぐらい……病院が開くまでこの苦しみを耐えなくてはならんのか!!

あっ! 私はその時もうひとつの同じような体験を思い出していた。

それは私が二十歳ぐらいの、大映映画に居る頃だった。
ガメラがクランクアップして、確かスタジオの中で打ち上げをやったように記憶しているが
家に帰って、やっぱり夜中だろうか、強烈な吐き気と胃痛に襲われた。

その当時私は下北沢の四畳半のアパートに住んでいた。
アパートの前には、元首相の佐藤栄作の確か姉だったか、その辺の記憶は確かではないが
とにかく豪邸が建っていて、下北沢の駅から十分ほどのその辺りは、閑静な住宅地だ。

私のアパートも敷地の広い家の庭に建てた様なアパートで、一階に三部屋、二階に三部屋
トイレは共同で、風呂は勿論無い。
しかも大家は敷地内に居るので、住人達は大きな声も上げず、うさぎのような生活をしていた。

それだからじゃないけど、私は畳の上をのけぞりながら、犯人はから揚げか! チーズか
他に食い物は何が出ていた?……おれは卑しく何を腐ったものを食べたのかと
しきりに自己反省と、俺と同じように今頃のたうちまわっているスタッフが何人居るか
よしんばそれが、監督の湯浅憲明に集中的に当たってくれれば、私のこの苦しみも
少しは救われるのではないかなどと、そんな馬鹿なことを考えていた。

とりあえず、朝まで耐えて、病院に行こうと思うのだが、私には健康保健証が無い。
で、私は、一階の廊下に置いてあるピンク電話のところに階段を這って降りて、親友のSの勤め先に
電話をした。
Sはそのころ、まともな中華料理店の調理場に居り、健康保健証などを持っていたのだ。
親友は朝一番で来てくれると言ってくれた。

他人の健康保健証を使うのは勿論、いけないことだが、以前私が保健証を持っていたとき
親友が保健証を貸せと訊ねて来たことがあった。

その時の奴といったら、全身、蚤やら南京虫に食われまくって、眼も半分しか開いていない。

私は可笑しいやら吃驚したやらで、「どうした?」と聞くと、昨日、錦糸町で腰が立たなくなる程飲んで、一緒に飲んだ仲間の使っていない会社の寮に寝かされたらしいのだが
そこが、蚤やら南京虫やら、ダニの巣窟だったらしい。

朝起きたら、体中、ぶつぶつだらけで、腹の上やら、顔の上を蚤が飛び跳ねていたそうだ。

体がだるいと親友が言うので、体温計を挟んでみると38度あった……
蚤に食われて熱が出るんだ…(@_@;)

親友は頭もやくざのように短く刈っているので、頭も納豆をまぶしたみたいに
ブツブツなのだ。

夏だったので親友はほぼ裸で寝ていたみたいなのだが、見事に、体中隙間が無いほどに
食われている……私は可笑しくて、畳の上をのたうちまわった…ヽ(^o^)丿

あの時笑いすぎた所為だろうか、今度は私がのた打ち回っている……

                                       つづく