さて、若頭から十年のお礼奉公をしろと言われたSさんだが
みんなは、お礼奉公とはどのようなものか、分かっているのだろうか?

おそらく、誰も分かっている人は居ないだろう
分かれば質問があるのだろうが、一件の質問も無い……

盃事に関しての質問があった、これについて少しのべておくと
まず最初に、正式に組員になる為には、親分から盃を貰わなくてはならない
「親子の盃」だ。
これはどういうことかというと、通常の親子と思っては駄目だ。
やくざ組織において親の命令は絶対なのだ。
よくいう、白を黒といわれても、親分の言うことには逆らえないとか
そんな甘いものでは無い…絶対なのだ、死ねと言われたら死ななければいけないのだ。
それが親子の契りの盃だ。

これは武士社会の形態を踏襲していると思ったらいい。
侍は主君が死ねといったら、腹を切って死なねばならない。

だからやくざの事始め、つまり正月は十二月の十三日なのだ。
これは何の日かというと、赤穂浪士の討ち入りの日なのだ。
これをお手本とし、主君に忠誠を誓う…つまりやくざとは、親分に命を預けるといった
誓いを立てた者たちの集団なのだ。

他の盃事もそれに準じる。つまり兄弟分の盃も舎弟の盃も、一般の社会のように
軽い約束ごとではなく、かなり重いものとなる。

私の家に、Sさんから頂いた、ある巨大組織の継承盃のDVDがある。
これは初代会長から二代目会長へその席を継承する継承の盃事だ。

まずDVDは広大な敷地をもつ豪邸の坂道を、全国から集まった有名な親分衆が
続々と歩いてくるところから始まる。
キャメラはその親分達のアップを撮りながら、その画面に○○会○代目総長○○○○とか
○○組五代目組長○○○○とかクレジットが入る……東映の時代劇映画でいったら、オールスター総出演といったところだ。
TV、雑誌などでお馴染みの親分は別として、組織は有名で知っているが親分の顔など
見た事もないという親分が登場すると「オォー!これがあの親分か!」などと変に感心してしまう。

これはちょっと壮観だった…このDVDを所有している者は、関係者以外、まず居ないだろう。
二時間以上にもなるその盃事、伝統を重んじる日本のやくざの姿は、暴力団と呼ぶには
何故かそぐわない、ある種の格式と荘厳さをその中に含んでいた。
これが外国のマフィアと違うところか……

そのDVDは、まるで映画「ゴッドファーザー」の導入部を観るかのようだった。
他にもあと二本、DVDを貰ったのだが、詳しく書くとどこの組織か分かってしまうので
この辺でやめておくが、そのへんも加味して、Sさんのお礼奉公とは一体どんなものか
みんなに想像して欲しい……

                                        つづく