前回に続いて、緑茶飲料市場について考えてみたい。清涼飲料水事業分野において40年程前までは全く市場として存在しなかった緑茶飲料市場は、伊藤園が1985年に発売した缶入りの緑茶飲料「缶入り煎茶」の発売をきっかけに市場が立ち上がり、その後のペットボトル化が追い風となって、これまで存在しなかった無糖の緑茶飲料の市場が形成された。それまでの清涼飲料水は、コーラ等の炭酸飲料水やジュースのような甘い飲料水が中心だったが、健康志向の高まりから無糖の清涼飲料水へのシフトが進む中で、緑茶飲料が急増していった。しかし、それまでは毎年需要が増えて行ったが、2000年代に入ると市場も次第に成熟化して需要が伸び悩むようになった。その一方で各社の競争は引き続き激化していった。このような中で成熟期において生き残りを図るには、他社差別化によるシェア拡大や高付加価値化による利益の確保が重要である。

今回は、ライフサイクルステージの成熟期において、新しい視点から、付加価値を見出すことに成功した事例について、ケーススタディとして取り上げてみたい。

 

 

Q11.緑茶飲料も成熟期を迎えると、お互いに市場のパイを奪い合うように清涼飲料水各社が激しい競争を繰り広げるようになった。それまで右肩上がりの成長が続いた緑茶飲料市場も2000年代に入ると需要の伸びが低下し、ライフステージも成長期から成熟期に移行していった。そして、2004年以降は需要がほぼ横ばいになっていった。その中で各社が差別化した製品を導入され、機能訴求面でのメーカー間競争が激化するとともに店頭での価格競争も激しくなって行った。伊藤園のトップブランド「おーいお茶」に対抗して、2000年にキリンの「生茶」が発売され競争は激化したが、その後も2004年にサントリーの「伊右衛門」、2007年にコカ・コーラ「綾鷹」が新製品として発売され、消費者からはそれぞれの独自の味わいが評価された。一方、伊藤園も2003年から「おーいお茶 濃い茶」を発売し、機種系列を強化して競合他社に対抗している。

このように、2004年以降は、緑茶飲料市場は需要が伸び悩む中で機能競争と価格競争が激化して、収益面にも影響がでるようになっていった。そのような中で、A社は密かに独自の製品開発を進め、2003年にこれまでになかった差別化機能を持った緑茶飲料の新製品を投入、それはその後のヒットに繋がっていった。成長期から成熟期に市場構造が大きく変化する中で、新たに参入したA社がとった拡販戦略とは一体どのようなものだろうか。次の中から正しいものを選んで欲しい。

 

①これまでの緑茶飲料は、清涼飲料水の一つとして飲まれることで需要を伸ばしてきたが、甘みや糖分は入った炭酸飲料水やジュースに比べると、味覚の点で物足りない消費者も多かった。そこで、A社は逆転の発想でこれまでほとんどなかった蜂蜜をいれた糖分含有の緑茶飲料を開発し、緑茶に蜂蜜の持つ自然な甘さと健康性を特長とした新しい感覚の緑茶飲料を新製品として発売したところ、ヒット製品となった。

 

②これまでの緑茶飲料は、清涼飲料水の一つとして飲まれることで需要を伸ばしてきたが、無糖の飲み物として、甘みや糖分は入った炭酸飲料水やジュースを飲むのに比べると自然で健康的である志向であることが、好まれる原因であった。A社は消費者の自然志向や健康志向を更に深掘りし、緑茶飲料に「健康」という付加価値を積極的に取り入れるとともに、販売ルートを絞り込んで、単価の高い「健康飲料」として新製品を販売したことで、ヒット製品となった。

 

③これまでの緑茶飲料は、清涼飲料水の一つとして飲まれることで需要を伸ばしてきたが、無糖の飲み物として、消費者の中には水替わりに飲むケースが多かった。A社が消費者の使用実態調査を行ったところ、食後に定期的に薬を飲む消費者が、服用の際の水が近くて手に入らず、かといって緑茶飲料をそのまま使って薬の服用するのは良くないといわれて困るというアンケート結果がでた。そこで、A社は緑茶成分から薬を服用出来ない原因となるカテキンを除いた緑茶飲料を新製品として開発し、「水と代替できるやさしい緑茶飲料」として発売したところ、ヒット製品となった。

 

 

A11.答えは②である。A社とは総合日用品メーカーの花王、2003年に発売された新製品とは健康飲料「ヘルシア緑茶」である。花王はもともと健康を切り口とした製品開発に注力しており、脂肪代謝促進を効用とした健康油「エコナ」を発売し、ヒット製品に育てていた。その経験から。緑茶飲料についても「健康」という付加価値を加え、脂肪代謝効果のある茶カテキン(普通のお茶の5倍)によって内臓脂肪を落とす効果が期待できる「特定保健食品」の緑茶飲料として開発した。新製品「ヘルシア緑茶」は、2003年に350ミリリットル180円という、他のペットボトルのお茶に比べて、容量と価格面でやや割高な製品であったが、忙しいサラリーマンが毎日手軽に飲める健康飲料というコンセプトで市場導入を行い、販売ルートもコンビニにターゲットを絞って展開を実施したところ、消費者に支持されて、大ヒットに繋がっていった。そして、それはその後の日本社会における「健康ブーム」の一角を担うこととなった。2000年代に入って緑茶飲料市場の需要が頭打ちになり、価格競争が徐々に激しくなっていく中で、総合日用品メーカーの花王は、後発メーカーでありながら「健康」という新しい付加価値を切り口で新たな需要を創造し、新製品を発売して、利益を確保したのである。

 

 

【健康飲料のマーケティング】

・緑茶飲料分野における花王の健康飲料「ヘルシア緑茶」の登場は、既存の緑茶飲料メーカーに大きな影響を与えた。もともと、お茶という飲み物は健康に良いといわれていたが、「健康」というコンセプトを積極的に捉え、「余分な脂肪を落とす」とか「メタボになるのを防ぐ」といった新しいアプローチで提案することで、緑茶飲料においても、価格競争に巻き込まれるのを防いで、付加価値の高い製品として販売することができることに気付いたのである。

・現在では、健康飲料野でも各社が市場参入し、機能性表示食品としての緑茶飲料としては、伊藤園からは「おーいお茶濃茶」、サントリーからは「伊右衛門濃い味」、コカ・コーラからは機能性表示食品「綾鷹濃い味」が発売されている。このようなことから、機能性表示食品だけでは付加価値がつけにくくなっているため、特定保健用食品(トクホ)分野で緑茶飲料の付加価値と単価アップを図っており、伊藤園の「カテキン緑茶」、サントリーの「伊右衛門特茶」等が売れ筋となっている。

・一方、花王は対象を緑茶飲料分野だけでなく、特定保健用食品・機能性表紙食品シリーズを「ヘルシア」ブランドとして健康飲料全体に広げており、スポーツ飲料の「ヘルシアウォータ―」、炭酸飲料の「ヘルシアスパークリング」、コーヒー飲料の「ヘルシアコーヒー」等を次々と発売し、独自の展開をして売上拡大に繋げている。