私の同級生に鈴木という女の子が居た。小学校から一緒だったが余り口を聞いたことはなく
親しくはなかったが、真面目でしっかり者で、小太りでくろぶちのメガネをかけ、子供の癖に
小学校の先生のような雰囲気を持っている子だった。

その子に弟が一人居た(Kくんとしておこう)、三つぐらい年下だと思ったが小児麻痺を患っていた。
そのKくんが小学校へ上がった。
Kくんの家と私の家は300メートルぐらいしか離れておらず、同じ道を通って小学校へ通う
小学校までの距離は1500メートルぐらいだったろうか、小学生の足で20分位、田んぼと小川の
道を歩いていくのだ。

Kくんは私たちと同じように歩くことが出来ない、体全身を使って、足を一歩、また一歩と出す。
手と顔と体の全身の力を使って前に進む、その姿は健常者から見れば、まるでタコが地上を歩いているような異様な姿だ。

Kくんは顔にいっぱいの汗を流しながら、右足を出す時は体を左に傾け、自由にならない左手を宙に上げ
体のバランスを取り、口も鼻も目も左に捻じ曲げ、ただ黙々と学校を目指す・・・

誰も手助けはしない、そして小学生が20分で行ける道を、二時間以上の時間を掛けて学校へ通う
不自由な体にランドセルを背負い、雨の日も雪の日も、毎日だ。

そのKくんがたまに姿を見せない時がある・・・わたしは姉の鈴木君に弟はどうしたのと聞くと
「うん、昨日熱出しちゃったから・・・」と普通に答えが返ってくる。
Kくんは小学校に上がる時、送っていくという親の申し出を拒否した。
お姉ちゃんの介添えも拒否した。

そして、往復4時間以上掛かる小学校への道を、グッと噛み締めた唇を右に左に捻じ曲げ、体をタコのようにくねりながら汗だくになって通う。

わたしはKくんに教えられた、その当時私も転校生故のいじめに遭っていたが、Kくんの姿を見るたびに
ナニクソ負けるものかと、Kくんとは一度も会話したことがなかったが、Kくんには、勇気というものを沢山貰った。

                                          つづく