昔から、点数シールを集めることや、専用のスタンプカードでスタンプを貯めて一定数に達すると懸賞や特典が貰えるという販促策が行われていた。単純な仕組みではあるが、売上確保や固定顧客の獲得に繋がるという点では一定レベルの成果が見込まれるため、現在も有力な販促策の一つとして様々な形で実施されている。販売店で買い物をしたり、飲食店で食事をしたりすると、金額や販売数量に応じてシールが配られ、スタンプカードにスタンプが押して貰える。そして、それを集めたり、貯めたりすると、顧客は懸賞や特典が貰えるので、キャンペーンを行っている店舗で買い物や食事を行い、キャンペーン対象の商品を繰り返し購入することで、固定客やリピーターになっていくのである。

 

 

このような販促策で誰でも知っている代表的なものに、ヤマザキパンが毎年恒例で行われる「ヤマザキの春のパン祭り」がある。スーパーやコンビニ等の店頭にキャンペーンポスターやチラシが置かれ、2/1~4/30のキャンペーン期間中にヤマザキのパンを購入し、そこに貼られている応募用の点数シールを30点集めて専用の台紙に貼ってヤマザキ商品取扱店に持ち込むと、もれなく「フランス製の白いスマートボール」が貰えるという全国ベースの一大販促キャンペーンである。

一般的に販促用の景品と言うと、材質が安っぽかったり、壊れやすかったりすることが多いが、さすがに日本を代表する食品会社であり、パンのトップメーカーであるヤマザキパンのキャンペーンだけにそこは抜かりがない。景品の「フランス製の白いスマートボール」はデザインはシンプルだが、実用的で長く使えるしっかりした作りになっていて評判が良く、日本全国の家庭でスマートボールは広く愛用されている。中には、根強いファンがいて、毎年自宅のテーブルの上で使うヤマザキパンの景品の食器が増えていくのを楽しみにしている消費者も多い。

 

 

それでは、「ヤマザキの春のパン祭り」が多くの消費者が参加する国民的な販促キャンペーンとなり、それが毎年継続的に行われているのには、どのような理由があるのだろうか。一つ目は「店頭に多くのメーカーのパンが並ぶ中で、ヤマザキのパンがキャンペーン対象なので、キャンペーンに参加した顧客が優先的にヤマザキのパンを選ぶことで売上アップに繋がる」という点である。つまり、顧客の囲い込みが可能になるのである。二つ目は「点数シールをパンに貼り付ける際に、利益率の高いパンには高い点数のシールを貼り、利益率の低いパンには低い点数のシールを貼る、もしくはキャンペーン対象から外して点数シールを貼らないことで、利益率の高い製品の売上ウエイト拡大に繋げる」という点である。つまり、キャンペーンシールの点数を利用して利益率の向上を図ることが可能になるのである。三つ目は「販売予想が外れて、売れ行きが悪く値引きをした売残品であっても、点数シールがついていれば、キャンペーンに参加している点数シール目当ての顧客がそれを買ってくれるので、売残率が低減する」という点である。パンは一種の生鮮食料品であり、売残率の低減は経営効率を高める上で重要である。四つ目は「主力商品のパンに点数シールを貼付するだけでなく、周辺商品である和菓子までキャンペーン対象を広げることで、周辺商品の売上拡大に繋げている」という点である。キャンペーンの点数シールを饅頭や団子にも貼付して相乗効果で売上拡大に繋げている。

点数シールを集めると景品が貰えるという販促策は昔ながらの手法であるが、ヤマザキパンが、毎年「ヤマザキの春のパン祭り」という販促キャンペーンにここまで力を入れているのも、「売上アップ」「利益率アップ」「売残率低減」「周辺商品との相乗効果」といった目的を明確にして実施し、実際にその効果も上がっているからだろう。点数シール30点を集めれば、「フランス製の白いスマートボール」がもれなく貰えるが、その景品代にかかるコスト以上に販売面の効果が大きいからだろう。

 

 

点数シールを集めることで景品が貰えるという販促策と同様のものに、店舗専用のスタンプカードを顧客に配布し、販売金額や来店回数に応じてスタンプを押し、それが一定数に達すると懸賞や特典が貰えるという販促策がある。こちらは、スタンプカードを一枚準備するだけで簡単に販促策を展開することができる。

飲食店、喫茶店、食料品店、パン屋、ケーキ屋、土産物屋、紳士服店、書店、クリーニング店等様々な業態の小売店でスタンプカードが発行され、スタンプを貯めると特典が貰えるというキャンペーンを行っている。消費者も販売店に促されて、新しい店舗に行く度にスタンプカードを作ることになってしまい、手持ちのスタンプカードの種類が多すぎて、財布にカードがあふれてしまい、レジの精算時にどのスタンプカードだったかを財布から見つけ出すのに困っている顧客の姿もよく見かける。こちらも、単純にスタンプカードでスタンプが一杯になると金券として使えるとか特典が貰えるといった単純なものから、スタンプカードが一杯になると次に発行するスタンプカードはグレードが上がって、特典がアップするといった仕組みを入れ、重要顧客や固定客を優遇するものまで様々である。

工夫を凝らしたスタンプカード販促策として、たこ焼きチェーンの大手「築地銀だこ」の事例がある。「築地銀だこ」でたこ焼きを買うと最初に発行されるのは「赤カード」である。20スタンプを貯めると特典としてたこ焼き一舟が貰える。「赤カード」のスタンプが一杯になると、次のステップとして今度は「銀カード」が発行される。「銀カード」の場合は12スタンプを貯めるとたこ焼き一舟が貰える。そして、12スタンプを3回クリアすると、今度は「ゴールドカード」が発行され、10スタンプでたこ焼き一舟が貰えるようになるのである。たこ焼きのヘビーユーザーを対象に手厚い特典を与えることで、重要顧客の囲い込みを図るべく、販促策に「スタンプカードのグレードアップ」という工夫を入れている。

最近は、紙ベースのスタンプカードは手間が掛かるということで、スタンプカードの販促策をそのままネットに取り入れ、ネット会員に対して売上や来店回数に応じて特典を付与するという仕組みが増えている。しかし、紙ベースのスタンプカードについても、零細な個人の小売店にとっては、紙のスタンプカードを作るだけで簡単に販促策が導入できるというメリットがあることから、今も根強い人気がある。

 

 

これまで、点数シールを集めることや、専用のスタンプカードでスタンプを貯めて一定数に達すると懸賞や特典が貰えるという販促策について、具体的な事例を述べてきた。しかしながら、最近困ったことに、このような販促策を悪用して、キャンペーンの特典である景品を不正に入手するというケースが起きている。次の質問は、実際にスーパーの店頭で起きた販促景品の不正入手事件に関する問題である。

 

Q1:ヤマザキパンは、毎年恒例で「ヤマザキの春のパン祭り」のキャンペーンを開催し、キャンペーン期間中にヤマザキのパンを購入し、パンに貼られている点数シールを30点集めると漏れなく「フランス製の白いスマートボール」が貰えるという販促策を展開していた。景品が良いので、人気のあるキャンペーンであったが、困った問題が発生した。あるスーパーにおいて、問題のあるお客が、もともと点数シールが貼られていない商品に他のヤマザキパンに貼られていた高い点数シールを勝手に貼って、それをレジに持ち込んで、点数シールを持ち出すのである。問題行為を止めさせようとパン売り場コーナーに「点数シールを貼り替えたり、勝手に持ち出すことは止めて下さい」という張り紙を出したりしたが、問題行為はなかなか解消しなかった。点数シールはそれを集めると景品と引き換えて貰えるので一種の商品券であり、点数シールそのものに価値がある。従って、それを勝手に店から持ち出すのは明らかに犯罪行為であるが、どのような罪になるのだろうか。次の中から、正しいものを選んで欲しい。

 

①シールが貼られていない商品に勝手に別の商品に貼られていた点数シールを貼って、店から持ち出すのは犯罪行為である。有人レジでも、無人レジでも、行為の内容は同じであり、点数シールを持ち出すのは店を騙したことになるので詐欺罪である。

 

②シールが貼られていない商品に勝手に別の商品に貼られていた点数シールを貼って、店から持ち出すのは犯罪行為である。有人レジでも、無人レジでも、行為の内容は同じであり、点数シールを持ち出すのは、店から物を盗むことになるので窃盗罪である。

 

③シールが貼られていない商品に勝手に別の商品に貼られていた点数シールを貼って、店から持ち出すのは犯罪行為である。有人レジの場合は、点数シールを持ち出すのは店員を騙したことになるので詐欺罪である。無人レジの場合は、点数シールを持ち出すのは店から物を盗んだことになるので窃盗罪である。

 

 

A1:正解は③である。

シールが貼られていない商品に勝手に別の商品に貼られていた点数シールを貼って、店から持ち出すのは犯罪行為であるが、有人レジの場合と無人レジの場合で犯罪行為の内容が異なる。有人レジの場合は、商品をレジに通す際に、店員を騙して点数シールを持ち出すのでこれは詐欺罪になる。一方、無人レジの場合は、誰も人が見ていないのを良いことに、点数シールを店から持ち出すことになるのでこれは窃盗罪になる。

人気のキャンペーン、人気の景品になると、販売の現場ではこのようなケースは起こりがちであるが、なかなか抜本的な対策がとれず、店舗も頭を痛めているのが実情である。一時期はパンのビニール包装紙に直接点数シールを印刷するといった方法がとられたこともあったが、台紙に貼るのに手間が掛かり、不評であったのか、現在は、またパンの梱包に紙の点数シールを貼付する元の方式に戻している。