翌日、午前中に相手のやくざから電話が来た。
微かに、そんなことは在り得ないのだが「このまま何の連絡も無ければ」とSさんは思わないでも
なかったが……そんなに甘くは無い。

同僚が心配して、Sさんの前の電話が鳴るたび、飛んでくる。
課長がいつもと様子が違う二人に「おまえたち、何コソコソやってるんだ!」と不審の声が飛ぶ。

Sさんは、一緒に付いて来るという同僚を押し留め、退社時間の五時までに自分が帰ってこなかったら
辞表を課長に提出してくれと念押しをした。
相手との約束は二時だ……姉さんに連絡すると「分かった」その一言で電話は切れた。
「本当に姉さんは来てくれるのだろうか……」一抹の不安が脳裏をかすめる。
しかし、来なかったらそれまでのことだ。
どっちにしても当事者は自分だ、覚悟を決めるしかない…Sさんはそう思った。

Sさんは用意した新聞紙とさらしを手にトイレに向かった。
新聞紙を水に浸し、腹に巻いてみたのだが水分が多すぎたのか、パンツの中や太ももに
水が垂れてくる……気持ち悪いがしょうがない……その上にさらしを巻きつけた……
強く巻き過ぎたのか、空気が肺の奥まで入ってこない…う~~ん…やり直している時間は無い
ズボンには小便を漏らしたように垂れた水がとっちらかっている……(-_-;)

いやぁ~…これじゃカッコ悪くて表に出られない…しかし時間が無い……
Sさんは上着を腰に巻き、課長に「打ち合わせに行ってきます」と会社を出た。
課長は「バカに関わりたくない」という態度で頷いた。

Sさんは十五分前に喫茶店に着いた…それらしき奴はまだ来ていない…姉さんも居ない…(~_~;)

隅の方の席に座りコーヒーを頼んだ…落ち着こうと思うのだが、その気持ちとは反対に心臓の鼓動は
倍ぐらいの速さで鳴っている……本音を言えば、逃げ出したい気分だ。

Sさんは考えた…なんであの時、会社も電話番号も教えてしまったのだろう…あの女と
それ以降も付き合おうという気持ちは無かった。
何故かといえば、実はその時Sさんには将来を約束した女性が居たのだった……
婚約者を裏切った罰が当たったのか…親切心で電話番号を教えたのだったが……

体の横で人影が止った!「Sさんだね」男が二人立っている……
Sさんが頷くと男達は対面するように座った。
見るからにその筋の奴らだ、凶悪な顔をしている。

二人は口を訊かず、嘗め回すように、威嚇するように、Sさんを眺めている……
二人はコーヒーを注文し、それが届いても口を開かない……

Sさんの方から口を開いた…「彼女は来ないんですか」……
「来る訳ねえだろう…強姦されたショックで病院に入院してるよ」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。誘ったのは向こうですよ」
「なんだと小僧、兄貴の女を淫売呼ばわりするのか!」
「……」
「まてまて」兄貴と呼ばれる奴が喋り始めた「病院の方はよ、女の裂傷が酷いから傷害事件扱いに
 しますよって云ってんだよ……取り敢えず今は止めているが、いいのか傷害で届けて」
Sさんは嘘に決まっていると思った。しかし傷なんぞは後で付けようと思えばいくらでも造れる。
そんなことは平気で出来る奴らなのだ。

「どうすんだよ、○○鉄道…一流企業の社員が強姦か」Sさんは馬鹿馬鹿しくなってきて
黙ってしまった…「ふざけんなこの野郎!」と怒鳴りたい気分だ。
「こら、サラリーマン、お前の会社の場所は分かってんだから、これから行くか」と入り口の方を
見て、男は一瞬動きを止めた!

                                         つづく(^^♪