井上梅次監督がお亡くなりになったか……

土曜ワイド劇場 「赤いさそりの美女」

キー局ANB放送曜日・時間土 21:02-22:54放送期間1979/06/09 ~ 1979/06/09
演出 (監督・井上 梅次)

原作 江戸川乱歩「幼虫」

脚本 長谷川公之、井上 梅次

音楽 鏑木  創

出演 天知  茂、荒井  注、宇津宮雅代(宇都宮雅代…誤り)、永島 暎子、入…

解説 新作映画の主演女優オーディションで起きたひとつの事故から始まった連続殺人事件。現場に残されたサソリの絵から、明智は復讐説をとなえる…

この作品が井上先生との最期の仕事だった。
現場での先生は、とても歯切れ良く的確に演技指導をする演出家で
特に男優には「ビシッ! 」と厳しく指導する。

田宮二郎さん主演の映画「撃たれる前に撃て」に私が出演したときも
「田宮君! 違う、それは○○だ」とスター田宮二郎さんにビシッと指導していた。
田宮さんも「ハイ! ハイ、先生」と素直に従っていた。

ところがその厳しい先生が、女優さんには全く甘い……(~_~;)
宇津宮雅代が先生の演技指導に異議をはさみ「そんな芝居したくない! 」と
思い切り嫌な顔をして逆らった。
土曜ワイド、松竹撮影所のセットでだ。

私は思わず「ヤバイ! 」と思った……先生の雷が落ちると……
すると井上先生……「そう~雅代ちゃん動きづらい…うん、好きなようにやっていいよ」
と、なんか照れくさそうに顔を伏せ、お母さんに怒られている子供のごとく、宇津宮雅代の
言いなりになってしまった。

それからは雅代の好き放題「まったく、おじいちゃん古いんだから」などと暴言を吐きやがって
井上先生に聞こえなかったから良かったものの、雅代の態度には私も切れそうになったが
なにしろ女優は強い(-_-;)
私も良かれと思って忠告し、それがためにえらいことになったこともある。

井上先生も女優のいわれの無い、理不尽な感情の爆発に色々と悩まされたのだろう
しかし、井上先生の意外な一面を見て、何故か「クスッ」と笑ってしまった。
私の大好きな月丘夢路さんにも、先生はこんな調子で尻に敷かれているのだろうなと

我々の仕事というのは、井上先生の足跡というのは
凄い仕事だと思う。

井上先生を想い出せばそれと同時に「鷲と鷹」「嵐を呼ぶ男」の一場面が
時空を飛び越して私の脳裏に甦る……暗い映画館の中で、スクリーンに映る
裕次郎さんを見詰め……果てしない夢の中に自分を投影し、現実を乗り越える勇気を貰い
今はまた、郷愁と共に、あの映画館の中に私をいざなってくれる……

黒澤明が死んでいないと同じように、井上梅次さんも死んではいない。
井上梅次さんはスクリーンの裏側で、いつも優しく微笑んで、ファンの郷愁の中に佇んでいる。

      井上先生、ありがとうございました。