ライフサイクルが成熟期を迎えると、企業は売上を確保する為に様々な工夫を行う。具体的な対策として、製品政策・価格政策・ルート政策等の多角度からのアプローチを行なうことが求められる。前回に続いて、菓子業界の事例を取り上げるが、国内で少子高齢化が進む中で、子供をメインターゲットとしていた菓子業界は、若年層の絶対数の減と甘いもの離れにより需要が伸び悩んでおり、厳しい事業環境を打開するため、消費者への新しいアプローチを模索している。

次の事例は、そのような局面で考え出された消費者への具体的なアプローチ方法に関する問題である。

 

Q2.菓子メーカーA社は、成熟した市場の中で新たな活路を見出すべく、今まで全くの未開拓であったオフィスにおける需要の掘り起こしに乗り出した。従来から中々食い込めなかったオフィスにおける菓子のニーズを勝ち取った効果的な方法とは次の内のどれか。

 

①休み時間等の時間を利用して、菓子メーカーの営業マンが、駕籠に菓子を入れて職場を巡回訪問して販売した。

②職場の飲料の自動販売機の隣に菓子専用自動販売機を置くことで、いつでも手軽に購入出来るようにした。

③職場にお菓子の入った箱と代金入れを置いて、職場の社員が各自必要に応じていつでも、お菓子を選んで買えるようにした。

 

 

 A2.答えは③である。

・日本人の年齢は少子高齢化の中で年々増加しており、2022年の平均年齢は49歳近くになろうとしている。まさに日本人全体が初老の域に入ろうとしている。ちなみに、中国の平均年齢は38歳、インドに至っては28歳であり、このような年齢の違いからも、昨今の経済の勢いに大きい差が出ているのも、納得せざるを得ない。

・日本の菓子メーカーは、国内の若者をメインターゲットとして戦後大きな成長を遂げてきた。しかしながら、少子高齢化が急速に進む中で、子供の数が激減し、菓子業界全体が需要が低迷し、かつてのような伸長は望めない状況になっている。大手の菓子メーカーの中には、本業が頭打ちとなることについては、ある程度割切り、その他の療育への業態拡大や多角化に力を入れることで可能性を広げていこうと言うケースもある。また、逆に成熟した市場の中で、新業態に手を広げるのではなく、本業である菓子需要を深掘りし、販路を広げることで、売上げを拡大して、生き残りを図る企業もあるのである。

・菓子メーカーA社とは業界の老舗の一つ江崎グリコである。そして、今まで中々食い込めなかったオフィスにおけるニーズを勝ち取った。それが、職場に菓子の入った箱と代金入れを置くという古くて新しい手法「オフィスグリコ」である。

・子供の減少と甘いもの離れの中で、菓子需要は飽和状態にある中で、グリコが目をつけたのが、オフィスにおける菓子ニーズである。大人の男性でも仕事の合間のちょっとした息抜き時間に、甘いものが欲しくなった経験を持つ人は多いのではないか。かつて江戸時代に富山の薬売りが発案した全国の家庭に薬箱を置いて回り、お客は使用した分だけを支払い、薬売りは次に訪問した時に置薬の補充と代金回収を行なうという効率的で便利なシステムがあった。これを現在に再現し、オフィスで「置き菓子」を直販するという斬新なアイデアで既存の流通網に頼らない独自の販売経路を構築したのが「オフィスグリコ」である。当初は、スポーツの試合等で売り子が駕籠に入れて食べ物を売るように、菓子を持って営業スタッフがオフィスを巡回したが、売れる時間帯が限られ、男性社員は敬遠する等反応は今一歩であった。菓子は保存が利く、また買ったら必ずしもその場で直ぐに食べるようなものでもないことから、オフィスにあった新しい販売方法としてうまれたのが「オフィスグリコ」のアイデアである。オフィス内に薬箱のような箱(リフレッシュボックス)を設置し、菓子を入れておく。オフィスの社員は、好きな時に好みの菓子を箱から取って、代金の100円玉を箱上部の代金箱に入れる。一週間に一度程度、グリコの営業スタッフが台車を押してオフィスを巡回し、代金回収と商品補充を行うのである。

 

・「オフィスグリコ」に関する職場の潜在的なニーズは高く、この方法なら社員が欲しいと思った時にいつでも手軽に購入できることが認められ導入した職場の反応は上々であった。販売面でも無人販売とすることで、無駄な人件費を抑制出来ることから、効率的に対応することが可能になった。現在、東京や大阪を中心にオフィス街の約11万ヶ所に菓子箱を設置し、50億円以上を売り上げるまでに成長している。オフィスグリコの購入者の7割は男性が占めるという。菓子業界は典型的な成熟市場であるが、古くて新しい販売方法により、コンビニやスーパーで菓子を買うことが少ない層を取り込むことで、新しい市場の開拓に成功したのである。

 

 

【補足説明】

「オフィスグリコ」はワンコイン販売を訴求してきたが、最近は菓子が急速に値上がりしたことで、単価が100円でなく150円が増えてきたため、単純にワンコインというわけにはいかなくなっている。また、無人販売は、職場のモラルという社員間の信頼性を前提にしているが、中には社員のモラルが低く、代金を払わないケースが増えて、回収率が低くて無人販売が成立しないケースもあるようである。そのような場合は、ボックスを数か月で撤去することもあり、全ての職場で「オフィスグリコ」の販売方式が成功するとは限らない。