・これまでに世の中に無かった新製品を市場導入するには、インパクトのあるネーミングが求められる。これまでも、ネーミングがヒットの決め手となった新製品として、その年のヒット商品番付でも上位となった代表的な成功事例として、アサヒビールの「スーパードライ」、キリンビールの「一番搾り」、レナウンの靴下「通勤快足」、パナソニック(旧松下電器)の大画面テレビ「画王」、三菱電機のダニ退治クリーナー「ダニパンチ」等を紹介してきた。ここでは、時代の変化を踏まえたマーケティング戦略と言う視点から、当時の時代背景を踏まえてヒットに結びついたペットネームについて見ていきたい。

 

・「一番搾り」は、従来キリンビールは「ラガービール」が主力であったが、アサヒビールの「スーパードライ」の攻勢に対抗する為に作られた新しいコンセプトのビールとして開発されたものである。実は一番搾りという用語は、アルコール飲料や醤油等の醸造を営む業界では昔から普通に使用されていた言葉であり、製品が完成して最初に絞った旨味が含まれたものを一番搾りと呼んでいた。清酒業界においては、老舗菊水酒造が搾りたての生原酒をアルミ缶に入れたものを「ふなぐち 一番搾り」として1972年に発売し当時からヒット商品となっていた。キリンビールは製造時に原料の自重だけで自然に流れてくる麦汁だけを使ったビールを「一番搾り」と名付けてヒットに結び付け、「キリンラガー」と並ぶ経営の柱となる製品にまで育てたが、キリンビールの「一番搾り」というネーミングは、もともと業界用語として一般的に使われていた一番搾りと言う言葉が持つ上質感、高級感をビールのペットネームとすることで、これまでにない新しいビールのイメージを消費者に訴求したのである。そして、そのインパクトのあるペットネームが、高級感と旨味の両方を消費者に訴求して大ヒットに繋がった。

 

・インパクトのあるペットネームを持つ製品がヒットすると、ペットネームの好印象を利用して、そのヒットにあやかろうという考えが出てくる。ペットネームのマーケティング戦略においても、全く異なる分野で同じような好印象を持ったペットネームが使われ、それがヒット商品に繋がることがある。キリンビールが1990年に「一番搾り」を発売して大ヒットとなったが、全く事業分野が異なるが、1996年に三菱電機が24時間風呂「一番風呂」を発売してヒット商品となっている。24時間風呂というのは、循環温浴システム・濾過装置のことで、温水を浄化・循環させることで、お湯を入れ替える必要がなくなり、24時間いつでも清潔なお風呂に入ることができるという製品である。以前は一番風呂というと「不純物が無く熱の伝わりが早いため身体に負担になる」と言われてややマイナスイメージを持つ人が多かった。しかし、キリンビールの「一番搾り」が大ヒットしたことで、一番風呂という言葉も「一番最初の上質なもの」と言った好意的なイメージに変わって行った。そこで、三菱電機は24時間風呂の新製品に「24時間いつお風呂に入っても、一番風呂のような清潔でクリーンな入浴が楽しめる」というコンセプトを全面に出して、「一番風呂」というペットネームをつけて新製品を売り出したところ、製品コンセプトが消費者に好感を持って受け入れられヒットに繋がったのである。

 

 

・同じような事例として、1992年の発売された日清製粉のカップラーメン「ラ王」がある。これまでカップラーメンに一般的に採用されていた乾燥麺ではなく、レトルトパウチされた生タイプ麺を特徴として、長期常温保存が可能であり、まるで生麺のような食感を持ったカップラーメンとして開発され、その本格志向のイメージをペットネームにしてラーメンの王様と言うことで「日清ラ王」と命名してヒット商品となった。実は、製品ジャンルは全く異なるが、その当時、1990年にパナソニック(旧松下電器)から大画面テレビ「画王」が発売されて大ヒット商品となっており、消費者には大画面テレビのトップブランドとしての「画王」のイメージが浸透していた。そこで、テレビの王様が「画王」なら、これから発売する生タイプ麺の新製品は、ラーメンの王様だから「ラ王」だということになり、「画王」のトップブランドイメージをうまく借用してペットネームにしたことが、その後のヒットに繋がったと言われている。

 

 

・ペットネームは、新製品を発売する上で大切な要素であるが、ただ面白いペットネーム、奇抜な発想のペットネームをつけても、それがそのままヒットに繋がるとは限らない。これまで述べてきたように、その時その時のトレンドや言葉が持つイメージを上手く利用することで、時代の変化、時代の流れに乗ったペットネームがヒットを生み出すのである。