私は森繁さんのことについて詳しく知っていたわけではない。
ただトーク番組や雑誌、映画、TVドラマ等で私たちを楽しませてくれる姿に
凄い俳優だなと、私は遠目に眺めていただけだった。

私が積極的に森繁さんのことを調べ始めたのは、私が俳優の道に入ってからだ。
一向にまともな演技の出来ない私……出来上がった作品を観るたびに
脂汗とともに落ち込む私。

どうやったら演技が上手くなるのだろう。
私は藁にも縋るおもいで、演技と名の付く本を読み漁った……しかし
近代俳優術(千田是也)俳優修業(スタニスラフスキー)…何のことかさっぱり分からない(~_~;)

私が訓練を受けた大映の演技研究所では、こんな授業は無かった。
民芸からも文学座からも教師は来たが、そのやる気のなさといったら…我々俳優のたまごでさえ
「教える気がねェんなら、来るんじゃネェヨ! 」と思っていた。

今考えるに、映画会社のニューフェースというのは高校出が多く年も若い。直ぐにスターになりたい
という奴ばかりで、シェークスピア…なんじゃそりゃ? チェーホフ…プロレスラーか?
などという奴の集まりだった、私も勿論その一人だ。

それに引き換え新劇の俳優は、殆どが大學出(それも一流大学)で、ロシア文学やフランス文学だとか
難しい演技論、これからの演劇論を眉間に皺をよせて話す連中だ。

民芸の先生達からしたら「こいつら馬鹿じゃないか」…と私たちの事を思っていたのだろうな
その所為か、この先生達から教わったことは、何一つ記憶していない。

てなわけで、ほんの入り口をかじっただけで、私たちは現場に放り出された。
その後は、自分で勉強するしかない、プロの現場は誰も教えてくれない。
出来なければ落とされるだけだ。

そして見つけたのが、森繁先生の著書だ\(◎o◎)/!
私は貪る様に読んだ…近代俳優術などより、圧倒的に分かりやすい(^^♪
……しかし……分からない……十九、二十歳のガキの私としては
森繁先生の比喩が分からないのだ。

「台詞は歌のように…歌は台詞のように歌え」……どういうコッチャ??
やたら抽象的なのだ…「荒事は小児のように」…もっと具体的に書いてよ(~_~;)
しかし、実際に使えなくても、何か森繁先生の云わんとしている事は分かる気がする。

そしてその森繁先生の随筆の中には、珠玉のごとく、俳優、森繁久弥の足跡が描かれていた。
戦前、戦中、戦後と、果てしも無い苦難の道を歩いてきた森繁久弥の姿が……

                                         つづく