旅芸人の記録が傑作だと言う君の歳はいくつかな? わたしより年上か・・・

わたしも三十年以上前に旅芸人の記録を観た。理由は共演していた名優「北林谷栄」さんに
素晴らしいから是非観て来いと云われたからだ。

しかしわたしには荷が重すぎた、何の共感も得られないのだ・・・4時間の上映時間は
わたしには恐ろしく長く感じられたが、北林さんがどこに感動したのか、プロとして
しっかり見ておかなくてはならないので、半分居眠りをしながら最後まで観た。

翌日わたしは、見終わった後の感想を正直に北林さんに話した「どこが面白いんですか?」と
北林さんの答えはこうだった・・・北林さんたち戦前、戦中を体験した演劇人は、多かれ少なかれ
思想統制をされ、少しでも逆らった演劇人達はブタ箱にぶち込まれ、厳しい警察の取調べを受けた。

これは映画界でも文学界でも同じで、当局の弾圧を受け、戦いながら日本の芸術は生まれていった。

北林さんは旅芸人の記録の中に、自分達と同じ体験をしてきたギリシャ演劇の姿を見たのだ。

戦後生まれの私たちの世代では、この映画は分からない、深い深い演劇の歴史が語られているのだ。

それと同じように、オーソン・ウェルズが監督・主演した「市民ケーン」という作品がある。
アメリカ映画生誕100年を記念し、映画人すべての投票で、この100年の映画の中からベストーワンを決めようというイベント、そこでベストーワンに支持されたのが「市民ケーン」だ。

確かに良い作品なのだが、アメリカの映画人(プロが選んだ)がダントツに選ぶ理由が分からない
もっと優れた映画はいっぱい有ると私は思っていた。

しかし、それが全然違った、アメリカの映画人は作品の評価だけで決めていたのではなかった
あの映画はその当時、新聞を始めとしてメディアを牛耳っていた一人の男を、思い切りコケ下ろした
映画だったのだ。

オーソン・ウェルズは権力を持ったそのメディア王に、映画で戦いを仕掛けた
勿論、そのメディア王から、執拗な妨害が入ったが、ウェルズは映画を完成させた。

アメリカの映画人は、権力に戦いを仕掛けたオーソン・ウェルズに、ベストーワンを与えた。

これは、旅芸人の記録と同じように、その国の歴史を知らないと、真の感動はあじわえない。

ウェルズがメディア王をどのくらいオチョクッタか、日本の評論家は当時、ウェルズの真の目的も
分からず・・・感動的な作品だ!と見当違いの評論を載せていた。

是非アメリカ、ベストーワンの「市民ケーン」を一回観てみて下さい。

                                          つづく