最近、コンビニに行くと棚に並んでいる商品の多くがプライベートブランドになっており、ナショナルブランドを押しのけて、売れ筋の商品として一番いい場所に並んでいる。その対象とする範囲も「弁当」「おにぎり」「パン」「スイーツ」「菓子」「飲料水」「総菜」まで幅広く、商品を並べる展示スペースが限られるコンビニの店内は、プライベートブランドの商品が販売の主流になっているように見える。

このような傾向が顕著になったのは、ここ十数年のことである。それまでもコンビニは、「弁当」「おにぎり」「パン」等についてはプライベートブランドの販売に力を入れていた。しかし、最近はもともとナショナルブランドが強かった「菓子」「飲料水」「総菜(含む冷凍食品)」等にまでプライベートブランド商品化が進んでおり、コンビニの店舗販売全体がプライベートブランドの販売にウエイトを移している。

 

ここまでして、コンビニがプライベートブランドに力を入れるのは何故だろうか。コンビニという販売形態は、限られた店舗スペースを有効に利用して販売を行っている。営業効率を上げるために24時間営業にして販売の機会損失を減らし、販売単価もスーパーやディスカウンターのような安売りをせずに、価格を維持して利益をきちんと確保して販売している。最近では、コンビニも全国ベースで約6万店近くに増えて成熟した市場となり、隣接したコンビニ同士が顧客を奪い合うようなケースも増えており、一店舗当たりの売上も伸び悩んでいる。そこで、売上が伸びない中で利益を上げていく方法として、コンビニが力を入れているのが、ナショナルブランド商品に比べて利益率が高いプライベートブランド商品の販売なのである。

コンビニの粗利率は商品によって異なるが、比較的わかりやすい「菓子」の粗利率を比較すると、ナショナルブランドが30~35%程度に対して、プライベートブランドの粗利率は50%程度である。コンビニ全体の売上げが伸び悩んでも、販売構成比をナショナルブランドからプライベートブランドに変えていくだけで、容易に利益をアップさせることができる。だからこそ、コンビニはプライベートブランドの販売強化に力を入れるのである。

 

 

コンビニに限らず、プライベートブランドはそれを供給するメーカーにとってもメリットがある。販売店が予め約束した数量を買い取ってくれるので売残リスクがなく、安心して生産することが出来る。また、商品を消費者に訴求する必要がないので広告宣伝費も必要ない。商品を配送するのに必要な物流費用も販売店が保有するデポに纏めて送っておけば、後は販売店が自身の物流体制を使って、傘下の各店舗に配送するので、大幅にコストが削減できる。そして、これらの費用が不要になることから、販売店の納入価格を低く抑えることができ、それがナショナルブランドとプライベートブランドの粗利率の差になって表れるのである。

但し、スーパーのように店舗スペースが広く、多品種の商品を展示することが出来るような販売形態であれば、プライベートブランドの商品が多少増えても、売場のイメージはあまり変わらないが、コンビニの場合は限られた店舗スペースで展示機種数に制限がある。プライベートブランドの販売強化によって、コンビニ店内がプライベートブランドばかりが増えていくと、ナショナルブランドが隅に追いやられ、店舗がプライベートブランド一色になっていって、消費者にとっては選択肢が限られて買い物が楽しめなくなってしまう。特にもともとナショナルブランドが強い「菓子」は、その傾向が強く、長年親しまれた有名なナショナルブランドであっても、店内の品揃えのプライベートブランド化が進むにつれて、コンビニの定番から外されてしまい、結果として売れ行き不振に陥ってしまうケースが増えている。

最近になって、ロングセラーの森永製菓の「チョコフレーク」、明治製菓の「チェルシー」「サイコロキャラメル」「カール(東日本)」が販売を終息、佐久間製菓の「サクマ式ドロップス」に至っては会社そのものが廃業している。かつて「菓子」販売の中心として全国に広く存在した駄菓子屋が、コンビニの台頭によって次々と姿を消していった。その後、コンビニ自身も「菓子」のプライベートブランド化を進める中で、消費者に長年親しまれたロングセラー菓子がその売場を失い、販売を続けられなくなったのである。日本の「菓子」は種類が多く、高い品質を誇ることで、海外旅行者の人気も高く、日本文化の一端を担ってきた。しかし、流通の急激な業態変化がメーカーの開発力を奪ってしまい、文化と伝統が失われつつあるのである。

 

 

コンビニのプライベートブランドの話が続いたので、ここでプライベートブランド本来の話に戻すことにする。日本で最初のプライベートブランドは1959年に大丸百貨店が紳士服で取り扱ったのが始まりと言われているが、スーパーで取り扱いを行ったのは、ダイエーが初めてであり、1960年にミカン缶詰、1961年にインスタントコーヒー、1962年にワイシャツ、1964年には肌着をメーカーの協力を得てプライベートブランド商品として発売している。ダイエーは創業者である中内功氏がメーカー主導の「定価」に基づく価格政策に反発して、「価格破壊」を標榜して「安売り路線」を掲げて販売を進めたところ、メーカーによる取引拒否や出荷停止という措置があり、それに対抗する形で、プライベートブランド商品を立ち上げている。プライベートブランドは、ナショナルブランドのような取引制限を受けず、価格訴求を優先させることができ、ナショナルブランドメーカーに対抗するような形でスタートした。

同時期に生協でもCOOPブランドとしてプライベートブランド商品の発売を開始しており、メーカーに対する価格対抗策という側面もあるが、本来の生協としての目的である組合員に安全安心な商品を提供するということから、プライベートブランド商品の開発を行っており、COOPブランドは現在も継続している。

一方、ダイエーの掲げる安売り志向のプライベートブランドは1970年代以降も機種系列を強化し、ダイエーは1980年にそれを「セービング」商品と呼んで更なる拡販を図っている。このダイエーの動きに触発されて、1980年に西友が「無印良品」をスタート、1981年にはイトーヨーカドーが「カットプライス」、1984年にはジャスコ(現在のイオン)が「シンプルリッチ」をそれぞれプライベートブランドとしてスタートさせており、これが現在のスーパーやコンビニのプライベートブランド政策に繋がっている。

 

 

現在の2大プライベートブランドといえば、セブンHDの「セブンプレミアム」とイオンの「トップバリュー」であるが、イオンの「トップバリュー」は従来からの低価格政策をプライベートブランド商品に求めているのに対して、セブンHDの「セブンプレミアム」は価値のある商品開発と値ごろ感を踏まえた販売政策をとっており、コンビニがメインの販売ルートということもあるが、高付加価値提案により、単価アップと利益確保を図っている。

次の質問は、日本におけるプライベートブランドのパイオニアであるダイエーの「家電」の販売施策についての問題である。

 

Q1: 日本におけるプライベートブランドのパイオニアであるダイエーは、ナショナルブランドメーカーに対抗するために、「食品」「日用品」「衣料」「ビール」「家電」と様々な商品分野でプライベートブランドを開発し、それを安売りすることで、「価格破壊」を実践してきた。その中でも、ひときわ話題になったのは、一般消費財の中でも金額単価が大きい「家電」のプライベートブランド商品である。

ダイエーは当時家電業界の盟主である松下電器(現在のパナソニック)と価格問題で激しく対立しており、それに対抗するために、電気メーカークラウンの協力を得て、13インチのカラーテレビのプライベートブランド商品「ブブ」開発し、当時としては画期的な低価格である59800円で発売し、好評を博した。そして、その後も「ブブ」ブランドを扇風機等に広げて拡販を図った。

しかしながら、現在の日本におけるプライベートブランドを見ると、「食品」「日用品」「衣料」等はいずれも成功し、多くの小売店で採用されているが、「家電」についてはプライベートブランド化が進んでいない。その理由について、次の中から正しいものを選んでほしい。

 

 

 

 

①「食品」「日用品」「衣料」等のプライベートブランド商品は製品企画に費用があまり掛からないが、「家電」はオリジナル機能を搭載するための製品企画に費用が掛かるため、プライベートブランドを作っても利益がでないからである。

 

②「食品」「日用品」「衣料」等のプライベートブランド商品は製品開発に時間はあまり掛からないが、「家電」は独自性を出すための製品開発に時間が掛かるため、プライベートブランドを作くるのに手間が掛かり過ぎるからである。

 

③「食品」「日用品」「衣料」等のプライベートブランド商品は消費者に対しては売り切りであるのに対して、「家電」は販売した後もアフターサービスが必要であり、その為の体制整備や維持コストが必要となり、手間と費用が掛かり過ぎるからである。

 

 

A1:正解は③である。

「食品」「日用品」「衣料」等は消費者に対しては原則売切りであり、販売後の手間や費用はほとんどかからない。一方、「家電」のプライベートブランドは販売した後も当然のように顧客フォローやアフターサービスが求められる。顧客問い合わせに対応した相談修理体制の構築や修理に必要なサービス部品の長期保管が必要であり、製品事故に備えて品質管理の窓口要員も配置する必要が生じる。大手スーパーといえども、販売が本業であり、メーカー機能を持ち合わせてはいないので、そもそも課題が多すぎる。もともと業界が異なり、販売店がプライベートブランドを取り扱い、その為にメーカー機能を保有するのは合理性に欠けるのである。

最終的に、ダイエーも「家電」のプライベートブランドの商品化を諦め、ナショナルブランドの販売に方針を切り替えた。他のスーパーもプライベートブランド化には追従しなかった。現在は、大手の家電専門店で、メーカーブランドはそのままにして、自社店舗だけで取り扱うオリジナル製品として「ストアブランド」という位置づけで販売を行うケースはある。しかし、家電品のプライベートブランド商品はほとんど取り扱うことはない。