コンビニはいつでも店が開いているという利便性が消費者から支持されてきた。ところが、最近になってコロナ禍による売上減や人手不足が影響したのだろうが、24時間営業を止める店が出てきた。生まれた時からあたり前のように24時間営業をするコンビニを利用してきた若い人には驚きかもしれないが、そもそもコンビニが日本に誕生した当初は24時間営業など行っていなかったのである。

 

 

代表的なコンビニチェーンであるセブンイレブンのケースを取り上げると、1974年5月に東京都江東区豊洲にセブンイレブン1号店をオープンさせたが、その時の営業時間は、その名前の通り午前7時から午後11時の16時間営業だった。その後、1975年に福島県郡山市の虎丸店で試験店舗として24時間営業を行ったところ、「いつでもあいていて便利なお店」として評判となった。そして、24時間の店舗営業がコンビニ店舗運営の基本となり、次第に社会に受け入れられるようになり、全国に広がって行ったのである。他の大手コンビニチェーンでは、ファミリーマートが1973年に埼玉県狭山市に狭山店を初めての店舗としてオープンし、その後1975年から24時間営業を開始している。ローソンは1975年に大阪府豊中市にローソン1号店桜塚店をオープンし、1977年から24時間営業を開始している。

これらのケースを見ていくと、大手コンビニチェーンは、1970年代前半にコンビニの店舗展開をスタートさせている。そして、1975年から1977年の間にそれぞれのコンビニチェーンが24時間営業を開始し、その後コンビニの標準的な販売方式として、全国展開を図っている。このようなプロセスを踏まえて、現在のような「いつでもあいていて便利なお店」としてのコンビニが社会に定着したのである。

1970年代から1980年代の日本は経済成長とともに人々の働き方やライフスタイルが多様化しつつあった。そのような社会変化に対して、必要な時に必要なものが買えるというニーズが消費者からも高く評価され、24時間営業店舗の全国普及が一気に進んでいった。コンビニの24時間営業は消費者の利便性が高いだけではない。店舗運営側にとっても営業時間を延ばすことで販売の機会損失を防ぐことができること、深夜時間帯に商品の配送・仕入・陳列・清掃等ができること等がメリットとして挙げられ、限られた店舗スペースを使って24時間営業を導入することで効率的で無駄のない店舗運営を行うことができるのである。

一般的に24時間営業というと、まずはコンビニをイメージする人が多い。しかし、人々の働き方やライフスタイルが多様化社会変化によって生まれた効率的で無駄のない店舗運営は、コンビニだけの事象ではなく、24時間営業を取り入れた販売形態は日本の流通業界全般に広がっている。身の周りには24時間営業のスーパー、24時間営業のファミリーレストラン、24時間営業の大手牛丼チェーン、24時間営業の大手ハンバーガーチェーン等があり、それを利用することが我々の生活の一部になっているのである。これらの業態では、コンビニのように全店舗を一律24時間営業にするといったことは行っていないが、店舗の周辺状況と運営実態に合わせて、24時間営業方式に適した店舗を積極的に導入することで、売上アップと効率的な店舗運営を進めている。例えば、大手ハンバーガーチェーンのマクドナルドの場合は、2006年5月より、24時間営業店舗の導入を開始し、特にドライブスルー店舗を中心に展開している。深夜・早朝を問わずに出来立てのメニューが食べられ、持ち帰りができることが顧客から評価され売り上げを伸ばしている。

 

 

24時間の営業店舗というと直ぐにコンビニをイメージし、それに他の流通業界が追従したという印象を持つ人が多い。しかし、実はセブンイレブンが1975年に24時間営業店舗を導入する前に、最初から24時間店舗営業を導入して店舗展開を実施したファーストフードチェーンがある。それが、米国発のドーナッツチェーンのミスタードーナッツである。ミスタードーナッツは1971年4月に大阪府箕面市にミスタードーナッツ1号店箕面ショップをオープンした。当初から米国方式を取り入れ、24時間営業で運営を行っており、24時間いつでもドーナッツを食べたり、持ち帰ったりすることができるという当時としても画期的な店舗だった。その後、ミスタードーナッツは、箕面店での成功を踏まえて阪急電鉄の沿線にそって大阪府豊中市、池田市といった近隣に店舗展開を行っている。

そこで、次の質問は、業界に先駆けて24時間営業を展開したミスタードーナッツについての問題である。

 

Q1: 日本を代表するドーナッツ店と言えばミスタードーナッツであるが、もともとは米国発のドーナッツチェーンであり、日本においては大阪からスタートして全国展開を図っている。1971年4月に大阪府箕面市にミスタードーナッツ1号店箕面ショップをオープンしたが、米国方式を取り入れてスタートから24時間営業を販売を行った。当時は、ドーナッツ単品を販売するドーナッツショップという存在そのものが目新しい上に、開店当初から24時間いつでもドーナッツを食べたり、持ち帰ったりすることができるということが画期的であり、たいへん話題となった。ミスタードーナッツは、箕面店での成功を踏まえて、大阪府豊中市、池田市等の近隣地域に阪急電鉄の駅付近を中心に店舗展開を進めている。

1975年に大阪府池田市の石橋商店街付近に24時間営業のミスタードーナッツ石橋店を出店した。近くに大学があり、学生も多い場所であることから、24時間営業店舗は成功するかと思われたが、予想に反して僅か1年で撤退してしまった。

その理由について、次の中から、正しいと思うものを選んで欲しい。

 

 

 

①当時はドーナッツだけの店舗は珍しく、開店当初は多くの客でにぎわったが、近隣の商店街にも飲食店や喫茶店が多数あったことから、ドーナッツだけでいつまでも顧客を引き留めるのは難しかった。リピーターを増やすのは容易ではなく、売上げが伸びなかったことからやむなく閉店した。

 

②24時間営業の店舗というのは便利であるが、ドーナッツだけを単品で扱い、しかもその価格も高かったので、近隣のスーパーやパン屋で売られているドーナッツと価格競争をすると負けてしまい、せっかく24時間営業の便利さが生かせないまま閉店した。

 

③近隣に商店街があり、一定の開店営業時間を守って長年商売を行っていた。そこに24時間営業のドーナッツショップが出来たので、これまでの商習慣に反する営業時間に対しては反発が大きかった。地元の商店街からミスタードーナッツの24時間営業に対して反対の声があがり、その圧力の影響もあって閉店した。

 

 

 

A1:答えは③である。

今でこそ、日本の流通業界において店舗の365日営業や一日24時間営業が当たり前になっているが、1970年代当時は、全国に個人商店が多数を占めており、昼間は営業するが夜になったら店を閉め、毎週一回定休日を設けるというのが一般的な商習慣として根付いていた。それが当時の生活として当たり前のことであった。1975年に大阪府池田市に出店したミスタードーナッツ石橋店も近くに昔からの商店街があり、開店当初から24時間営業という販売方式そのものが地域の商店街の秩序を乱すものとして問題視されていた。また、商組からも強い圧力があったと言われている。そのために24時間営業の店舗として開店したものの、周辺店からその営業方式に対する批判が続き、その結果として閉店してしまった。

ミスタードーナッツは24時間営業店舗の先駆者であるが、当時の日本人のライフスタイルや社会常識からは異質のものと見られ、出店にあたっても様々な軋轢があった。ミスタードーナッツは引き続き、24時間営業の店舗による全国展開を進めているが、その後も地域によって濃淡はあるものの、商店街や商組からの様々な圧力を受けている。この当時は学校が生徒に対して「深夜営業をするような店は不良のたまり場になるので利用しないように」との指示が出されることもしばしばあったと言われている。

ミスタードーナッツは、1971年4月に開店した箕面市の1号店から24時間営業を取り入れているが、当時は日本も24時間営業に対する意識は現在とはかなり異なっていた。時代を先取りした施策は出店する地区によってはなかなか受け入れられず、どこに行っても苦労が多かったようである。

その後しばらくして、ミスタードーナッツ石橋店は、同じ場所に再び店舗を開店している。そして営業時間を変更して長らく営業を続けていたが、コロナ禍の影響もあったのかもしれないが、2021年1月に閉店している。