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みきおの夏休み(旧軍艦島図書館)

カブトムシに霧吹きでヤクルトを吹き掛ける クロマキーお姉ちゃんと 従姉のみきおの話や

壊れた日記という 短いエッセイを書いてますよ

【ある本屋でのあらすじ】

「あのー、みきおの夏休みって言う小説ありませんでしょうか?…」


「ええ、なにか朝五時に夕焼けチャイムが鳴って、それで従姉妹の方に無理矢理自転車でおじいさんの家に行かされる話らしくて… 」

「はい、はい、私も知り合いから聞いてよくは解らないんですが、子供の冒険小説みたいなんですが…」

「あ、プレゼントじゃなくてですね、知り合いの女性が読んでるらしくて、ちょっと興味が沸きまして…」

「え?… い、いやいや、そういう訳じゃなくて、ただ単に読んでみたいなぁ…と…」

「あ、はいはい、多分これです… あ! これ最新刊じゃないですか…あ、あの…できれば一巻から…」

「え?… 最新刊はほとんど本筋とは関係ないから大丈夫だ?… …あんた貧乏そうだから一冊だけ買えばいいだろう?…」

「そ、そんな貧乏そうに見えますかね?… 頼り無さそうとはよく知り合いに言われますが…」
「あ、あのもし一冊だけ買うにしても、一巻から買いますので…」

「 え?…なら図書館で一巻は借りればいいだろう?…」

「な、なるほど…あ、でも図書館とか行くとぼくの知り合いに「根暗かよ!根暗な貧乏が冷房目当て通っているのかよ!」とか言われるので…」

「え?…そ、そんな事は無いですよ! 口調は確かに荒いですが!基本的には優しい人です!青いスカジャンがとっても似合いますし!」


「え?…最新作は…鯉のぼりに乗った二人の少年が再び冒険に出る話?…」

「そして謎の巨大鯉のぼりと擦れ違い、祖父に弟が出来たと突然告げられる話!?…」

「な、なんですそのすっとんきょうな話は…」


「え?…だから最新刊を買ってけ?…」

「これだけ説明したんだから五百円多目に出せ??……」

「え?!…え?!…そんな仕組みなんですか?…」

「さっき貧乏そうな人だって言ったのに多目に取るんですか?…」

「え?…高いならもっとあらすじを教えてやろうか?…」

「あ、あ、なら良いです! また次の機会にします!」

「これから映画の待ち合わせで時間が無いんで!」

「え?…待ち合わせはいつだ?…」

「に、2時ですけど」

「え?…まだ三時間もあるじゃないか?…」

「あ、でも二時間は待ち合わせ時間よりも先に着かないと…」

「あ、だ、だからすみません! あ、あ、そんな早口であらすじを言われても困ります!」

「こ、困りますってっ!!」


……………………………………

【大漁旗名人・稲尾新吉郎】


「じ、じいちゃーんっ!…その鯉のぼりはなんなんじゃああああああああ!?!?」


「ガハハハハ!蜃気郎かぁああ!?…これはお祝いじゃあ!…お前の弟ができた祝いじゃあ!」

祝いじゃあ!祝いじゃあ!祝いいじゃあ!


「えっ!!!???」

「えええええっっ?!?!」


……………………………………


【満月の夜に家族は増える】


ビュフリー!ビュフリー…ュフリービュフリー!…ビュフリー!

「お前の弟ができた祝いじゃあ!…祝いじゃあ!」


擦れ違いに聞こえて来た祖父の言葉が…

蜃気郎の頭に何度もこだまする

キシュ…シャン!…キシュ…シャン!…キシュ…シャン!

謎の鯉のぼりは反対方向に消え去っていく

「なんじゃ!お前、弟が生まれたんか!おめでとう!わしゃあ末っ子中の末っ子じゃけ、ちょっと羨ましいわ!」

なぜかテンションが上がっている絶対止助。


「…………」


(た、確かにお母ちゃんはチョーリョー町の病院に入院したが…)

(虫垂炎かなんかじゃ言うてなかったか?…)

(第一、そないにお腹が大きゅうなってたか?……)


「名前は新吉郎はんがつけるんじゃろか?…シンキチロウ、シンキロウと来てるから次はシンロウじゃろか?…なんぞ新郎新婦みたいじゃ!あははは♪」


「……………」

(仮に本当に赤んぼができたとして…)

(なんでワシに言わなかったんじゃ?…)


(…は!?…いや…待てよ…そういえば前に母ちゃんに……)

(…弟か妹…欲しないか?…聞かれた事があったぞ…)

(しかし…そん時は確か「いらん!」言うた…)

(今は焼き大福が欲しい!…言うた…)

(そん時、チョーリョー町に「焼き大福屋」言うんができて、それが食べてみたかったんじゃ…)

(あ、あん時か?…)

(あん時の母ちゃん…)


(悲しそうな顔じゃった…)

(悲しそうに…こいつあかん…言う顔をしとった…)

(そんでその日の晩飯は…)

(焼き大福一個だけやった…)

(…わしゃあ喜んで焼き大福食べてたが……)

「…あん時か!?!?……」

絶対止助がびっくりする

「なんや急に叫んで!…あん?あん…ってアンコのことかいな?…」

「あん時や…」

「アンコと言えばチョーリョー町に焼き大福屋言うんが…」

「あん時のせいじゃ…あん時のせいで弟ができたんを教えてもらえんかったんじゃ」

「わしゃあ焼き大福言うもんを一度食べてみたいんじゃ」

「なんであん時あんな事を言うたんじゃ…」

膝から崩れ落ちる蜃気郎


その時だった…

ピシャッ!…と蜃気郎に雨が当たり…

自動にまぶたが閉じる

キシュシャン!キシュシャン!

キシュシャン!キシュシャン!

「…あっ!?…」


ビュフリフリーーっ!!

ビュフリフリーーっっ!!


雲を蒸気機関のように吐き出し

目の前にもう例の鯉のぼりが来ていた!

ピュイーーーーッッ!!!

蜃気郎が鳴らしたような口笛が闇夜に跳ねる

鯉のぼりにまたがった新吉郎が叫ぶ

「ガハハハハハハハ!おーい蜃気郎!さっきの話しじゃがなぁぁー!」

じゃがなぁ!…じゃがなぁ!

「…え?……」

「種付けの蒸五郎(むしごろう)がなぁ!!」

蒸五郎がなぁ!…蒸五郎がなぁ!

(絶対止助のお、おやじさん?…)

「末っ子を口減らしにうちに養子に出したんじゃあ!…」

出したんじゃあ!…出したんじゃあ!

「…えっ!?!?…」


「…じゃから…絶対止助が今日からお前の弟じゃ!ガハハハハハハハ!」


ガハハハハ!…ガハハハハ!

「…え?!……」

「えええっ!?!?……」

フゥオンッ! フゥオンッ! フゥオンッッ!!


謎の鯉のぼりは…こだまだけ残し過ぎ去って行く…。


ビュフフリーー!!

ビュフリフリー!!





絶対止助の方を…

おそるおそる見る蜃気郎…。


「………」





穏やかな…


お地蔵様みたいな顔をしていた…。

「…っっつ!?!!…」

なぜか蜃気郎が早口で喋り出す。

「じ、じじいのヤツ、また適当な事を言うてるに違いないわ!」

「………」

「も、もし本当じゃとしても、嫌なら断りゃいいんじゃ!」


「…大漁旗名人の…お孫さんにになれるんじゃ…光栄な事じゃ…はははは…」

そう笑う絶対止助の顔は…

顔の表面が削れたお地蔵さんみたいだった。

「絶対止助…お、お前…」

「お、お年玉言うんを…一回もらってみたかったんじゃ…ハハハ」

「お、お年玉くらいわしがあげるわい!毎月あげるわ!」

ぐっ!…と…絶対止助を抱き締める蜃気郎…。

「…あ、ありがとう……」

「ありがとうやないわ!」

「……義兄さん…」

「…えっ!?……」


……………………………………


【まぶたは心のシャッターか?】


絶対止助達とは対照的に…

鯉のぼりは

初めて見る他の世界に!

初めて見た仲間に!

昂っていた!

鼻血がツーッと流れた。

ロープに繋がったまま

鯉スキップした!

足元がグラングラン!と…揺れた!

「わわわわっ!」

鯉のぼりは尻から息を吸って

初めて口笛を吹いた

ブフォー!!

ブフォー!!

唇をすぼめられず

割れたホラ貝みたいな音が響いた


ホラ貝を聞いた三日月谷の落ち武者達が…

ビクっ!と肩をすくめた。

まだ応仁の乱が終わった事を知らず…

先祖代々ずっと隠れているのだ。

恥ずかしながらずっと隠れているのだ。

落ち武者達が危険を知らせる狼煙が上げる。

狼煙が鯉のぼりの目に入る。

「ギイイイイイイ!!」

煙が目に染み涙が落ちる

涙が落ち武者のハゲにピチョリ!と当たる!!


蜃気郎の目に煙が沁みる

「ゲホゲホゲホっ!!なんやこの煙っ!」

「山火事か!?…山火事なんか!?…」


慌てる蜃気郎をよそに…

煙で目が染みても…

決して鯉のぼりは目をつぶらなかった…

ずっと山で吹きっさらしだった鯉のぼりは…

どんな嵐が来ようとも…

どんなに雪が降ろうとも…

雨上がりの紅葉が…

ベッタリ目にくっついていても…

けして目をつぶらなかったた!

それが彼のプライドだった!


ただ単にまぶたがなかったからだ!

鯉にまぶたなんか最初からないからだ!

まぶたが欲しいなぁと思った!

新吉郎さんに作って欲しいと思った!

新吉郎さんは優しかった!

優しくチクチク仮縫いしてくれた!

綺麗なマチバリをチクチクつけてくれた!

そういえばさっき新吉郎さんの声が聞こえなかったか?…

変な布の魚に乗ってた!

新吉郎さん!

新吉郎さん!

…と思ったか知らないが…

鯉のぼりは再びスピードを上げた!

三日月山の傾斜をグンッ!と滑り!

赤錆山の断崖絶壁を再び昇っていった!

ズサザザザザザザザザっーー!!!

「べ、べ、ベラメソマッチャンケぇぇええーーー!!」

もはや断崖の赤ダニもあらかた落ちきってしまい

赤い滝はシラタキのようにチョロチョロだ…。

ザリッ!

ザザザ…ザリザリザリザリ!!

ザザザ…ガッ!!…ガガガッ!

鯉のぼりの身体が剥き出しの岩場に擦れ…

鮭の遡上みたいに布がボロボロになっていき…

鍋つかみで作ったウロコがポロポロと谷底に落ちていくが…

それでも鯉のぼりは昇っていく!

「うわ!うわうわっ!無理すんな!身体がズタボロになっちまう!!…」


ガタガタガタガタガタガタ!!

「痛っ!…せ、絶対止助、大丈夫か?…」

絶対止助の顔色を覗く蜃気郎…


「あっ!!」

しかし絶対止助は…

表情が無くなっていた…

「だ、大丈夫か?…顔、岩に削れたんか?…」

感情が大根おろしされてしまったのかもしれない…。


ズサザザザザザザザ…ガガガッ…ザサササー!!

ブワッッ!!

「あっっ!!」

赤い月に引き寄せられて

鯉のぼりは赤錆山の絶壁を再び飛び越えた!


夜風が踊る!

ビュフリフリー!!

夏の夜桜が舞う!

桜吹雪の螺旋を鯉のぼりがくぐる!

桜螺旋の間から學校が見える

屋根の上では…

制服の女子生徒が…

傘を脚に鋏み…

長い黒髪を…

口にくわえていた髪留めらしきもので…

キュッ!と束ねる



鯉のぼりが再び最高点に到達し

瞬間、空中に停まる…



校舎はやはり地面からちょっと浮いて見える。



「頭を隠せっ!!」

絶対止助の身を守る

鯉のぼりが重力の限界点に入り…

「わああああああーー!!」

真っ逆さまに落ちて…



…いかなかった…

「え?…あ…れ?…」


グンッ!!

グゥオオオオオオー!!

なぜか校舎に方向を変え

桜吹雪の螺旋をくぐりながら

中學校の方にそのまま突き進んでいった!

「…わあああああーー!!」