昭和という時代、敗戦という時代、日本国民が初めて体験した、屈辱と慟哭の暗黒時代・・・
そこに太陽の煌めきと希望を降り注いだ男の天使が石原裕次郎なら、もう一人の天使は・・・
そう、もう一人を美空ひばりと断言しても、大方苦情は出ないだろう。

でも団塊の世代にとって美空ひばりはリアルタイムの対象ではないのだ。
勿論、ひばりの活躍は、全ての媒体から入って来るので、ひばりは日常化していたのだが
ひばりによって衝撃を受けたのは、もっと前の世代だ。
例えば作詞家の阿久悠は同い年、強烈な影響を受けている。ひばりに熱中したのはその世代から
上の年齢だ。

ダウン・タウン・ブギウギバンドでデビューし、「港のヨーコ・ヨコハマヨコスカ」で大ヒットを飛ばしたロックンローラー宇崎竜童さんが,美空ひばりに関して面白い感慨を残している。

宇崎さんは私より3つ年上だ。
若い頃からロックに憧れていた宇崎さんにとって、日本の歌手、特に美空ひばりなんて
ダサい演歌の代表で、興味の対象にもならないというのが本音のところだ。

実は私も宇崎さんほどではないが、美空ひばりは興味の対象ではなかった。

宇崎さんはブレイクした後、作曲家、映画監督、俳優として映画、舞台に出演、特に作曲家としては
山口百恵の曲を始めとし、数多くの名曲を創っている。

http://www.youtube.com/watch?v=PeVX40OgZiY&feature=related
これは私の大好きな宇崎さんの曲だ。

その宇崎さんが美空ひばりの歌を「昭和の歌」としてコンサートか何かでやらなくてはならなくなった。

宇崎さんは渋々、美空ひばり全集を買い込み、家のステレオで聴き始める。
仕事でやらなくてはいけないので、仕方なく聴くといったところだ。

一曲・・・二曲・・・三曲と聴くうちに・・・何故か、訳が判らなく涙がとめどなく溢れてきて
焦ってしまう・・・この涙は何なんだろう・・・ひばりなんて好きな歌手ではないのに、何故涙が出てくるんだ!!

そして宇崎竜童は、「そのとき初めて美空ひばりの凄さに気付いた」・・・と、ひばりの偉大さを賞賛していた。

これはどう云う事かというと、裕次郎さんは直撃してしまったスターだ。
ビートルズも我々を直撃したスターだ。

ひばりは我々の父や母を直撃したスターだった。
我々世代は親を媒体として、その直撃を受けていたのだが、気が付かなかったのだ。

ひばりの死と共に私の脳裏に甦ったひばりの歌は「港町十三番地」だった。
その声は私の母親の声として甦ってきたのだ・・・私が幼い頃、母親がいつも歌っていたのだ。

                                          つづく