入院は身内と事務所以外、誰にも知らせなかったので、見舞いも来ないし
花も来ない、静かな入院生活だった。

それにしても現代医学は凄い、一昔まえだったら、腹を切って
胃の半分は切除されていたろう。

かなり大きな穿孔だったが、内視鏡手術ですんだ。
おかげで、今も傷ひとつ無い、きれいなメタボ腹だ。

ついでといっちゃなんだが、癌の検査もみんなやった。

今まで一度も、人間ドッグ等の検査はしたことがない。

私は医者に云った、もし検査結果が悪く
余命が一ヶ月でも、必ず告知してくれと

なんと大袈裟な、俳優は何でも劇的に表現しようとする。

医者は薄笑いを浮かべて「はい、わかりました」と言った。

しかし、何であんなに毎日、血を採りに来るんだろう
俺の血の半分は他人様の血だよ!

体は何箇所もチュブでつながれ、もちろん何も食えない
日に三度、カルピス味の薬が来るのを、唯一の楽しみに
ひまな入院生活を送った。

人は生き死にの病気とか、事故に合うと、人生観が変わり
人に優しくなるというが、俺はぜんぜん変わらない?

変わったと言えば、「そろそろ転機かな」と思ったことだ。

芸能と言う世界は、若い力がその世界を引っ張る。

新しい個性が、若者を刺激し、新しい文化を創る。

我々団塊の世代は、一番感受性の強い十代に、ビートルズが
襲い掛かってきた。

これはショックだった!英語は皆目分からないのに

彼等の創る音楽は、我々を高揚させ、心臓を揺さぶった。

俳優は石原裕次郎だった、国民の9割以上が貧乏だったあの時代
ヨット!湘南!太陽族・・・かっこよさが突き抜けていた
自分の周りには、絶対居ない存在だ
仮面ライダーみたいなヒーローだった。

転機とは、プレイヤーではなく、創る側に廻ろうかと云う事だ

私はどうしても作りたい映画が在る。
脚本はとっくに出来ている。

私と、若くして死んだ親友の話だ、
一緒に高校を追い出され、私は俳優の道へ、あいつはやくざの道へ

この映画を完成させることが出来たなら、観た人は生涯、心に残る
作品に成ると思う。

今回、ミッドナイト・アバウトを見てくれた人は
あながち、速水の大ぼらだとは思わないだろう。

もうひとつ、やりたかったのは、俳優を育てることだ。
これは、四十過ぎぐらいから、いつかやろうと思っていた。

詳しくは、生徒募集の、塾長コメントに書いた。

良い俳優を、世の中に送り出したい。

松本校を開設してから約2年、一度も黒字になったことが無いが!!

近い将来、必ず次代を担う俳優を世に送り出したいと思ってます。

                       続く~