この本に書かれた欽ちゃんの生い立ちその他…
トーク番組等で過去の話をするようになった欽ちゃんの事を
知らない人の為に少し説明する。欽ちゃんは、芸能の世界でビッグになった他の芸能人と同じように
かなりの貧困のなかにその青春時代を過ごしている。

欽ちゃんは小学校低学年までは家業の景気も良く、お手伝いさんも家に雇える
裕福な環境で育ったが、父親の事業の失敗により全てを無くし
夜逃げ同然で住んでいた埼玉から東京へ逃げてくる。

それからは極貧の連続だ……米のご飯が食べられない、お弁当を持って行けないから
昼はお腹を空かしたまま、誰も居ない体育館の片隅でその時間をやり過ごす。

学校の規則は革靴を履いて登校だが、その靴が買えない。
運動靴で通学すると先生に注意される……
欽ちゃんは、兄の使い古した穴の空いた革靴を縫い、黒く色を塗り通学するが
その正体はすぐにばれてしまう。

欽ちゃんは自分で使うお金は自分で稼がなければと気が付き
学生時代、ずーとアルバイトをしながら高校を卒業する。

卒業後欽ちゃんは、小学校の頃より、自分の救いでも有り、得意だった人を笑わせる
仕事に就こうとする……コメディアンへの道だ。

人の紹介で浅草、東洋劇場に入れてもらう。コメディアンのたまごとして。
その時の支配人との会話……

支配人 「おまえはコメディアンとして何ができるんだ」

欽ちゃん「まだ何も出来ません」

支配人 「そうか、何もできなきゃ、タダだな」

欽ちゃん「はい、わかりました」

こうやって欽ちゃんの第一歩は始まった。

一番下っ端の欽ちゃんは、誰よりも早く劇場に行き、全館の掃除をし
先輩コメディアンの出勤を待つ……誰かに認めてもらわなければ
舞台に上がるチャンスも貰えないのだ。

そして一ヶ月が過ぎた。
すると支配人が月給をくれた…12500円…当時のサラリーマンの初任給と同じぐらいの額だ。
欽ちゃんは不審に思った…コメディアンとして仕事は何もしていない。
掃除と使いっ走りはやったが、ただそれだけだ。

支配人は掃除夫としての欽ちゃんに給料を払ったのだ。
欽ちゃんはそのお金を支配人に返した。

支配人 「何?! 返す!」

欽ちゃん「はい、返します。そうじはサービスです。コメディ以外で、お金はいりません」

支配人 「ふ~ん、そうか、気に入った。じゃ、コメディアンとして3000円…早いか?
     おまえ、何にも出来ないのに3000円も貰うのか…今、一番高給取りのコメディアンはお前」

そう云って支配人は欽ちゃんを可愛がってくれた。

ではその時の欽ちゃんの生活はどんなものだったかというと
欽ちゃんが劇場に来て少しして、家は税務署に差し押さえられ寸前までいって、夜逃げした。
兄ちゃんが真っ先に逃げ、おとうさんとおかあさんは、四国の徳島に逃げ、姉ちゃんは
恋人に結婚を迫って…逃げた…
欽ちゃんは一人残され、極貧の状態だったのだ。

欽ちゃんはお金を返したときの心境を書いているが、それは、ここで返したほうが結果として
いい思いができるだろうと考えてしたことでは無いと書いている。
「心の底から100%返したいと思った」そう述懐している。

この章の見出しは「会話の中に自分の損を入れる」と書いてある。

最初の書き出しは、「気持ちのいい結末を迎えるためには『逆』をやったほうがいい、っていうのがある。」これが書き出しだ…それでは最期の部分をそのまま記す。

だけど、「返しま~す」って言うことで、どんな言葉が返ってくるかな、っていう楽しみは相当ある。
いい言葉が返ってこないかもしれないけど、返ってきたとしたら
うれしいぞ、面白いぞ、って言う気持ちは相当ある。
たとえ返ってこなかったとしても、自分の中に気持ちの悪さは残らないしね。

この話の最初に言った「逆」をやったほうがいいっていう「逆」の意味は
なんとなく分かってもらえたと思うけど、言い換えると「損」。「自分が損をする」ってこと。
「月給を返す」って損なことじゃない。
自分が損をすることが含まれている話はすぐに成立するの。

一番早いのは、どっちも損をしようとしている会話。
これはもう、二言で成立する。

最悪なのは、どっちも得しようとしている会話。
これは3年たっても終わらないよ。

さぁ……どうだろう……みんなはこの欽ちゃんの言葉をどう受け取っただろう……

私は大ショックを受けてしまった…
書物というのは、このように、とても大事なことを気付かしてくれる。

                                         つづく