太陽くんの

>速水さんへ質問があります。今年公開された映画(洋画でも邦画でも)の中で「速水さんイチ押し!の映画」を是非教えて下さい。

この質問だが、実は私の家の近くに在るレンタルビデオ店が二ヶ月前に潰れてしまった。
駅前と駅の反対側に他のビデオ店があるのだが、面倒臭くて行こうと思いながら出不精になっている。

映画館に行くのはもっと億劫で、 余程映画館で観たい作品以外はDVDで済ませている。
家のTVはもう6,7年前からデジタル対応で、比較的大画面で見ているから
映画を観るのにさほど不便を感じない。
それにDVDは気になったところを見直すことが出来る便利さがある。

それと、今は読書に多くの時間を割いているので、映画をさほど観ていない。
しかし、それ相応には観ている…それで今年観た映画を思い出しているのだが
何も思い出せない…どんな映画を観たかもだ……

私が呆けたのか…(~_~;)
いや、そうではあるまい。それだけ心に残る作品が無かったということだ。
それが響子さんの問いに対して答えられなかった理由だ。

では何も無かったのかと問われれば、TVドラマに秀作があった。
「坂の上の雲」だ。

まことに小さな国が 開化期を迎えようとしている……

この巻頭の言葉で始まる小説…ドラマもこの言葉から始まる。
明治という時代を、また日本という国を、これほど簡潔に表現した言葉は
川端康成の「雪国」の巻頭の言葉に匹敵するほど素晴らしい。

ドラマの内容も非常に素晴らしい、もう第四話を放送してしまったが
不覚にも見逃した人は、途中から観ず、再放送されるのを待つこと。
途中から観るのは、この作品に携わった人に失礼にあたる。

特筆すべきことは脚本の作り方だ。
私は詳しいことは知らない。ただ最期のクレジットタイトルを見ていると
脚本の所にいつも三人の名前が書かれている。

野沢尚
柴田岳志
佐藤幹夫

の三氏だ。通常こういうことは在り得ない。
それに脚本諮問委員に七名の名前が列挙され、それが作家の宮尾登美子さんを始めに
そうそうたるメンバーが名を連ねている。

そして最期が、脚本監修の「池端俊策」さんだ(@_@;)

こんな脚本陣を私は見たことが無い…あるとすればそれは黒澤明作品だ。
黒澤さんの作品は、脚本家たちと黒澤さんが旅館に缶詰になって、それこそ命を削るような
脚本創りをする。
だから黒澤作品のクレジットには黒澤さんを始め数人の脚本家の名前が列挙される。

この「坂の上の雲」もそうやって脚本造りをしたのだろうか…
私には分からないが、良い作品を作るのだという、この作品に関係した俳優、デレクター、美術、
その他、スタッフの本気が観る私達に伝わってくる。

この小説は文庫本にして八巻。
実のことをいうと、司馬遼太郎さんはこの小説の中ごろから迷いの淵にぶつかっている。

膨大な資料を集めて研究してから作品に取り組む司馬さんは、その資料の膨大さに圧倒され
小説の持つ醍醐味を表現することが出来ず、大変苦労されている。
これも司馬さんの真摯な誠実さの為なのだが、内容は退屈になってくる。

しかしこのドラマはどうやらそこをクリアしたみたいだ。
司馬遼太郎さんに対する尊敬が、この難問を突破したのか……

彼らは明治という時代人の体質で
前をのみ みつめながら歩く
のぼっていく坂の上の 青い天に
もし一朶の白い雲が輝いているとすれば
それのみをみつめて 坂をのぼっていくであろう

                  坂の上の雲より