最近、スーパーやコンビニでセルフレジを見かけることが多くなった。人手不足が深刻であり、人件費の削減にもなるので、設備投資をしてでもセルフレジを導入した方が合理的だと判断する経営者が増えたのだろう。セルフレジの操作は誰でも直ぐにできる簡単なものである。必要な品物を買物かごに入れて、それをセルフレジの側に置き、買物かごから自分が買った商品を予めレジに備え付けられたスキャナーで読み取らせる。商品に張り付けられたバーコードをスキャナーで読み取らせるとピッと読み取り確認の音がする。そして、購入した商品の全ての読み取り作業が終わると画面に表示された合計金額を確認し、セルフレジで支払いを済ませて買物が完了するという仕組みである。

 

 

セルフレジも、店舗によって操作の仕方は様々なので、最初は少し戸惑うが、慣れてしまえば、店員にいちいちレジ打ちをしてもらうよりも、自分のペースで手軽に買い物ができて便利である。最近は客層の比較的良い店舗では、セルフレジ化がどんどん進んでいる。理想を言えば、人件費削減の為には、レジの完全無人化が理想であるが、盗難リスクもあることから、そこまでは難しく、側に店員がついて状況を確認している。また、店員が応対する普通のレジと顧客が一人で清算を行うセルフレジを併用しているケースも多い。普通のレジでも、店員がスキャナーで商品のバーコードを読み取って集計をしており、バーコードの読み取りと支払い清算について店員が関与するか、全て顧客が行うかの違いである。

このような販売管理業務における効率化の主役となっているのは、商品一つ一つに貼られたバーコードである。スキャナーに商品に張り付けられたバーコードを読み取らせることで、店頭業務の効率化を図り、POSシステムと連動させて売上管理を行い、それを分析することで、販売政策や仕入政策にも生かすことができるのである。

 

 

レジ業務の効率化とPOSシステムによる販売管理運営を可能にしているのは、一つ一つの商品にバーコードが貼り付けられているからである。バーコードをスキャナーで読み取ってチェックするというシステムの実用化は、1964年に米国の大手スーパーマーケットが導入したことが始まりと言われている。日本では、1972年にダイエーと三越でバーコードによる自動チェッキングシステムがテストされたが、当時は規格化・標準化が整備されていなかった。1978年に日本における共通商品コードとして、JANコードがJIS化されたことで、流通共通のシンボルとして標準化が進められた。しかし、POSシステムを導入するには、全ての商品にバーコードラベルを貼る必要がある。メーカーにとっては新たな管理費用の増加となり、負担が大きかったので直ぐには普及しなかった。1984年に大手コンビニのセブンイレブンが本格的なPOSシステムを導入し、商品納入業者にバーコードによるソースマーキングを求めたことがきっかけになり、食品や雑貨品のソースマーキング比率が高まり、そこから本格的に百貨店、スーパー、コンビニ、専門量販店へPOSシステムが普及していった。

それでは、今回はPOSシステム運用の決め手となるバーコードの問題について取り上げてみたい。次の質問は、ある家電メーカーが、新製品を発売した際に、誤って製品と異なるバーコードを登録してしまったという事例である。メーカーの担当者の立場に立ってどのように対応すべきか、具体的な対策を考えてもらいたい。

 

 

Q1:家電メーカーA社は、1989年に新しいコンセプトの家電品を開発した。従来製品にはなかった、新しいデザイン、新しい機能を取り入れることで他社差別化を図り、販売店からの評価も高かった。新製品を発売するには、販売店が商品管理やPOSシステムでの運用ができるように、型別色別にJANコード登録をする必要があった。そこで、JANコードを管理する一般財団法人流通システム管理センターにJANコードの申請を行い、入手したJANコードをバーコード化して製品本体に貼付けて完成品とした。

A社が開発した新しいコンセプトの家電品もこの手順を踏まえて、製品の段ボール一つ一つにバーコードを貼り付けて製品とした。新製品の出荷は、タイミングが遅れると勝機を逃すので、販売スケジュールに合わせて販売店への出荷を行い、出荷が一段落してやれやれと思った矢先に、設計した技術者が驚くべき過ちに気づいた。新製品は同じ型名で「白」と「黒」の2種類のカラーを揃えていた。型名が同じでも色が違えばバーコード異なる。ところが、JANコードの登録を行う際に誤って、「白」と「黒」を取り違えて逆にしてしまい、それがそのままバーコードに反映されてしまったのである。

このままにしておくと、消費者が家電品のカラーは「白」がいいと決めて購入したのに、自宅で段ボールを開けるとか、購入した覚えのない「黒」の家電品が出てきたということになり、大きなトラブルになってしまう。既に、販売店には数万台が出荷されており、販売が進むと、色違いのトラブルが全国的に一斉に発生することになり、とんでもないクレームになってしまう。

そこで、A社の担当者が、大急ぎで対応策を検討し、それを実施することで、早期にトラブルを解決しようとした。それでは、A社はどのような対策をすることで、バーコードの取り違えによる色の間違いトラブルを解決したのだろうか。次の中から、正しいものを選んで欲しい。

 

 

①バーコードの元になるJANコードの登録は、一般財団法人流通システム管理センターが 管理している。そこで、A社の担当者は、一般財団法人流通システム管理センターに出向いて、コード登録の色違いの変更をしてもらうことで、トラブルを解消し問題を解決した。

 

②販売を行う上でもバーコード管理は、販売店がPOSシステム等を運用して行っている。バーコードの間違いは、幸いにも同じ型名の色違いの問題であった。バーコードを取り違えたが、同一型名であることから価格面での影響はなかった。そこで、メーカーの担当者は、販売店に個別に出向いて、販売店のPOSシステムにおいて、コード登録を「白」と「黒」を逆に変更して頂くようにお願いして、トラブルを解消し問題を解決した。

 

③バーコードのベースデータであるJANコードは、一度登録したら訂正することは許されない。そこで、A社の担当者は、「白」と「黒」が正しく印刷されたバーコードシールを全ての製品にもう一度上から貼り直すことで、トラブルを解消し問題解決を図った。具体的には、工場にある在庫は、直ぐに正しいバーコードを貼付けた。一方、販売店に出荷済の製品は、改めて全数回収し、回収した製品すべてに正しいバーコードにシールを貼り直した。

 

 

A1:正解は②である。

バーコードの元になるJANコードの登録は、一度登録したら変更はきかない。従って、②にあるような販売店にお願いして、店舗で使用するシステムのコード登録を変更して貰うか、それとも③にあるような製品に添付されたバーコードをもう一度張り替えることの選択しか方法はない。③の全数回収では負担があまりに大きいことから、②が現実的な選択肢であった。

ここでポイントとなるのは、1989年当時、販売店が家電品の販売管理を行う上でバーコードをどの程度使っていたかである。結論から言うと、販売店が取り扱う製品の内、バーコードで管理しているのは単価の安い食料品や日用品が中心であった。確かに多くの販売店でバーコードを利用したPOSシステムの導入が進められていたが、家電品のような大型商品については、この時点ではほとんどの販売店でPOSシステムによる販売管理は行っていなかった。

JANコードの取り違え事故が起きたことで、A社の担当者が実際に販売店に説明に出向いた。そして、各販売店のPOSシステムによるバーコード利用を確認したところ、家電品のような大型商品の販売管理にPOSシステムを利用するケースは極めて少なかった。実際に、家電品のPOSシステム管理を行っていたのは、全国展開を行っている大手スーパー2社と関西の家電量販店1社の3社だけであった。大手スーパー2社には、A社の担当者が販売店に出向いて、スーパーが使用する社内システムに使用している店舗内のバーコード登録を「白」と「黒」を逆にして貰うことをお願いしてトラブルを回避した。一方、関西の家電量販店については当時のPOSシステムはデータ容量が限られていたことから、色を区別して管理する仕組みがなかった。その為、現状の色違いのバーコードをそのまま使用しても、特に販売への影響はなかった。

この当時は、家電品の販売においては、バーコードを利用したPOSシステムが本格的に導入されていなかった。そのために、販売店の個別のシステム内での登録変更で対応することが可能だった。しかし、現在のように販売店で取り扱うほとんど全ての商品でバーコードを使ったPOSシステム管理が行われる世の中では、もし、同じような問題が発生した場合には、全数回収し、バーコードの全数貼替をせざるを得ないであろう。