我々が待ち構えている大広間に、Aが入ってきた。
風呂に入ってさっぱりとなっているが、私たちのほうには目もくれない。

仲居のおばさんからうどんのお膳をもらい、私たちとチョッと離れた場所に
正座をして座り、不機嫌そうにうどんをチョビリチョビリ食べている。
Aの飯の食べ方は、外見からくる体育会系の男っぽい食べ方ではなく
なんか田舎のおばちゃんが、正座をし、少し猫背で、チョコチョコ食べる
そんなイメージだ。

あきらかに私たちを拒否しているのは分かるのだが、そんなことで遠慮するような
私たちではない……(^_-)-☆

我々「(Aの前を取り囲み)どうしたのよ!」
  「ヒロミツの所為だって」
  「歩いて海岸から来たの、よく道が分かったね」
  「走って帰ってきたの? 早かったジャン」
などなど、矢継ぎ早に質問を我々は投げかけた。

するとAは不機嫌な顔でボソボソ話し始めた。

A 「ヒロミツがサァー『疲れてんだからゆっくり寝ろよ。中止になったら起こしてやるから』
   そう云うからさ~、安心して寝ていたんだけどさ……」

我々「ひでえよなヒロミツは…」
  「もともと、ああいう奴なんだよ」
  「俺たちに言えばよかったんだよ、頼んだ奴が悪い」

などなど、見せ掛けの友情を示し、Aの口を軽くしようと我々はいいかげんなことを云う。

A 「そうだよ…これでもしロケ隊が東京へ帰っちゃったら、俺はどうするんだよ…ねぇ」

オッ! Aが少し乗ってきた…ロケ隊が東京に帰るわけネェじゃない? しかしそんな
突っ込みは入れず、ひたすら「そうだ! そうだ!」を繰り返す我々……(^^♪

A 「目が覚めたらサ…まわりがシーンとしてるんだよ……音が聞こえないのさ…」

そりゃ当たり前だろう、鉄の塊の戦車の中で蓋をして寝てるんだから、少々デカイ音が
したって、戦車の中は何も聞こえない……(~_~;)
しかし、そんな突っ込みは誰も入れない……(^_-)-☆

A 「それでさ~戦車の蓋を開けたらさぁ、真っ暗で、何も見えないジャン……
   びっくりしたよ……」

我々「そりゃ驚くよな~~」

A 「おれ、直ぐ分かったね…ヒロミツの野郎、俺のことを忘れたな…って」

そりゃ、誰でもそんなことは分かる…しかし誰も何も言わない。

A 「(Aは乗り始めて、うどんを食べるのを止め身振り手振りが加わった)
   方角が分かんないのよ、360度、真っ暗なのよ…雨はビシャビシャ顔に当たるし
   メガネは雨で見えなくなるし…どうしようかなと思って、ヒロミツ、ぶっ殺してやる
   と思ったのよ」

我々「そりゃ怒るわ」
  「俺でもそう思うよ」
  「まったくヒロミツは、どうしょうもないね」

A 「そうだろう! そいでさ、耳を澄ますと波の音が聞こえるのさ、だからさ
   音の反対の方へ俺は歩いていったのよ……でもさ、道が見えないのさ」

我々「恐かったろう!」
  「旅館までの道は覚えていたの」
  「松林で道在ったっけ?」

A 「旅館までの道なんて分かるわけ無いじゃん。田舎の道ぐるぐる廻ってんだから…
   ロケバスだったら二、三十分だけど、歩いたらどの位掛かるか…ヒロミツの奴、
   絶対、ぶっ殺してやるって、頭の中はそれだけよ」

Aは笑いの塊のような奴だが、話は下手だ…九州弁のなまりが未だ消えず、論理的に
話すことが苦手なのだ。それだけにボソボソと話すワンフレーズ面白い。
だから、話を引きずり出してやらないと駄目なのだ。

我々「それからどうしたの?」

A 「真っ暗の中歩いたよ…時計も無いし、今何時かも分からないし……
   それで二十分ぐらい歩いたら、灯かりが見えたのよ……」

我々「オオッ…人魂か……?」

A 「違うよ…なんだか分からないけど、灯かりはそれだけだから、そっちへ進んだのよ」

我々「オゥ、オゥ」

A 「そしたらさ、民家だったのよ…助かった! と思って俺さ、戸を叩いたのさ…
   で、出てきたおじさんがさ、俺の顔を見てびっくりしてるのよ」

ちなみに映画を御覧になった方は分かると思うが、Aの役は結婚の約束をした美しい彼女と
待ち合わせをしていたのだが、タイムスリップをしてしまった。
どうしても現代に戻って、彼女との待ち合わせの場所に行きたいのだ。
それで隊をヒロミツと共に脱走して、その途中、野武士(宇崎竜童扮する)たちに襲われ
ヒロミツは殺され、Aは谷底へ落とされるが、辛うじて、ボロボロの状態で隊に復帰する。
だからAの衣装も、顔も、ボロボロに扮装されているので、農家のおじさんはさぞ吃驚したことだろう。

A 「それでさ、事情を説明したらおじさんが軽トラで旅館まで送ってくれて、助かったんだけどさ…
   みんな冷たいよね…俺が居ないの分かんなかったの……?」

いけねぇ~~話が我々の方に向かってきた…Aは思い出したように不機嫌になり、うどんを片手に
ブツブツ、ブツブツ、農家のおかみさんの様に愚痴を言い始めた。

しかしAのキャラクターは、あいつが真面目になればなるほど可笑しいのだ。
本人に言わせれば、全部計算して芝居してるんだよと云いたいのだろうが
その単純な計算もひっくるめて面白いのだ。
Aは、それも芝居だと言い張る。ガッツ石松と似てないことも無いが
Aの方が遥かに面白い。メチャクチャ分かりやすい人間なのだ。

Aは色々辛酸を舐めては来ているものの、本来の性格は善人なのだろう。
これが最初に説明した、Aとヒロミツの物語だ。
楽しんでもらえたかな……

Aはその後も、我々に笑いを提供してくれたが、後々、スターにしきので
バラエティーデビューするとは思わなかった。
やっぱりAはいい根性をしている。

                                          つづく