急いで撮影所に向かう電車の中で、役って何だろうと考えた?

いま、クランクインしている作品は2本、すでにキャストは決まっているし
新しい作品は、まだ先の話だ。

京王多摩川の駅から走れば2分とかからない撮影所
走って演技課へ到着すると、撮影所の中に在る床屋へ
連れて行かれ、いきなりバリカンで、刈り上げにされた!

「そのぐらいでいいだろう!」後ろから大きな声がした。

俺 「アッ!中隊長だ」 中隊長とは大映の戦争映画を一手に引き受け
監督をしている、村山三男さんだ。

太平洋戦争では、本当に中隊長を経験され、豪快な性格と明るさで
撮影所の人気監督だ。

今、「あぁ、陸軍、隼戦闘隊」という映画を撮っている。

中隊長「これが台詞だ、全員がセットでお前の来るのを待っている、軍服に
    着替えて直ぐ来い」と、行ってしまった。

俺 「ハッ、ハイ!」・・・俺はあせった!台詞は全部軍隊用語だ、喋ったこともない!
覚えている間もなく衣装部に連れて行かれ、軍服を着、直ぐスタジオに向かう!

俺の目は、台詞の紙から離れない、覚えなくてはいけないのだ!!

俺の役は通信将校、南方の島で戦っているのだが、戦局が悪くなり
島を撤退しろとの、本部からの通達を、隊長に知らせる役だ。

スタジオに入った、凄い人数だ・・・兵隊が全部集まっているところへ俺が来るんだ!

先輩の俳優達がほぼ全員居る、カァー!ど派手なデビューだ!
これで、先輩の俳優、ほぼ全てが、俺の顔と名前を覚える。

さんざん待たした上に、俺は新人、昨日契約したばかり、前例の無いケースのようだ。

中隊長が来た、「台詞、やってみろ」

俺 「ハイ!・・・隊長!(駆け込んでくる、敬礼して)集団司令部の命令をお伝えします!」
隊長(佐藤允さん)「オゥ!」
俺 「第六十四飛行戦隊は、すみやかに、現位置を撤収、シンガポール地区に前進し、ジャバ、スマトラ
   方面、敵、残存勢力の攻撃に準備すべし、終わり!」

      『この台詞、今でもしっかり覚えています』


何度か、中隊長に軍隊口調の指導を受け、本番!
一発OK!!

私の記念すべき、初出演です。

                             つづく~