ふつう俳優は、自分一人で、自分の演技の評価をしなければならない。

現場で演出家に駄目だしされるのは、自分の為になるかどうか
微妙な所だ、俳優の将来を考えて駄目だしをするのではなく
単に、演出上の事も有るからだ。

ただし、悪ければ、二度と出演依頼は無い。
プロの厳しさだ。

共演俳優も、滅多なことでは演技批判などしない
日本の演技論は抽象的だし、自分が勉強した環境で演技論も様々在るからだ。
それに、余分な事を言って、逆に恨まれたりしたくないからだ。

私が29歳ぐらいの時、名古屋のTV局で、家庭長時代というドラマをやった
共演者は、長門裕之さん、北林谷栄さんを始めベテランの俳優人が集まった。

長門さんとは初めての仕事だが、長門さんの人間的な魅力に触れ
その後、公私共に、お世話になる、素敵な俳優だ。
長門さんとの話は色々あるので、いずれゆっくり書きます。

この時の役は、長門さんを家長とした家族(5人)に、居候としてフラ~と
舞い込み、家族に起こる諸問題を、まるで占いの江原啓之のように
解決していくやたら明るいキャラクター。

この役が難しい・・・役というのは一話完結のドラマだと結末が分かっているので
創りやすいのだが、この番組は半年間のドラマ、最初の5本分の脚本を貰っても
俺の役はどんな奴だか、ぜんぜん書いていない!

演出家に聞いても作家じゃないから分からないとの事。
エエィ!儘よ!と深く考えもせず本読みに臨んだ。

これがいけなかった、本読みに黒い鉢巻をした作家が現れた?

いきなり演出家からその地位を奪うと、作家が駄目だしを始めた!

普通、脚本家は本読みなどに顔は出さないし、ましてや、演出家に代わって駄目だしなど!
名古屋のTV局だから、なめられたんだな。

そんなことを考えていると、いきなり俺が怒鳴られた!
俺が台詞を読むと、怒鳴りやがる・・・

俺ばっかり駄目だしをする。
マア、他の出演者はベテランばかりだし、長門さんや、名優の北林さんに駄目だしなど
出来るわけが無い。

作家「もっと声を張れ!」

俺 「(心の声・・・舞台じゃあるめえし、耳元で何が声を張れだ!)・・・」

作家「台本に何て書いてある!『だろう』じゃない!『でしょう』だ!」

俺 「(心の声・・・だろうも、でしょうも大してかわんねぇだろう
   他の人だって、テニヲハ、変えてんジャン)・・・」

俺の心の声が聞こえたのか?

作家「北林さんたちは考えて変えて下さっているんだ!・・・お前のは気分で変えてる!」

本読みが終わった後、俺は作家に聞いた。

俺 「役のイメージがつかめないのですが、この男は例えばどんなひとでしょう?」

作家「今村昌平だよ、今村!」

あんたは、今村昌平と幼馴染かもしれないが、俺は映画監督の今村しか知らない!
と、云おうと思ったが、作家は云い捨てて行ってしまった。

クソッ!くやしい・・・しかし出来ない俺に原因は在る。

                     さあどうなるか!・・・つづきは明日!