第38話 師弟 | ホークスを世界一に! 孫正義の21世紀革命2005

第38話 師弟


第38話


師弟






 孫泰蔵は、兄・正義を尊敬している。「父親のような存在でもあり、師でもある」。正義はアメリカ留学から一時帰国したときには、幼い弟にいつもお土産をどっさり買ってきた。太陽電池の電卓や英語の本、ミニチュアのロケットなど。泰蔵は大喜びでそれらの玩具で遊んだ。

「おもしろくて仕方がないから、キャーキャー言いながら遊んでいたんでしょうね。英語の本も意味がわからなくても、発音を兄に聞いたりして、知らないうちに覚えた」

 すると兄は「おまえは天才だ!」と褒める。幼い子はさらに上達する。

 兄の正義は言う。「電卓などで、弟には指先の感覚を覚えさえたかった」。

 父母や兄たちから愛情いっぱいに育てられたが、自我に目覚めた泰蔵は思った。「兄は特別な才能をもった宇宙人だ。兄のようにはなれないから、ぼくなりの道を見つけなければいけない」

 東京大学に進学後、ヤフーのジェリー・ヤンと意気投合した泰蔵は、独自の道を切り拓いていくことになった。



 7月23日(土)。オールスター第2戦、6回。ジョー(城島)が球場をわかせた。巨人・工藤が投げた0-1からのカーブに城島は笑みを浮かべて「そりゃないよ」と言わんばかりに手招きをした。工藤はニヤツと笑って3球目、ストレートを投げこんだ。その一球を城島がフルスイングするとボールは左翼席に吸い込まれた。城島はガッツポーズをしながらグラウンドを一周、ヘルメットをとって工藤に最敬礼をした。「工藤さん、ごめんなさい。ありがとうございます」。

 打撃は天性のものをもっていたが、捕手としては未熟だった城島を育てたのがダイエー時代の工藤だといっていい。城島のサインには一切首をヨコに振らず、打たれ続けた時期もある。なぜ、打たれたのか、工藤は理詰めで説明した。配球の奥深さを体得した城島は、いまや球界を代表するナンバーワン捕手に成長した。

 ホームランを打った城島の笑顔、現役最年長で、直球140キロで真っ向勝負をした工藤。この師弟対決はすがすがしく、胸が熱くなった。歴史に残る名勝負となった。



 7月26日(火)。対オリックス戦。先発は斉藤。

先制点を許したが、6回にバティスタのソロホームラン。7回、松中の34号、3ラン。5-3。斉藤は10勝。後半戦を勝利で飾った。

 この日、宇宙飛行士・野口聡一らを乗せたスペースシャトルが打ち上げに成功した。新たな歴史の始まりである。

(文中敬称略)