成長期は売上と利益が拡大する一方で、競合が激しくなり、消費者ニーズも多様化する。このような時に大切なのが、製品の差別化であり、ブランド力を高め、如何に競争に勝ち抜いて行くかが成長期におけるマーケティングのポイントである。

成長期には、総合力のあるトップメーカーが、製品力・ブランド力・販売力にものを言わせて拡販を図ってくるが、そのような状況の中で、二番手メーカーがトップメーカーに対抗するには、トップメーカーのマーケティング戦略の上を行くような、斬新な対策が求められる。ここでは、前項に引き続き、大画面テレビの事例を取り上げる。

 

Q2.日本の家庭で大画面テレビは1990年代に入り、市場が本格的に立ち上がる中で大手家電メーカーであるパナソニック(旧松下電器)が大画面テレビ「画王」を発売し、他社との差別化を明確にした製品の導入で一気にシェア拡大と売上げアップを図った。競合メーカーであるA社は、それに対抗するため、パナソニックが大量の広告宣伝を投入して築き上げたトップブランド「画王」に対抗すべく、新たに新製品を投入し、ヒットに結びつけたが、その方法は次の内のどれか。

 

①パナソニック(旧松下電器)の画王に無い技術・機能・デザインによる徹底的な製品差別化を行うことで、「画王」を否定し、新製品を徹底PRした。

②パナソニック(旧松下電器)の画王は大画面機種を主体としているが、それと直接対決するのを止め、小型テレビの機種系列で高機能・高画質の新製品を出すことで、売上拡大を図った。

③画王の大画面テレビと同様のコンセプトの新製品を出すことで、先に築き上げたブランド戦略に便乗するような形で売上拡大を図った。

 

 

A2.答えは③である。

・自動車レースやマラソンレース等でよく使われる対策に、トップの後に離されないようにしっかり二番手に着くという作戦がある。トップが風を切って進むのに対して、その後ろにピッタリついて、風の抵抗をうまく避けて、効率的に二番手を維持するのである。成長期にトップメーカーに対抗して市場のポジションを確保するには、タイミング良く迅速に製品を投入するとともに、参考にすべきようなことはドンドン取り込んでしまい、その類似性をうまく利用してブームに便乗するというのも、重要な戦略の一つである。

大画面テレビの商戦でも同様の作戦で、トップブランドの「画王」がヒットする中で同様のコンセプトを持つ類似の製品を二番手メーカーが発売することで、需要拡大時期に効率良く新製品を立ち上げた。トップブランドにはなれなかったものの、好位置をキープして、チャッカリと売上と利益を確保したのである。

・競合メーカーであるA社とは、パナソニック(旧松下電器)の関西に於ける長年のライバルでもあった三洋電機、ある新製品と「画王」の向こうを張って1991年に発売したハイビジョン対応の大画面テレビ「帝王」である。競合メーカーの製品である「画王」に対抗してそれを上回るような製品名として「帝王」という愛称を名付けるとともに、当時、米国ゴルフのマスターズ等で度々優勝し、ゴルフ界の「帝王」と呼ばれたジャックニクラウスを製品のキャラクターとして使い、TVCMを主体にして積極的に訴求することで、「画王」に対抗し、大画面テレビの市場で一定の地位を確保することに成功したのである。

・三洋電機は長らくのパナソニック(旧松下電器)の陰で、関西における二番手の家電メーカーとして成長して来たが、そこには二番手に徹する製品戦略があった。大画面テレビの事例に限らず、三洋電機は常に先行メーカーの状況に注意を払い、新製品がヒットしてこれは市場が大きく成長すると見るや、短期間の間に同様の製品を開発し、市場導入を行って、二番手メーカーとしての地位を確保するというビジネスモデルを作って来たのである。新製品の市場導入が成功して市場形成が図れた後は、利益の確保が期待できる成長期にターゲットを合わせ、タイミング良く二番手として商品を投入することで確実に利益の果実の分け前を取って行くのである。

 

・白物製品においても、パン焼き器、布団乾燥機、石油ファンヒーター等、いずれの場合でも、今まで世の中に無かったこれらの新製品を他社が発売して、市場でヒットすると三洋電機はその動きを敏感に捉えて、二番手メーカーとして速やかに製品化を図り、同様のコンセプトの製品を投入する。早いタイミングで新しく形成された新製品市場の一角を押さえることで、一番手メーカーが創業者利益を一社独占することを阻むという戦略を取るのである。

・そのようなケースの中には、二番手メーカーの地位に甘んぜず、母屋を乗っ取ってしまうケースもある。例えば、家の中に居る見えないダニを掃除をしながら熱で殺してしまう新機能を持ったクリーナーがある。三菱電機が開発し、発売直後から人気を呼んだヒット商品「ダニパンチクリーナー」である。アレルギーの原因の一つに家ダニがあり、それを清掃時にクリーナーが除去してくれるということで、家ダニのような目に見えないところまで配慮し、衛生・清潔を訴求して大ヒットしたアイデア商品である。三洋電機は「ダニパンチ」の成功を見て、すかさず同様にダニを熱で殺す機能を持つクリーナーを発売した。その名は「ダニハンター」。本家の三菱電機のお株を奪うようなネーミングをうまく訴求して、たちまちヒット商品となり、対抗メーカーの地位を確保した。

・しかしながら、単にそれだけでは収まらないのが、三洋電機である。「ダニハンタークリーナー」のヒットに気を良くして、ダニを熱で殺すという「ダニハンター機能」をクリーナーだけでなく、電気カーペットや布団乾燥機といった他機種にも応用し、それらの製品が市場に受け入れられ、次々とヒットした。そして「ダニ対策家電品はダニハンターの三洋」というブランドイメージを打ち出すことに成功した。ついには、マスコミの対する訴求効果を狙って、ダニ対策家電品で成仏したダニの為に、お寺で「ダニ供養」を行なうなどのマスコミ向けのパーフォーマンスを展開し、本家のお株を奪うような強力なパブリシティ活動で業界を驚かせたのである。

 

 

・パナソニック(旧松下電器)が持てるものの強みを生かして、トップブランドと販売力の力を生かして、横綱相撲で正面から市場を立ち上げていけば、三洋電機は二番手メーカーとして、先行メーカーの動きを迅速に捉え、先行メーカーが新しい市場・新しいブランドを切り開く力をうまく利用して、その陰でチャッカリ分け前にありつくという、小兵ながら柔軟で小回りの聞く独自の商品戦略により、生き馬の目を抜くような激しい競争を生き残ったのである。