日本人は、ついこの間まで「水と安全はタダだ」と思っていた。電車やバスの荷棚にポンと荷物を置いても盗まれることがない、道で財布を落としても誰かが拾って交番に届けてくれる。こんなことが当たり前に行われる社会であった。ところが、最近では盗難にあう心配から荷物を手元において荷棚に置くようなことをしないし、貴重品を落しても戻ってこないことも多くなった。先日も、コンビニのコピー機で資料をコピーした時に、あわてて釣銭を取り忘れたことがあった。数分後に気が付いて戻ったが、釣銭は残っておらず、店員に訊ねても知らないとのことだった。長引く不況の影響もあるのかもしれないが、最近は人の気持ちに余裕がなくなり、治安も悪くなっている。

このような世の中で、防犯対策として使用され、需要が大きく伸びているのが監視カメラである。銀行や消費者金融、百貨店やスーパーやコンビニ、商店街、オフィスビルやマンション等街を歩くと色々なところに監視カメラが設置されており、いつに間にこんなに監視カメラが普及したのかと思うことがある。今回は、防犯対策の主役である「監視カメラのマーケティング」について見て行きたい。

 

 

世界で初めての防犯対策用の監視カメラは1933年にイギリスで発明され、卵泥棒の犯人を特定するのが目的だったと言われている。日本で監視カメラの普及が始まったのは、1960年代の後半であり、現金を扱うATM監視の需要が多かった。本格的な普及は1980年代に入ってからであるが、そのきっかけの一つになったのが、1979年1月に大阪で起きた三菱銀行人質事件である。猟銃を持って男が銀行に押し入り、客と行員30人以上を人質に取った強盗・殺人事件であり、この凶悪事件をきっかけとして、全国の金融機関の防犯体制が強化された。窓口カウンターがパーテーションで区切られ、店頭に監視カメラが設置されるようになったのである。

 

 

その後、監視カメラは、防犯上のニーズから商業施設・駅・ビル等幅広い分野で防犯対策として欠かせない機器として急速に普及が進み、機能的にもアナログカメラからデジタルカメラ、Webカメラへと進展して行った。現在では、業務用分野に加えて個人利用も含めると、日本全体で約500万台のカメラが稼働していると言われている。

我々が普段から見慣れている監視カメラにコンビニの監視カメラシステムがある。24時間営業が基本のコンビニショップを運営する上で、防犯対策上監視カメラの設置は不可欠である。コンビニ店舗は店内配置が標準化されており、そのため、監視カメラシステムも店内と店外に複数台のカメラを設置し、その画像を一台のレコーダーに記録するというシンプルなシステムで、トータル価格も機器と設置工事併せて100万円程度である。

そこで、今回はコンビニオーナーの店長の立場に立って、監視カメラの利用方法について考えてみたい。

 

 

Q1: コンビニオーナーのAさんは、店舗運営を行うにあたって、店舗の防犯対策として監視カメラシステムを導入した。24時間営業の店舗であり、店長のAさん以外の従業員はほとんどがアルバイトなので、店舗管理までは任せられない。そこで駐車場・店頭レジ・店内・バックヤード付近にそれぞれ監視カメラを配置し、それを24時間365日監視レコーダーに録画している。Aさんは、時々時間があると、鍵をかけた戸棚に設置した監視レコーダーを操作して、過去の映像を巻き戻した映像を確認している。Aさんが不在にしている時の録画映像を見て、自分がいない時に問題が起きていないかを、モニターに映った分割画面を一つ一つチェックするのである。

長時間の映像を早送りで、しかも分割画面でシーンの異なる複数画面を同時にチェックするので、店長のAさんは予め映像のポイントを絞って確認するようにしている。それでは、Aさんが、最も注意してチェックしているのは、監視カメラで撮影した場面の内、どの部分だろうか。次の中から、正しいものを選んで欲しい。

 

 

①屋外、駐車場付近に設置した監視カメラの映像

 

②店頭レジ付近に設置した監視カメラの映像

 

③店舗内の商品棚付近に設置した監視カメラの映像

 

④店舗のバックヤード付近に設置した監視カメラの映像

 

 

 

A1:正解は②である。店頭レジ付近に設置した監視カメラの映像を第一に確認する。

コンビニは原則24時間営業なので、コンビニオーナーである店長といえど、常時店にいることはできない。そこで、店長が不在の時間帯は、店を店員に任せることになる。店長は不在時に何か問題が起きていないか心配なので、後日監視レコーダーに記録された録画画像の確認する。店長が一番困るのは、犯罪行為によって店に被害が出ることだ。お客が商品を勝手に持ち出して万引したり、強盗が来てお金を奪われたり、駐車場で車による事故があったり、バックヤードで店員が勝手に飲み物を飲んだりするようなケースである。これらの問題行為はいずれも起こりうることだが、実はコンビニで実際に起きている一番の問題行為は、店員がレジのお金をオーナーの目を盗んで勝手に持ち出すことなのである。お客による被害よりも、店員がレジからお金を盗むことによる「内引き」の被害の方が圧倒的に多いのが現実である。

つまり、店頭レジ付近を監視するカメラの目的は、お客による犯罪よりも店員がレジでお金を盗むという身内の犯罪を抑制することを重視して設置されているのである。そのため、監視カメラの位置もレジに向けて設置され、録画記録を行う監視レコーダーは鍵をかけた戸棚の中に設置して、オーナー以外は勝手に操作できないようにしている。

 

監視カメラを設置する目的が、意外なところにあるというケースは他にもある。例えば消費者金融の無人店舗に設置された監視カメラである。消費者金融の無人店舗は、形式は無人であるが店舗内に設置された監視カメラを利用して、遠隔で顧客対応を行っている。一方、それとは別に無人店舗の外にも別のカメラが一台設置されている。そのカメラは無人店舗の屋外の様子を捉えている。無人店舗の屋外に別の人物がもう一人見える様な場合は注意が必要だ。このようなケースは、本人の意志ではなく外部圧力によって借金を強いられている可能性があるからだ。様子がおかしいと判断されると借入の審査が厳しくなることもあるようだ。

 

 

【ダミー監視カメラと抑制効果】

最近は、無人店舗にも監視カメラを設置するケースが増えている。無人店舗は人件費が削減できるので効率的な販売手段であるが、最近はお金を払わずに勝手に持って行く人が増えて、このままでは商売にならないので、監視カメラを設置して、盗難を抑制している。無人店舗の売り上げが少ない場合には、監視カメラの設置費用の方が高くついてしまう。このような場合には「ダミー監視カメラ」を使用することがある。見かけは普通の監視カメラであるが、実は実物とそっくりだが、録画はできず、配線もない偽物カメラであるが、ちょっと見た目には監視カメラが設置されているように見え、それだけで抑制効果がある。もっと、低コストでできるものに「監視カメラ設置告知シール」がある。「監視カメラ作動中」「監視カメラで録画中」といった文字が書かれたシールを周囲に貼ることで、抑制効果を持たせている。但し、ダミーであることが、バレてしまうと、却って犯罪のターゲットになることがあるので注意が必要である。