新大阪の駅からそんなに遠くない所にそのスタジオは在った。
なんか凄く狭いスタジオで、普段は写真撮影に使っているようなスタジオだ。

デレクターを紹介された。
私と歳は変わらないように見えるが、やけに緊張している。
あんまり俳優と仕事をしたことが無いのか、少し自信なさげに見える。

衣装合わせが始まった。
あちらでも衣装を用意すると言っていたが、自前の背広等も持ってきてくれとの
事だったので、私は背広二着とカジュアルなシャツなどを持ってきた。

むこうの用意した衣装を見てみたが、これが酷い……(~_~;)
どんなセンスで選んでいるのだ。
バッタ屋から手当たり次第に集めてきたような衣装だ……

私はあまり失礼にならないように「これは使えませんね」と
手にも取りたくない衣装を一つひとつ手に取りながら、柔らかく拒否した。

すると一人の若い男が遅れて入ってきた。
サウナ・ニュージャパンの二代目らしい……みんなが気を使っている。
するとその後から、五十年配の目付き鋭い、やくざみたいな奴が入ってきた…(@_@;)
おまけにその男は片腕が無い……

普通だったら何か挨拶がありそうなものだが、私の顔は見ようともせず
デレクターやスタッフに脅しとも命令ともとれるような言い方で
「時間通り、良いCMを撮れよ…だてに高い金払ってるんじゃないからな」…この台詞を
大阪弁でまくし立てた。

デレクター達は「ハイ! 」と返事をしている……
「こいつは何者だろう? 」自己紹介もしないので私はこのやくざみたいな
くたびれ中年に神経を集中した……

どうやらこいつは、二代目の番頭みたいな存在らしい。
二代目はおとなしく、あまり発言しない分、この片腕が二代目に変わって指示している。

私はこいつを無視することに決めて、衣装合わせを続けた。
衣装は私が用意した物に決まってゆき、そろそろ衣装合わせも終わりに近づいたころ
片腕やくざが騒いだ……

「紺のダブルの上着はどうした! 」と……
その紺の上着とは一昔も二昔も前の、金モールボタンが付いた
戦争直後のマドロスさんといった上着で、昔、パイプをくわえ帽子をかぶり、紺のダブルの上着に
白のズボンでヨットに片足など持ち上げ、気取って撮った写真をなどをどこかで見たことがあるでしょう。
そう、森繁さんが自分のヨットの甲板で成金趣味の様な写真を撮った、そんな衣装です。

私が最初に却下した衣装だ…!
「これはちょっと古臭いでしょう」と私は言った。
するとその男は「そんなことないやろう! 若々しくてええやないか! 」と突っ張った。
どうやらこの衣装は、この片腕の趣味で集めたものだったようだ。

船長帽子に紺のダブル、それに白のパンツ……俺は死んでもそんなものは着ない…(-_-;)

しかし、相手はスポンサーだから全く着てみないというのも大人気ない。
取り敢えず上着だけ身に付け、「どう……やっぱり駄目でしょう」とデレクターに
同意を求めた。それにサイズも小さい。
デレクターもさすがに、「そうですね…似合いませんね」と片腕に気を使いながら発言した。

すると片腕は「そうか! そんなら好きなようにやったらええやないか! 」と言い
二代目を促しその場を去った……しかし、帰った訳ではない……

なんで、サウナのCMにマドロスの衣装だ……\(◎o◎)/!

それはともかく……続きは次回……(^_-)-☆