世界的な気候変動が影響していると思われるが、最近は日本でも天候の変化が激しい。短期的な天候変化として、ゲリラ豪雨や竜巻といったこれまでにあまり国内では起きなかった災害が増える傾向にある。災害の規模も大きく、マスコミでも取り上げられることが多くなった。また、長期的なトレンドを見ても、平均気温が年々上昇傾向にあり、年を追うごとに真夏日の日数が増え、過去最多を更新するといったことが起きている。

今回は、このような自然環境の変化を踏まえた上で「天候のマーケティング」について考えていきたい。

 

 

気象庁は、天気・天候・気象等の自然現象の情報の取得・収集・分析・提供やそのための研究等を担当する国の機関である。気象庁の重要な役割の一つに天候予測とその提供がある。天候予測は、大きく分けて短期予測と長期予測の二つに分けることができるが、同じ予測であっても短期と長期では、その手法や精度が大きく異なる。かつて、気象庁において、天候予測に関心のある民間企業に参加を呼び掛けて「天候予測に関する分科会」を開いたことがあった。当時の分科会は短期予測と長期予測の2種類があり、短期の天候予測は技術的にも確立しており、当時から予測精度が高かった。短期予想の分科会に参加した多くの企業は気象庁の正確な天候予測情報を信頼し、その情報に満足し感謝するとの意見が多かった。一方、長期予測については、様々な予測方法があり、技術的にも確立していないことから、気象庁の予測がなかなか当たらなかった。長期予測の分科会では出席している企業からは新たな注文や辛辣な意見も多く、気象庁への風当たりは強かった。それだけ、長期予想というのは難しいことだと思うが、季節性の強い衣類や家電品、気候に左右されて相場に連動する食品を取扱う企業にとっては、予測の精度の高さがそのまま企業の業績に直結する。企業にとっては、正確な予想を得られるかどうかが死活問題なのである

 

 

短期予測は比較的精度が高いことから、その情報を利用して企業が売上増に活用することが良く行われている。具体的なケースとして、販売店の店頭の品揃えと仕入れに利用されることが多い。例えば、雨が降ると予想されるとスーパーやドラッグストアの店頭に目立つように傘を陳列することがある。また、降雪が予想されると、ホームセンターの店頭に雪掻き用のスコップを並べることも良く行われる。販売店は、集客や売上増の為に、その時の天候の変化に素早く対応し、顧客が一番な必要としている商品を店の前に並べることで集客に結び付けようとするのである。

また、食品の販売についても同様のことが言える。食品の店頭の品揃えについては、気温が高い日は、さっぱりとした食材である刺身や冷奴用の豆腐、冷麺等が売れるので、店頭でもそれらの食品に力を入れて陳列するのである。一方で、気温が低い日は温かいものを食べたいという顧客ニーズを踏まえて、鍋物の具材として肉類や煮物用野菜が売れるので、店頭陳列もそれを前面に出して集客を行うのである。

温度の変化に敏感な食品というとアイスクリームの事例がよく取り上げられる。アイスクリームは気温が25度を超えると売上が伸びてくる。そして、気温が32度を超えると今度はアイスクリームからかき氷に売れ筋が変わっていく。消費者は、気温の変化に敏感であり、変化に併せた消費行動をとるのである。

販売店は、その日の天気や温度の状況を見て、如何にして売上を上げるか、売残リスクを抑えるかを考えながら、日々仕込みや売り場の陳列に工夫して販売を行っている。生鮮食料品や総菜などは、販売の読みを誤って大量に仕入れてしまうと、売れなかった時に大量の売残ロスを出すことになる。天候リスクが大きいことから、特に注意を払う必要がある。

 

 

これは稀な事例であるが、Jリーグのサッカースタジアムの近くに1店舗だけコンビニがあった。サッカーの試合がある日は多くのファンが押し寄せて、コンビニで買い物をする。近くに競合店が全くないことから、試合の開催日は一時的に数十倍の売上が上がる。そこで、サッカーの試合が行われる日は、予め弁当・パン・おにぎりといった食品を大量に見込み仕入れを行っていた。通常、サッカーの試合は原則雨天でも決行し、めったなことでは試合が流れることがない。しかし、その日は生憎と悪天候と強風が重なったことで、試合開始の数時間前に急遽試合が中止となった。サッカースタジアムは駅から離れた場所にあり、サッカーファン以外の顧客は期待できない。一方、既に発注した食品は今更解約することはできない。結局コンビニは期待した売上が見込めず、大量の売れ残りが生まれてしまった。コンビニは一度は発注すると、解約が出来ず、全てオーナーの責任となる。予想を超えた天候の急変が思わぬ惨事を招いたのである。

 

このような事例からもわかるように、天候の短期的な変化とスーパーやコンビニといった販売店の売上の間には密接な関係がある。販売店の店長は、この点を普段から注意して店舗運営を行っているが、短期予測といえども局地的な変化までは全てを正確に予測することは難しく、相変わらずリスクは残っているのである。

次の質問は、ある大手スーパーが、その日の天気予想を踏まえて、どのような売上を予測しているかについての具体的な事例である。天候と売上の関係について、販売店の店員になったつもりで考えて頂きたい。

 

 

Q1: 大手スーパージャスコ(現在はイオン)の販売員の間では、休日において売上が期待される日を「ジャスコ日和」と呼んでいた。この言葉の意味は、「休日にジャスコに顧客がたくさん来てくれて、大きな売上が予想される日」のことである。例えば「今日は『ジャスコ日和』だから、忙しくなるぞ」といったように、この日の売上に期待を込めて、店内でこの言葉がよく使用されていたのである。

「ジャスコ日和」というのは、その日の一日の天気の状態を踏まえて、販売のチャンスとして使われる言葉であるが、一体どのような天気のことを指すのだろうか。次の中から正しいものを選んでほしい。

 

①朝から晩まで、一日中ずっと晴天が続く日

 

②朝から晩まで、一日中ずっと雨が続く日

 

③午前中は雨だが、午後から雨がやんで晴天となる日

 

④午前中は晴天だが、午後から天気が崩れて雨となる日

 

 

 

A1:正解は③である。

休日は、家族で行動するケースが多いが、①のように一日中晴天の日は朝から遠出をしてしまい、スーパーに買い物に行く顧客は少なくなる。一方、②のように一日中雨が続く日は外に出るのが億劫になってしまい、外出をしないのである。また、④のように午前中が晴天でも、午後から雨が降るようでは、なかなかスーパーには足が向かない。

③の場合は、午前中雨になると遠出をすることが出来なくなるが、雨がやんで午後から晴天になると「午後からでは遠出はできないけれど、ちょっとスーパーまで買い物にでも行ってみようか」という気になる。つまり、スーパーへの来客は③のケースが最も多くなる。「ジャスコ日和」という言葉もこのような現場の実践的な経験から自然と生まれたものなのかもしれない。

現在のイオンは、モール形式の大型施設が中心となっており、映画館のような室内娯楽施設もあることから、前提条件は少し変わってきたのかもしれない。しかしながら、休日における一般的なスーパーの集客・売上とその日の天気の関係については、従来と同様に「ジャスコ日和」の傾向がみられるのではないだろうか。